第107話 最後の冬期長期休暇3

「あれ? あれ? あれぇ~?」

 村に入ったとたんに、レインが足を止めた。

「去年より、店が増えたか?」

「人も増えたね」

 レインは、明らかにキョロキョロしてしまっている。

 あまりにも記憶の風景と違ってしまっていて、困惑しているようだ。


「ダンジョンができたからね~」

 去年、魔物が反乱しているところに居合わせた。

 新しくできたダンジョンを整備したため、冒険者が増えて店も増えたのだろう。


「あそこの店、魔物肉、取り扱ってるぞ」

「いきた~い!!」

「ニーナったらぁ~。先に宿屋に荷物を起きましょうよ」

「当初の目的は、レインの実家に挨拶、だったはずだけど」

「それも行かないとね~」

「とにかく、宿を確保しないと!!」


 冒険者が増えたので、宿屋も増えたのだろう。前回来たときには選ぶ余地がなかったのだが、今回は目移りするほどだ。


「うちの地元よりも、栄えてないか?」

 ユージが、近くの店のなかを覗いている。

「ダンジョンが大きいのかも。去年、ブラックスネークを倒したよね? 中級ダンジョンなんじゃない?」


 ブラックスネークは、反乱のときに中央部分に大量にいたのだ。たくさん倒したので、いい臨時収入になったことを覚えている。


 宿屋に荷物を置くと、レインの家に寄った。レインの両親も兄たちも仕事をしている。思っていた通り誰もいなかったので、ダンジョンに遊びに来た。

 森のなかに続く一本道。ずっと進んでいくと小屋のような建物がある。ダンジョン事務所だ。

 中に入ると、匂いまで新しかった。


 おじさんが顔を上げる。しばらくニーナ達の顔を順番に見ていた。


「あっ!! 君たち、去年の!! どこかで見た顔だと思ったら!!」

「そうです。レインの地元なんで、長期休暇を使って遊びに来ちゃいました~」

 おじさんは、慌てた。

「長期休暇ってことは、まだ学生かい? いくら学園の子でも、子供だけじゃダンジョンには入れないよ」


 成人していない場合、大人が同伴でないとダンジョンには入れない。

 学園生は、学園にあるダンジョンのみ、特別に入ることを許されている。先生が同伴していることも知っているので、他のダンジョンに入れるとは思っていなかった。


「わかってますよ。おじさんのところに遊びに来たんです」

 おじさんは、キョトンとしている。


「ここって、中級ダンジョンですか? あのとき、ブラックスネークが出てきていたので、もしかして、上級??」

「あぁ~、中級だよ。なんで、ブラックスネークが出てきていたのか、わからないんだ。ダンジョン内も調査して、怪しいところはなかったし、あれからは、ずっと安定しているから、問題はないんだけどね」

 反乱などは、起きていないらしい。


 魔物の反乱は、できたダンジョンが発見されずに魔物が溢れて起きる。反乱のはじめは、浅い層から魔物が出てくるのだ。それに気がつかずに放置してしまった場合に中級の魔物が出てくる。

 去年の反乱では、森の奥に魔物がでてきた段階で、レインが気がついたのだ。反乱が起こってから、一晩で、中級の魔物が出てきてしまったことになる。

 異例の早さだった。


「いままでも、そういうことって、あるんですか?」

「いや、あんまり聞いたことないなぁ~。あのときも、見に行ったのはオレなんだ。カイトから話を聞いたのは、夜中だぞ。反乱が起こったばかりだと油断していたら、出てきている魔物の数は多いし、遠くからでもわかるくらい黒いものが蠢いていて、慌てて引き返したんだよ。さすがに一人じゃ、手におえないからな」


 去年、青い顔をしていたのは、久しぶりの実践に緊張していただけではなく、魔物の数があまりに多くて、その割には、冒険者が少なかったからだと言う。


「本当に、去年は助かったよ」


 レインが早く気がつかなければ、もっと魔物の数は増えていた。その数を、学園生を除いたメンバーで倒すとなると、無傷でというのは難しかっただろう。村人に被害が出ていたかもしれない。


「まぁ、この地域のダンジョンは安定しないのかもしれないな。最近では、中級冒険者も増えたから、何かあったときは協力をお願いするしかないだろうね」


「この地域、ですか?」


「あぁ、この山があるだろ?」

 おじさんが、ダンジョンの先、山のほうを指差した。

「山の向こうが、ガジェット鉱山なんだ。あそこの不安定さは、原因不明だからな。こっちにも影響があるかもしれないよね」

 ダンジョンが生まれるメカニズムなど、わかっていないことが多い。地面の下の魔力の巡りが影響している、などと言われているが、誰もはっきりと説明できてはいないのだ。


「ガジェット鉱山……、ガジェット……」

 ミハナが、ブツブツと繰り返している。


「ガジェット鉱山に、興味があるかい?」

「いえ。・・・・・。ガジェット鉱山のダンジョンが……」

 ミハナの母がいなくなった場所だ。


 ミハナの思い詰めた表情。他のメンバーの真剣な顔。それを順番に見回したおじさんは、小さく息を吐く。

「あぁ、あそこは、エインスワール隊でも、特別なパーティでないと、入れないんだよな。何が起こるかわからないから。普通なら、危険だからいかない方がいい、と言うところだが、君達なら、可能かもしれないな」

 おじさんは、優しく笑った。

 卒業まで、頑張らなければならない。ちゃんと特別課題まで合格しなければ。

 決意を新たにすると、おじさんにお礼をいって、レインの家に向かった。

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