第104話 火吹き竜
朝の寒さが身に染みる。もう少しで雪がちらつき始めるだろう。
冬の長期休暇までにダンジョンに入れるのは、あと2回か3回。
今回の課題が中級最後の課題。これに合格すれば上級の階層に入ることが出来る。
課題番号は59。ダンジョン10階で火吹き竜を狩ることだ。
ダンジョンに入る度に食事は改良し、5日間くらいは美味しい食事が出来るようになっている。それを越してしまった場合は、一度帰るか、肉を食べて食い繋ぐか。その辺は臨機応変と決めているが、課題がそこまで長引いたことはなかった。
「火吹き竜って、赤い竜だよね? 見つかるといいんだけど」
何度か10階の課題をこなしているが、一度も遭遇したことはない。
「赤黒いらしいぞ。火を吹くのは名前の通りだけど、少し飛び上がるって書いてあったな」
休みの日には、図書室で調べてきている。しかし、課題が進むにつれ、情報は少なくなっていった。
翼があって飛ぶ魔物は始めてだが、飛び上がるとは、どれくらい飛ぶのだろうか?
「10階の隅の方を探してみるか?」
出てきた魔物は、お馴染みの、ツノイノシシ……。
小さな沼に、クロコダイルがいることを発見したが、そっとしておいた。
「いないなぁ~」
一日目は、火吹き竜に出会うことなく終わってしまった。
9階に戻ってテントを張る。毎回同じ場所にテントを張るので、鉄板をのせる石や作業台をおくように平らにした場所などそのまま使えた。
「やっぱりいな~い!!火吹き竜ちゃ~ん!!」
二日目もそろそろ終わる頃、いまだに火吹き竜を見つけられてはいなかった。
木々の間を掻き分けて、赤黒い魔物を探す。
「あら、いつの間に魔物と仲良くなったの?」
カレンが面白がっている。
「だぁ~ってぇ。そろそろ会いたいでしょ~」
「逆に悪口をいった方が、怒って出てくるかもしれないわよ」
「悪口? どんな? 臆病者~とか?」
「どっか、探してない場所があるのかな?」
「結構、広範囲を探していると思うけどな」
イアンもユージも首をかしげている。
レインの魔力探知も使いながら、なるべく広い場所を探し回って探したのだ。
「ねぇ、ちょっと気になることがあるんだけど……」
「なんだ?」
レインは、魔力探知ができるのだから、他のメンバーとは違うことに気がついているかもしれない。
「火吹き竜って、飛び上がるんだよね? 高いところにいるってことあるかな?」
木の上とか、崖の上とか。
「可能性はあるよな。どっちにしろ、このままじゃいつまでたっても見つけられそうにないから、やってみようぜ」
昨日今日だけではなく、10階で魔物を倒す課題をこなしている間、一度も出会っていないのだから。
「あんまり大きな魔力じゃないんだけど、木の上に魔力を感じることが何度かあったんだよね。ちょっと待ってね。探すから」
歩き回って探していく。地上の大きな魔力は、レインが避けているので、くねくねと歩き回っているだけだ。
もう、今日は、諦めようよと、喉元まででかかったときだった。
「あっちにいるかも」
「どこ?」
「もうちょっと、近づこう」
レインが指を指しているのは、ひときわ大きな樹木。そっと近づき、てっぺんを見上げると、黄色い瞳と目があった。
「いた~!!」
大きな木の枝の先に、抱きつくように乗り、尻尾を垂らしている。頭から尻尾までで、ニーナの身長くらいだろうか。ツノイノシシなどに比べれば、だいぶ小型の魔物だ。
赤黒い鱗におおわれた、大きなとかげ。大きな口を上下に開けて、シャーっと火を吹いた。
枝を揺らしながら低い位置に移ってくる。枝をしならせてピョンと飛び上がり、背中にある翼を広げて滑空する。隣の木の枝に、ベチッとくっつくと、スルスル~と高いところまで上っていった。
「逃げられる?」
ニーナが慌てたときには、イアンが魔方陣を完成させていた。
「風刃!!」
風で出来た刃が、次々に火吹き竜の上った木に向かう。
葉っぱが切れて、落ちてきた。
ニーナは、多量の魔力を込めた魔方陣を作り出す。
「雷!!」
稲妻がバリバリと音を立てながら、火吹き竜のいる木に向かう。電気が木に伝う前に、火吹き竜は枝の反動を利用して飛ぶと、滑空して隣の木にうつった。
「ニーナ!! もう一回! 出てきたところを、全員で風刃!」
「いくよ! 雷!!」
『雷』を避け、火吹き竜が飛ぶときに、
「風刃!!」
たくさんの刃が火吹き竜へ向かい、そのうち一つが翼を破く。尻尾とお腹にも当たり、火吹き竜はまっすぐに落ち始めた。
「落ちる! とどめ!」
全員飛び出すが、魔力の量勝負ならニーナが早い。火吹き竜は、火を吹いて威嚇するが、『身体強化』でスピードをあげて避けると、一気に距離をつめて、頭をつきさした。
「あぁ~。ここにきて、見つけられない系の魔物とは……。はぁ~、大変だった……」
火吹き竜を取り囲んでしゃがみこんだ。討伐証明となる爪と、赤黒く光る鱗を取り外していく。
次の課題から上級に入る。少し、気を引き締めていかねばならない。
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