第103話 ダンジョン内での遭遇
昨晩は、ニーナ達が見張りを交代したあと、眠りに落ちたばかりという時間に、ツノイノシシに襲われた。
たたき起こされたことへの怒りを、ツノイノシシにぶつけて倒すと、すぐに寝てしまったのだが、やっぱり寝足りない。
「もうちょっと、寝ていようよ~」
うっすら目を開けてミハナを見るが、目蓋をあげるのも辛い。
「そうよ~。まだ朝じゃないわ~」
カレンもグズグズ言いながら突っ伏しているが、いつもなら起きている時間だ。
「ニーナも、カレンも!! 私も眠たいんだから」
「ミハナも寝たらいいと思う」
「二人とも~!!」
「女子は、起きそうにない??」
イアンの落ち着いた声が聞こえた。女子のテントの近くから声をかけている。
「そうなの~。男子は?」
「レインが眠そう。でも、一応起きてるよ」
座った体制で、下がってくる目蓋と格闘している。
「ポーション、持ってこようか?」
「あぁ~。わかった、起きるぅ~。起きて、自分で飲むぅ~」
このままダラダラしていたら、ポーションと『回復』魔法で、強制的に復活させられてしまう。
「じゃあ、朝御飯も食べような」
「お肉~?」
うんざりと、胃の辺りを押さえた。
「パンと肉しかないから」
ニーナとカレンが動き出したのを感じとったイアンは、ユージが肉を焼いているところに戻った。
「お肉、美味しいけど、朝には重たいね」
油がよくのったクロコダイルのお肉は、こってりしていて胃にズンと重くのし掛かる。
「他の魔物を食べてみるか?」
「たしか、ラビットは食べるよね?」
あっさりしていて、柔らかいのだ。
油も少なめで、朝にはいいかもしれない。
「トマト、持ってくれば良かったかも……」
痛みにくい野菜なら、持ってこれたのに。
「ダンジョンのなかで、食べられる植物ってあればいいんだけど。たしか、ダンジョン内しか取れない、薬草ってあったよな?」
「果物があったら最高~」
「リンゴとかオレンジとかなら痛みにくいし、持ってきた方がはやいぞ」
「そっか~。食料は、次までに考えないとね」
やってみないと分からないことはたくさんある。
「食べたら美味しい魔物を、もっと探しておかないと」
「クロコダイルは美味しいけど、こればっかりはもたれるし、飽きちゃいそう……」
食料についての知識は絶対に身に付けておかねばならない。課題の魔物に遭遇できなくても、食料さえあれば、滞在を延長して探すことが出来る。
これから、もっと深いところで魔物を狩るようになるのだから、ダンジョン内で食料調達ができるとなれば、大分楽になる。
「パンは、大量に持ってくるしかないよね?」
「痛まないように、固いパンがいいよね」
「えぇ~!! 固いの無理~」
ニーナが、顔をしかめた。
「じゃあ、柔らかく食べられる工夫も必要だね」
「そんなことできるの?」とレインが目を丸くする。
「鍋と、お椀があればいいんじゃないかしら?」
カレンは、「パンをスープでふやかすのよ」と、得意そうだ。
のろのろとご飯を食べ終えて、食器を片付けると、テントをたたみ始める。今日も同じ場所でテントを広げるのだから、そのままにしておきたいところだが、魔物に壊されてしまうことあるらしい。
遠くから、バリバリバリバリ~と聞こえてきた。
「なんの音?」
「魔法使ったのかな?」
「どこの班だろ? 見に行ってみようよ」
7階にいるとしたら、ニーナ達と同期の117期生か、先輩達の116期生。一般の上級パーティという可能性もあるけれど。
「あれ? 1班じゃない?」
ツノイノシシと戦っている。
「よし、いつもの作戦だ~!」
マシューが叫ぶと、スワンが『身体強化』で走り出した。3班と一緒に行動しているうちに、スワンが一番の『身体強化』の使い手になっていた。
ツノイノシシをスピードで翻弄する。
その間に、魔方陣を作り出した他のメンバーが、一気に魔法を放つ。ツノイノシシは、鼻から炎を吹き出した。
「こいつ、炎を吹くぞ!」
「毛が固くて、魔法を弾いてるかも!」
「風刃なら、毛は刈れるぞ!」
「じゃあ、全員で!!」
「風刃!!」
1班のメンバーの声が重なる。
空気で作り出した刃がツノイノシシに当たる度に、刈り取られた毛がヒラヒラと舞う。
「ちょっと短くなっただけだぁ~」
「同じとこを狙ったら?」
「じゃあ、首か??」
「風刃!」
毛の刈り取られる音がザッと響き、地肌が見えたようだ。
「畳み掛けろ~!!」
様々な魔法が、ツノイノシシを襲う。
ピギャー!!
苦しげな声をあげ、のけぞった。
「今だ!!」
剣を構えて、走り出したマシューにスワンが続く。
ツノイノシシの首にマシューの剣が突き刺さり、さらにスワンの一撃が。
音を立てて倒れたツノイノシシにほっとしたような表情するのが見えた。
「スワ~ン!! みんな~!」
「おぅ!! 3班か!?」
「そうです。ツノイノシシを倒しているの見学させてもらちゃった」
マシューが大声で答え、スワンは近寄ってきた。他のメンバーも、ツノイノシシの近くで小さく会釈する。
1班は、3班のように阿吽の呼吸というわけにはいかない。何度も連携を確認して、練習して、ここまで戦えるようになった。
「今日、何日目?」
「二日目だよ」
「朝からすごいね~」
「移動日には、はやく寝て、次の日には朝から行動することにしているんだ。まとまった時間があった方が、魔物を見つけやすいからね」
「そっか~。うちもそうする??」
「3班は、やる必要ないよ。魔力探知できるんだろ?」
「そうだよね。ねぇ、ご飯って何を持ってきてる??」
「うちは、携帯食だよ。それぞれ、食べたいだろ?」
お世辞にも仲がいいとは言えない1班には、各自食べられる携帯食の方がよかったみたいだ。
「そっか」と、聞いてはいけないことを聞いてしまったようで、肩を落とす。
空いているときには遊ぼうと、スワンとこっそり約束して、ニーナ達は8階に向かった。
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