第113話 卒業課題3
「ごちそうさまでした~。さて、図書館だね」
朝食の食器を片付けると、イアンが「よし!」と気合いをいれる。
「あれ? 図書館ですか?」
スワンが「珍しいですね」と不思議そうにした。
ダンジョンから帰ってきた翌日は、体力回復に当てていることが多い。気合いをいれて図書館に行くなんて、何があったのかと気になってしまったらしい。
「ワイバーンまで魔法が届かなくて、一度帰ってきたんだ。作戦を練らないと」
戦力的撤退のつもりだ。次の挑戦では、ワイバーンを倒さなければならない。
「上空を飛んでいるのは見つけたんだけどね」
「本当に、すごい高いのよぉ。信じられないわよねぇ~」
「3班でも、ですか?」
魔力量の多い3班は、今までの課題のほとんどを力業で乗りきってきたのだ。
難しい顔で、それぞれ頷く。
「地面に降りているところを狙うか、遠くまで魔法を飛ばすか……。方法を考えないと」
「そうなんですか……。僕たちも考えておいた方がいいですよね……、マシューに話してみます」
1班は課題の進みが遅く、日程に余裕があるわけではない。3班のようにもう一度出直すとなると、かなり厳しくなってくる。
スワンはマシューを探しにいってしまった。
「じゃあ、行くか」
食器を片付けて、図書館に向かう。
一年中ヒヤッとしている部屋に踏み入れると、古い書物の匂いに包まれた。
「魔法についての棚だよね……」
魔物については何度も調べに来ているが、魔法については入学したころ以来だった。
「前に借りた本は、あそこに~」
イアンが歩み寄った棚の一番下には、見覚えのある魔法の図鑑が鎮座していた。
「この図鑑は全部みたよね」
「もう一回確認してみるか。他にも、手当たり次第調べるぞ」
イアンが図鑑を手に取った。他のメンバーもそれぞれ本に手を伸ばす。
「ん~」
「これは、知ってる……」
紙をめくる音だけが響く。
魔法の基本は十種類。その中でも『身体強化』『防御』『浄化』『回復・治癒』の魔法は魔方陣が複雑で、アレンジがしづらい。他の六種類を組み合わせて使って、攻撃魔法としているのだ。
「野営のときに、役立つ魔法? …………これ、美味しそう」
「なになに? フルーツをカットして、『冷』の魔法をかけてアイスを作る……。簡単だな」
「これは?」
「一人でテントが建てられる!! 『浮遊』の便利な使い方!?」
「『浮遊』か……。『身体強化』で何とかしてたな~」
便利魔法は次々と見つかる。
「これなら!?」
レインが分厚い本を示している。皆が見やすいようにテーブルの真ん中に移動する。
「どれどれ? 武器と魔法を組み合わせて使う方法? 弓か?」
「そう。『身体強化』で思いっきり引き絞っても壊れない、丈夫な弓が必要だけど。矢を射たら、さらに『風』の魔法で矢の速度を安定させれば、遠くまで飛ぶかも」
「いいねぇ~!!」
「弓って、かっこいいわよねぇ~」
ニーナとカレンが歓喜の声を上げた。
「良い案だけど……。弓の練習が必要だよな? 間に合うか?」
「弓って、難しいよね? 剣だって、素振り、たくさんしたもんね」
ミハナとイアンは、本を覗き込みながら苦言を呈する。
特別な大剣を使っているニーナは、扱えるようになるまでかなりの時間がかかった。
ユージが眉間にシワを寄せる。
「うちには弓があったんだよな。たぶん、父さんのものだと思うけど。シカでも仕留めようと思ったんだろうけど、うまくいかなくて放置してあったんだ。すぐに理想的な弓と矢が手に入ったとしても、練習は五日間しかできないだろ? さすがに、厳しいんじゃないか?」
「五日間、だもんね……」
「ニーナは、大剣、何日くらい振ってたっけ?」
「一年くらい? 今でも素振りは欠かせないけど」
「だろ~? 」
「弓はきびしいかぁ~」
「でも、普通に魔法を発動するだけじゃ、届かないよ」
「『身体強化』で高く跳ねてから、『風刃』で届かないかな?」
「魔法の発動をスムーズにやらないと、落ちそうだね……」
『身体強化』で高くジャンプし、『風刃』で飛んでいるワイバーンを正確に狙い、また『身体強化』を発動した状態で着地する。
シャンプするタイミングも重要だ。一番てっぺんで、ワイバーンとの距離が一番近くなるように跳ばなければならない。
ワイバーンに気づかれて、逃げられる可能性だってある。
それぞれ、やることを想像したのだろう。「う~ん」と悩ましい声が上がる。
沈黙が支配した。
悩みながら口を開いたのは、ユージだ。
「なぁ、イアンのお兄さん達って、どうやってワイバーンを倒したんだ?」
「え?
イアンは、便箋や封筒をとりにいった。
「ねぇ、ちょっと、難しくてよくわからないんだけど、これって使えないかな?」
ミハナが、細かい字で書かれた本を差し出した。
「なになに? 魔力と魔方陣の関係??」
「うん。魔力を込めれば魔方陣が大きくなって、魔法も強くなるでしょ。それ以外にも、魔方陣までの距離と魔力が関係するんだって」
「ん~。魔方陣の維持にも魔力は使われているから、遠くに作ると余計な魔力がかかるって理論か?」
「魔方陣は近くに作った方がいいってこと?」
「普通はねぇ~。逆に魔力にものを言わせて、遠くに作った
ら、ワイバーンまで届かないかな?」
「やってみるか。あと、ワイバーンについても調べるぞ」
魔法に関する本が積み上げられているテーブルの上に、魔物の本を追加していく。
少しでも役に立つことはないかと、夕方まで本をめくっていた。
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