第110話 ささやかなお手伝い2
3階までは、ほとんど魔物に遭遇しなかった。一度だけ、ラビットを倒して、その血抜きの間に、朝食を食べた。
夢中でサンドイッチにかぶりつく3班は、それぞれが自分のサンドイッチを食べているはずなのに、なぜか一体感があり、楽しそうだった。
1班はというと、いつも通り、それぞれ別の方向を向いて、黙々と口に運ぶ。
楽しそうには見えなかったのだろう。3班は、チラチラと1班のほうを見て、気にしていたようだ。
「そろそろ、出発しようか」
ユージが、食べ終わった包み紙をまとめて、片付け始めた。
「皆も行ける?」
ミハナが、1班のことを気使ってくれている。
「スワンは、大丈夫だよね~」
名指しされて、飛び上がった。
「へっ?? なんで僕だけ?? そりゃ、大丈夫ですけど……」
3班と行動できるようにと、『身体強化』の魔法は隠れて練習していた。こっそり走っていることは言っていないはずだが……。
町に遊びに行ったりするときも、3班についていけるようになっていたから、バレていたのだろうか。
「じゃあ、次の魔物は、スワンで!!」
走りながら、とんでもないことを言い出した。
スワンは飛び上がった。マシューが抗議の声をあげる。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った!! スワンは、1班の攻撃の要なんだ。魔力を温存させたい!!」
「大丈夫!! ポーション分けてあげるよ」
使った分の魔力は、ポーションで回復すればいいいということか。
「へ?? 結構、無茶じゃないですか??」
「いいから、いいから~」
「何が出ても、恨みっこなしね~」
「どんなものが出ても、僕が倒すんですか??」
「4階だし、大丈夫でしょ~」
「そんなこと言わないでください~!! 防御力の高い魔物とか、一人では厳しいですよ!! 例えば、エメラルドスネークとか」
「じゃあ、エメラルドスネークのときだけは」と、手助けしてくれそうな雰囲気になりかけたとき、目の前に鎌首をもたげた緑色の大蛇が現れた。
「でた~!!」
スワンが予告したからだろうか? 出てほしくないと思っていた魔物が出てしまった。
「スワン!! いけぇ~!!」
そう言われては、戦わざるをえない。
『雷』の魔方陣を描く。スワンを残して、他のメンバーは走るのをやめて、見身構える。
飛び出したスワンの姿をまっすぐとらえるように、エメラルドスネークが首を動かした。
「雷!!」
魔方陣から延びた稲妻が、バリバリと音を立ててエメラルドスネークを襲う。
怯んだように見えたが、一瞬のこと。口を開けて、長い二本の牙を剥く。
スワンは、もうひとつ魔方陣を描く。
「雷!! 風刃!!」
稲妻を追いかけるように、空気を圧縮してできた刃が向かう。
カツーン!!
高い音が響いた。薄緑色の鱗が一枚飛ぶ。
「風刃!!」
スワンは『雷』の魔方陣を消して、全ての魔力を込める。
カツーン!!
もう一枚、鱗が舞う。
「一枚づつって、埒があかない!!」
「スワン!! 援護してやるから、とどめさせ!!」
3班が、それぞれ魔方陣をつくって身構えている。
「嵐!!」
「雷!!」
「風刃!!」
吹き付ける風雨と電撃に動きを止めとところに、空気の刃が次々に向かっていく。
ガツン!!ザク!!ガツン!!ガツン!!
淡緑の鱗が舞う!!
「スワン!! いけ~!!」
なぜか、マシューの応援が響く。
自分は見ているだけなのに、一番大きな応援。
この、命令のような応援にも、イラッとしなくなっていた。
「いってやるよ!!」
捨て身ではない。
勝つための道筋は見えている。
『身体強化』でスピードをあげ、噛みついてくる大蛇を躱す。鱗がめくれたところに剣を突き立て、跳ね上げた。
「さっすが~!! スワン!!」
エメラルドスネークが地面に倒れる前に、ニーナが喜びの声を上げる。すぐに駆けつけた3班に取り囲まれてしまった。
「エメラルドスネークは、スワンのだな」
「えっ、皆、手伝ってくれたじゃないですか」
「俺ら、ブラックスネーク狙いだし~!!」
皆で分けるという案は取り合ってもらえなかった。
3班の解体作業のスピードは速く、気がついたときには、エメラルドスネークが売れる部分とそうでない部分に分けられていた。
その後の魔物は、3班が片付けてしまった。
11階へ行くという3班と別れ、1班は10階を探索し始めた。
別れ際に、「これやるよ」と、魔力回復効果のあるお茶を分けてくれた。
夕飯のときにそのお茶を入れた。
各自持ち込んだ携帯食を食べるという味気ない夕飯だったが、なんとなく丸く集まっての食事となった。
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