第109話 ささやかなお手伝い

 長期休暇が終わって、3つの課題をこなした。休暇中にも食べ物を研究していたので、ダンジョン内での野宿は順調。5泊くらいなら、問題ない。ダンジョンの研究も、念を入れて行っているので、5泊もあれば目的の魔物を倒すことができた。



 ガヤガヤとうるさい食堂の定位置。ニーナが、最後に残しておいたステーキの切れ端を、口に放り込んだ。

「明日は、朝一番で出発だね」

「朝食と昼食は、弁当にしてもらうように頼んだから、今日は早く寝て、明日に備えるぞ」

 課題は順調だったが、気を抜いていてこなせるものでもなくなっている。

 図書館での下調べに加え、会えた先輩に課題について聞くこともしていた。


 カイト先生は、担当教官としての立場上、ダンジョンや魔物について聞いてもはぐらかされてしまうが、町で顔見知りの先輩を見つけて聞くのは問題なかった。

 人脈も実力のうち。こんなところでも認められているのだ。


「なぁ、頼みがあるんだが」

 1班のマシューだ。時間はかかっているが、着実に課題をこなしていたはず。

 隣には、申し訳なさそうな顔をしたスワンがいた。

「嫌なら、断ってくれてもいいんです。でも、他には頼める人がいなくて、話だけでも聞いてくれませんか?」

「おい。スワン。お前ら、仲いいんだろ?」

 仲がいいなら、気負わずに頼めるだろとでも言いたげだ。


「そうですけど、やっぱり、大きな頼みごとは……。そりゃ、お菓子分けてほしいとかなら、気楽にお願いできますが」

 その言葉に、勢いのよかったマシューもおとなしくなる。


「まぁ、確かに……。でも、この方法しかないんだよ」


「とにかく話してみろよ」

 ユージが、フォークを置いて聞く体制になった。


「あぁ、あれなんだが……。課題なんだがな。途中まで一緒に行ってくれないかな? もちろん、自分達の課題は、自分達でやるんだけど、向かうときだけでも一緒に行ってくれないかって思ってだな」


 つまり、往路だけでも3班と一緒なら、魔力の温存になるということだろう。


「構わないぞ」

 イアンの返事に、3班のメンバーは「なんだ、そんなことか」という気配が漂った。


「お前ら、本当にいいのか??」

 自分で頼んだにもかかわらず、信じられないと目を見開いている。

「なんで?」

「だって、俺らが楽をしているっていうか、ズルをしているっていうか、そんな風に思うだろ?」


「そうか?」

 ユージが首をかしげた。

「俺らが出発したのを確認してからダンジョンに入れば、自然と魔物の倒された道を通ることが出来るんだ。気にするほどのことではないだろ? それをズルだと言うつもりはないぞ」


 実際、一般の冒険者で、必死で後ろをついてきている冒険者がいることは知っている。ニーナ達が最高学年。一番課題が進んでいるのは3班なのだから、利用しようと思う人がいるのは当たり前だ。

 そんなこと気にしないくらい、3班は順調だった。


「じゃあ、一緒に行ってもいいいのか??」

 ホッとした顔のマシュー。スワンは、「こんなときも、3班はぶれないんですね」と泣きそうな顔で笑った。

「俺らの出発は明日だが、1班は?」

「大丈夫。実は、頼もうと思って、3班のことを待っていたんだ」


「じゃあ、朝と昼は弁当を頼んでおいてくれよ。起きたら出発な」

「あぁ、わかった。ありがとう」


 マシューとスワンは1班に明日のことを伝えるようだ。

 ほっとした顔で戻っていった。




 朝、まだ眠たい目をこすって、ダンジョン事務所に向かった。


 3班に助けてもらう形で課題を進めることに、抵抗がなかったわけではない。同期の3班に助けてもらうことは、はっきり行って悔しい。

 それでも、3班にお願いする理由があった。自信家のマシューが、バカにしていた3班に頼ると決意したのには、並々ならぬ思いがあったのだろう。もちろんスワンにもだ。

 3班と肩を並べたい。エインスワール隊になりたい、と思っていた。

 だから、卒業できないのでは仕方がない。

 それには、どんな作戦を使っても、自分達の力で卒業課題を合格しなければならない。

 スワンには、やりたいことがあるのだから。


 事務所につくと、元気に荷物を整理している3班の姿があり、そんなところもすごいと思う。

「おはよう。3班は、元気そうだね」


「あっ、いや~」

 スワンから目線を外して、返事を濁す。

 3班で寝起きがいいのは、ミハナとユージくらいだ。体力回復のポーションを飲んで、強制的に目を覚ましているだけなのだ。ポーションの使い方としては、間違っているのではないかと思っている。


「朝は、苦手~。目を覚ます美味しいポーションを、誰か作ってくれないかなぁ~」


「目覚めのポーションですか??」

 頭の中で、目覚めに必要な薬草を考える。


「あったら便利だけど、需要あるのか?」

 マシューが笑った。バカにしているわけではない。突拍子もないアイディアが出てくるところが面白かったようだ。


「目覚めのポーションが必要なのって、うちの班だけ~??」

 ニーナが頭を抱えた。レインも「そんなポーション。あったら、ほしい~」と呟いている。


「俺らは、気合いだぞ。他の班も、気合いで起きてるんじゃないか?」

 マシューは、3班の寝起きの悪さが意外だったようで、面白がっている。

「そうだよね~。気合いねぇ~」


 体力回復に効く薬草と、栄養豊富な薬草、カフェインの入った茶葉を組み合わせれば、理論上は作れるんじゃないか?

 薬草の量や組み合わせは、何度も調整すればいい。


「僕が、そのポーション作ります!!」


「まぁ、作れなくはなさそうだけど……。金になるか?」

 エインスワール隊は、慈善活動をしているわけではない。お金にならなければ、研究費を出してもらえるか、どうか……。

「僕、3班のサポートメンバーになりたいんで、それなら研究できるはずです」


 エースパーティには、サポートメンバーがつけられる。サポートメンバーが足を引っ張ってはならないので、3班についていけるように『身体強化』も磨いた。


「スワンが、サポートメンバーか。特別課題、頑張らないとな~」


 特別課題を頑張る。つまり、班のメンバーを入れ換えずにパーティを組むための試験を、頑張るということだ。合格すればエースパーティと呼ばれて、サポート・メンバーをつけられる。

 ユージから、嬉しそうな気配が伝わってきたときには、泣きそうになった。


「絶対に特別課題クリアしないとね」

 ミハナのためにも、スワンのためにも。

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