第114話 卒業課題4
「おはようございま~す」
「あら、あら、あら、あら。よく来たわね。座ってちょうだい。お茶をいれるわ」
魔法練習場の管理人であるカーシャ先生が、快く迎え入れてくれた。
「今日は、魔法の練習をしたかったんですけど……。ダメですね……」
練習場の中には新入生の姿があった。魔法の練習ができるのは十人という決まりは、変わっていないようだった。結界の外で見学している姿もある。
「あの子達なら、すぐにいなくなると思うわよ。それまでお茶にしないかしら?」
「こんなことなら、おやつ持ってくればよかった~」
「あら、あら、あら、あら」
カーシャ先生が、大きなティーポットをガザゴソと取り出す。紅茶の茶葉を適当にいれると、『熱』と『水』の魔方陣を描いた。
出現した水が瞬時に温められて、湯気を立ててポットに降り注ぐ。いい匂いが香ってきた。
「ところで、あなた達、課題はどこまで進めたのかしら?」
「今、卒業課題です。カーシャ先生のころも、ワイバーンでしたか?」
カーシャ先生が懐かしむような目をした。
「そうよぉ~。黒くて飛ぶのよね~。ホント、嫌になっちゃうわ~」
その当時のことを思い出したのだろうか。眉間にシワを寄せた。
「どうやって倒したか、覚えてますか?」
「あら? どうやって倒したのかしら?」
カーシャ先生は、「う~ん」と悩みはじめる。しばらく無言だったが、急に「あぁ!!」と声を上げた。
視線が集中すると、慌てて手のひらで口をおおう。
「なんの魔法で打ち落としたんですか?」
カーシャ先生は、「新学期始まったばかりよね……」と呟く。
「…………あら、あら、自分達で考えるのね~」
「えぇぇ~!!! 教えてくださいよ~!」
魔法練習場でお茶を飲んでいるのが日課のカーシャ先生でも、エインスワール学園の先生である。学生にヒントは出せないなどと言うのかと思ったのだが。
「あら、あら。いやよね~。まだ早いわよ。今教えたら、特別課題まで合格しちゃうじゃない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もしかして、まだ、ニーナを後継者にしたいって思ってますか?」
出会ったときから、ニーナを魔法練習場の後継者にしたがっているのだ。
「あら、あら、あら、あら。当たり前よね~」
魔法練習場に張り巡らされた結界の維持には、大量の魔力が必要だ。そのため、魔力の多いニーナに目を付けたていたのだが。
卒業課題は、学園を卒業しエインスワール隊に入隊するための試験。特別課題は、エインスワール隊のなかでも特別な、エースパーティになるための試験。エースパーティには、今の班のメンバーでなれる。
エースパーティになれば、ニーナが魔法練習場の管理人になることはない。
カーシャ先生としては、卒業はしてほしいが、エースパーティになっては欲しくない。
「教えてくださいよ~」
「あら? あと二~三回、挑戦しても倒せなかったら、教えてあげるわ」
「カーシャ先生~!!」
何度か頼んでみたが、カーシャ先生はニコニコするばかり。
遠くから、話しかけてよいものかとこちらをうかがっている新入生が意を決して声を張り上げた。
「ありがとうございました~」
結界の中には、誰もいなくなった。
「カーシャ先生が教えてくれないなら、いいですよ~だ。私たちは私たちのやり方で、ワイバーンくらい倒して見せますから」
まずは『身体強化』でどこまで高く飛べるかだ。
垂直に飛び上がってみると、身長の3倍くらいは飛び上がれた。この高さでは、『身体強化』なしで着地すると足を痛めてしまいそうだ。『身体強化』を掛けっぱなしでは、『風刃』の飛距離が短くなる。大空を行くワイバーンに当てるには、素早い魔法の切り替えが必要だった。
飛び上がって『風刃』の魔方陣を描き、落ちているときに『身体強化』に切り替えたが、ギリギリすぎて着地に失敗し、地面を転がった。
「わぁ~!!」
「ニーナ!! 大丈夫!?」
レインが駆け寄ってきて、ニーナを助け起こす。
「こんな感じか?」
ユージが、『風刃』の魔方陣を手元で作り出して、それを遠くに飛ばす。魔方陣は少しずつ小さくなっていく。
「風刃!!」
ユージが魔法を発動した。いつもの『風刃』よりも迫力がない気がする。スピードが遅いのだ。
「ワイバーンまで、届かないな」
「あら、あら、あら、あら。あなた達、飛んでいるワイバーンを狙うつもりなのかしら~」
カーシャ先生はニコニコとしていて機嫌がいい。この方法ではワイバーンを倒せないと思っている様子だった。
鼻歌混じりのカーシャ先生を見ていると悔しくて、何が何でも飛んでいるワイバーンを打ち落としてやろうと心に決める3班だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます