第111話 卒業課題1

 沼の中から這い出したクロコダイルを一撃で倒す。


「アイツら、どこまでついてくるつもりだろう? ってか、こんなときに、よくクロコダイル狩りなんてできるな?」

 往路はいつも一緒に行動するようになっているマシューが、眉をしかめて後ろを振り返った。


 ギリギリ姿が見える場所から、こちらを窺う上品な身なりの男性が二人。


「さぁ~。持ち物も少ないし、軽装だし。途中までしかついてこれないと思うけどね」

 イアンはどうでもいいといった感じだ。



 ダンジョン事務所についたとき、ビシッとスーツを着こなした紳士に出くわした。

「このなかでレインというのは、どいつだ?」

 どこか見下した態度で、3班のメンバーを順番に見る。

「オレですけど……」

 小さく手を上げたレインは、怪訝そうに男達を見た。


「お前か!! 犯罪者予備軍が!! 普通に生活しているなんて、けしからん!!」

 3班のメンバーから殺気がたち、身を隠しているカイト先生とバルド先生が事務所に駆け込もうとした。事務所のお姉さんも止めようと腰を上げる。


「おじさん達、何を知っているのかわかりませんけど、レインはいいやつですよ。レインの魔力食いのことをいっているんだら、それはおじさん達、視野が狭すぎですよ」


 こういうときに動じないのは、マシューだ。班のメンバーでない分、冷静に言葉を発せられた。


「なぁ~にぃ~!! お前、こいつとは関係ないだろ!?」

「関係ないことはないですよね? レインとは班は違いますが、友達ですから」


「魔力食いが、人を殺しているのも事実!!」

「魔力食いじゃなくても、犯罪を犯す人は犯しますよね? 魔力食いってだけで一纏めにしているおじさん達は、視野が狭いっていっているんです。レインはオレらにはない能力があります。その代償に魔力を必要としますが。それって、支え合えばいいことなんです。大人のおじさん達が、そんなこともわからないんですか?」

 みるみるうちに青筋が浮かぶ。

「大人をバカにしてるのか!?」

「バカになんてしていませんよ。友人を犯罪者扱いされるのが、気にくわなかっただけです。子供のざれ言として、流してください。お姉さん、もう持ち物チェックできましたか? 通っていいですか?」

 お姉さんんが持ち物をチェックしたとは思えなかったが、信頼もあったのだろう。通り抜けようとする3班と1班を、事務所のお姉さんは止めなかった。


 おじさん達は、冒険者の資格も持っていたらしい。その後すぐにダンジョンに入ってきた。しかし、あの服装で、荷物も持っていない。どこまでついて来るのだろうか。


 二匹目のクロコダイルを軽々と倒したニーナは、気にしていない様子。

「だって、食料は重要でしょ~。好きにさせればいいよ」

「どこまでついてくるか見物だな」

 事務所では殺気立っていた3班が、今は面白がっている。


 切り替えの早さも、3班のすごいところだ。圧倒的な強さが余裕に繋がっていることは、回りから見れば一目瞭然。本人達は気づいていないが。


 クロコダイルにナイフをいれた。脂がのった尻尾の部分と、比較的あっさり食べられる腕や足の部分を切り出す。

 すぐさま『凍結』の魔法をかけて、台車にくくりつけた箱の中に突っ込んでいく。

 最後にクロコダイルからとれた、小さな魔石を箱にセットした。


「それって、食べるんですよね? なんの箱ですか?」

 スワンが覗き込んでくる。

「これ? 新しい魔道具買ったの。これまで頻繁に『凍結』の魔法をかけ直していたから、溶けたり凍ったりで味が落ちていたみたい」

「この魔道具は、ずっと凍らせておけるんだって。このほうが旨いって聞いたから、楽しみなんだ」

 そんな理由で、こんな状況なのに、1班まで付き合わせて、クロコダイル狩りにきていた。


「バーベキューセットみたいなものも、持っているのか?」

 マシューが台車を覗き込んでいる。

「少しだけね。基本は魔法で何とかしているの」

 鉄板を魔法で熱くして焼くスタイルだ。

 ソワソワしているマシューに、ユージが笑いかけた。

「分けてやろうか?」

「ホントか? そりゃ………………ダメだ。鉄板、もってない」

「うちも一枚しかもってきてないからな~。貸してやれないな

。じゃあ、次にダンジョンにきたときは、分けてやるよ。一応、少人数用の鉄板も売ってたから、各自焼くことはできるぞ」

 1班は卒業したいという利害が一致しているから、一緒にダンジョンにきているだけで、仲のいい班ではないことはわかっている。

「そっか、次までには考えてみるぞ!」

 クロコダイルが美味しいことはわかっているので、1班全員が考えているようだ。





「じゃあ、この辺で。いつも悪いな」

 11階に入ると、自然と立ち止まる。


 おじさん達は、いつのまにかいなくなっていた。

 学園生のスピードについてこれなかったのだ。


「あっちのほうに魔物が多いよ。明日になったら移動しちゃうと思うけど」

 レインが、左の方向を指差している。

 いつからだったのだろう? 最初の一体は、レインが教えるようになった。目的の魔物とは限らないが、1班はありがたく思てくれている。


「さんきゅー。お前ら、卒業課題だろ? 頑張れよ」

「ありがと~。何度か姿は見てるから、大丈夫だと思う」


「ワイバーンか……」

 黒い小型の竜で、大きな皮膜を張った翼を羽ばたかせて空を舞っていた。

「作戦は考えたんだけどね~」

 飛んでいるというのが、厄介なのだ。


 卒業課題が簡単なはずはない。一回の挑戦で倒せるとは思っていない。日程的にも余裕はあるので、戦略的撤退であれば構わないと思っていた。


「あっ、そろそろ行かないと、移動し始めてる」

 レインの指し示す方向が、少しずつ左に動いている。


「わかった。さんきゅー」

「頑張ってください」

「頑張れよ~」

 お礼を叫びながら魔物を探しに向かう1班を見送った。


 12階に一度降りて、様子をうかがう。ワイバーンの姿は見当たらなかったので、11階に戻ってテントを張った。

 ワイバーンを探すのは、骨のおれる作業だ。早めに休んで、早朝から動くことを決めていた。

 持ってきたパンと、クロコダイルの尻尾を取り出すと、手分けして調理して、楽しい夕食のひとときとなった。

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