第112話 卒業課題2
叩き起こされたニーナは、眠い目を擦りながら朝食を胃に納める。テントをしまい、台車にのせると12階に下りてきた。台車をどこかにおいておければいいのだが、魔物に壊されることがあるので押して移動するしかない。『浮遊』の魔法で浮いているので、地面の凸凹に引っ掛からないことだけが救いだ。
「さて、探さないと」
「さすがに、見えるところにはいないかな」
レインも小さく首を振った。
ワイバーンは飛ぶことができるとはいえ、常に飛んでいるわけではないはず。たまには地上に下りていると思うのだが、レインの能力では、魔物の区別ができない。
魔力の大きい小さいはわかるので、大きな魔物か、小さな魔物かの区別はなんとなくわかるのだが。
「一度見たのは、あっちのほうだったよね」
ミハナの言葉に、イアンが同意する。
「そう。湖の上だったよ」
「行ってみるか」
簡単に手書きした地図を確認しながら進む。走った感覚で書いているので、少し方向が違うこともある。地図では近く見えても、実際は遠い、なんてこともある。
3班にしか使えない地図だ。
しばらく行くと、視界が開けた。ダンジョン内だというのになみなみと水を蓄えた水面が、光を反射して輝いている。湖の先には小島が見えていた。
「いないね~」
前にきたときには、空の高いところを悠々と飛んでいたのに。
「近くに巣があるって訳じゃないのかな?」
「あっちに魔物はいるけど、行ってみる?」
レインが、湖とは反対の方向を示した。
「巣で眠っているのだとしたら、ラッキーだよな」
地上戦に持ち込めれば、こっちが有利。さらに、眠っていれば、不意打ちで攻撃もできる。
淡い期待から、音を立てないように気を付けて進んだ。
「この先だよ」
レインも小声だ。
ガサガサ、ガサガサ
枝葉を掻き分けると、茶色い巨体が現れた。
「なんだぁ~。ツノイノシシかぁ~」
ニーナが、落胆の声を上げた。
その声に、ツノイノシシは鼻息を荒くする。
「倒しておこう!」
何度も倒した魔物だ。流れるような連携で倒すと、探索を再開した。
空を見上げて探しながら、レインの魔力探知で魔物も探す。
一日中探し回っても、ワイバーンを見つけることはできなかった。
ダンジョンに入ってから三日目。森の中にいるとき、急にレインが空を仰いだ。
「あっち!!」
木々の枝葉が折り重なってよく見えないが、空を飛んでいる魔物を発見したらしい。
飛ぶ魔物は珍しいから、おそらく、ワイバーン。
レインの魔力探知を手がかりに、ワイバーンを追っていく。
森の中では、足をとられて上手く進めない。特に台車が邪魔だ。木の幹だけではなく、垂れ下がった枝にも引っ掛かり、まっすぐ進めない。
仕方がなく回り道をしながら追いかけていく。
「あぁ~!! あぁ~!!」
レインの情けない声が響いた。
がっくりと肩を落とすレイン。魔力探知の範囲を外れてしまった。
そのまままっすぐ進んだ場所を探してみたが、湖に出てしまった。
四日目、もう一度、湖に行ってみた。
昨日、レインが見失ったのが湖の近くだったから、通り道なのではないかと思ったのだ。
「いないね~」
「ちょっと、待ってみるか?」
ワイバーンの通り道であれば、現れるはず。
上空から丸見えにならないように低木の下に潜り込む。そのままじっと待っていると、昼を過ぎたころ、レインがガバッと空を見上げた。
「来た!!」
焦る気持ちを押さえて、近づいてくるまで息を殺す。
「よし!!」
木の下から這い出して、急いで魔方陣を展開した。
「風刃!!」
真空の刃が向かっていくが、ワイバーンに届く前に、空中で霧散した。あと少しが届かない。
「雷!!」
稲妻は、どちらかというと地を這っている。
「届かないよ!!」
高い空を見上げる。
ダンジョンの中を、下へ下へと来ているはずなのに空が高いことが不思議だ。空のような見た目の天井があって、そのギリギリのところを飛んでいるのだろうか?
ワイバーンは大きな翼を広げて、湖の上を渡っていく。
「あぁ!! 逃げられる!!」
湖の向こう側に消えていった。
「無理~!!」
「もう少し、遠距離の攻撃を考えないと厳しいな」
「図書館行っったら、なにかヒントがあるかな?」
「魔法練習場で新しい魔法を考えるか」
「あぁ~!! ちくしょ~。一度、帰るかぁ~」
くやしがる声が響いた。
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