第108話 最後の冬期長期休暇4
レインの家の前にもどりノックをしたのだが、誰もでてくる気配がない。
「ケン兄、まだかなぁ~?」
「ケンは、最近遅いんだ」
振り返ると、家の鍵を見せながら、笑顔のバン兄がいた。
「お久しぶりです~」
「あぁ、よくきたな」
家のなかに招き入れてくれた。
「ちょっと待てよ。確か、ここに、お客さん用のお茶が……」
「バン兄?? お茶はいいよ。僕たち、宿もとってあるし、こんな時間だから、長居はしないよ」
キッチンをガサガサ漁っていたバン兄が、顔を出す。
「お茶くらい出させろよ」
まだ、レインが家にいたころ、家の家計は逼迫していた。膨大な魔力を必要とするレインに魔力供給をすると、家族の魔力が切れてしまう。体調も悪くなるし、魔法を使わなければならない仕事では働けずに、十分な収入をえられていなかったのだ。
だから、レインは気にしているのだが……。
「これはだな、最近、村に出来た、海外製品を扱う店で買ったんだ。どっちもハーブティだが、どっちがいい??」
バン兄自身は、あまり飲んだことがないらしく、どんな味なのかわからないらしい。
「えっと、ニーナはどっちにする?」
手にとって、ニーナに見せるようにするが、すぐに「ニーナは、こっちだね」と決めてしまった。
「おい、おい。選ばせてやれよ」
バン兄が心配そうに声をかけた。
「ん~? 皆もこっちでいいんじゃないかな?」
同じほうを示す。
「なんで、レインが決めるんだよ!?」
レインは、もう一度パッケージを確認した。
「こっちは、リラックス効果かな? 軽い体力回復の効果があるかも。少ししか入ってないし、食べる訳じゃないから、効果は薄いけど。こっちは、魔力回復効果があるよね。まぁ、お茶だから、効果は限定的だけど。ニーナは特にだけど、魔力が多いから、こっちの方が好きだよね」
サラサラと説明していく。
ニーナは頷いた。
「どっちも普段よく使う薬草だし、美味しかったら、お茶にしてみようぜ」
レインの説明とパッケージから、含まれる薬草の予想がついたのだろう。
「普段、よく使う??」
「うん。ダンジョンに入るには、毎回新しいポーションを作らないとならないんだ。だから、薬草はよく使うかな」
「そ、そうか……」
驚きながらも、そんなものなのかと、キッチンにもどる。
いい香りがたち始めた。
「このお茶、いい香りだね~」
「魔力回復効果があるなら、ダンジョンに持っていくのもいいかもな。明日、買っていくか?」
「バン兄~。お店教えてよ」
「そりゃ、もちろん。村に入ってくるときに大きなホテルがあっただろ? あの隣だよ」
泊まるホテルの隣ということだ。
お茶を飲み終わって、レインがニーナとがっつり手を繋いだ。
バン兄が、なんだかソワソワしているようだ。そんなことは気にせず、レインが声をかける。
「ねぁ、ケン兄は?」
「あぁ、あいつなら、まだだろうな~。ダンジョンができて、人が増えただろ? あいつのところは、お土産も作っているから、忙しいらしくてな。最近は帰りが遅いんだ」
「父さんと、母さんは?」
「そろそろ、帰ってくると思うけどな」
「ただいま~。あら?」という女性の声に続いて、「あれ?」という、男性の声が聞こえた。
両親が顔を見せて、何気ない話をしていると、玄関でバタンと大きな音が聞こえる。
「やっと帰ってこれた~!!」
ケン兄の叫び声に、バン兄が笑う。
「あいつ、今日は早いぞ」
バタバタと足音をたてて部屋に入ってくると、「レイン!! やっぱり来てたか~!!」とレインに抱きついた。
「ケン兄~??」
「配達のときに、見つけたんだ。もしかしたらって思って、親方に無理言って、帰ってきちゃったよ」
「ケン兄、大丈夫なの?」
「明日、居残りで仕事するから、いいんだ!!」
ケン兄は、レインの隣に、どかっと座った。
「レインは、また少し、でかくなったか? 学校は、順調か?」
「うん。そろそろ僕たちも、連携とか磨かないとねって、話しているんだ」
「去年もブラックスネークを倒していただろ? もっと強くなるのか?」
「そりゃ~。僕たちの目標は、特級ダンジョンに入ることだからね」
将来的な目標だが、ガジェット鉱山のダンジョンに入りたいのだ。
「と、特級……。ヤバそうだな……」
無言になるケン兄。バン兄が意を決して口を開いた。
「ところで、レイン。いつも、手を繋いでるのか??」
レインがニーナと繋いでいる手を、凝視していた。
「結構、いつもかな」
なんでもないことのように答えたレインに、ケン兄もバン兄も赤面する。
「えっと、それは、その……。何て言うか……」
イアンとカレンは面白がっているし、ミハナはうっすら恥ずかしそうにしている。
キョトンとしているレインに変わって、ユージが答えた。
「ニーナは、俺たちのなかでも特別に魔力が多いんです。一人で、レインの魔力を補えるくらいには。それに、ニーナの魔力がレインと相性が良いんですよ」
「ニーナとは、ずっと一緒にいるんだからね~。もちろん、皆とも」
レインは嬉しそうにニーナに微笑みかけるし、ニーナも満更でもなさそうだ。
少し恥ずかしそうに、レインを見上げるニーナ。
去年って、こんな感じだっけ?? と、二人の兄は首を傾げる。
「えっと、何かあったのか??」
興味はあるが、聞いていいことなのかわからない。
「特に??」
その何かは、すぐに思い出したが、ベルゼバブに関することだ。心配をかけたくないので、ごまかしてしまった。
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