第102話 夕飯と夜の見張り

 ミハナが配ってくれたポーションと、『回復』魔法で強制的に復活させられたメンバーは、ブラックビックベアの皮を剥ぎ取り始めた。手分けすることも考えたのだが、もっとみはらしのいい場所にテントを張ったほうがいいだろうと、7階に戻るつもりだ。


「よし!! いくぞ!」


 魔石を取り出し、毛皮に『浄化』の魔法をかけると、すぐに動き出した。


 テントを張る人と、夕飯の準備をする人にわかれる。

 イアンとレインが男子のテント。ニーナとカレンで女子のテントだが、結局4人で1張りずつ建てることになった。


「あれ? イアン、これであってる?」

「床には、なにもなかったかしら?」

 地面がむき出しになった、テントの室内を覗き込んでいる。


「え?? クッションみたいなのがあったばずだよ」

「寝やすいようにこのテントにしたんだから、絶対にあるはず」

「でも、地面だよ」

「え!? なんか部品足りないんじゃ?」

「ん? おかしいな~」

「どうなって…………」


「あっ!! そっちのテントと混ざってる!!」


 一度に2張りのテントをテントを建て始めてしまったので混ざってしまったのだろう。クッション部分に空気をいれて、膨らませると、ふかふかの床が出来上がった。


 1張り立てれば、やりかたはわかった。もう1張りは、すぐに出来上がった。


「お腹へった~」


 テーブルの上に皿が並べられている。

 石で作った台の上に鉄板をのせると、ユージが魔法を発動した。

「熱!」

 鉄板を魔法で暖めていく。


 十分熱せられた鉄板の上に、適当に切ったクロコダイルの尻尾肉を並べていく。


 ジュウ~!!


 肉が焼ける匂いが広がってきた。


「うわ~!!」


 途中でひっくり返すと、きつね色の焦げ目が食欲をそそる。


 ミハナが塩コショウをして、皿に一つづつのせていった。

 パンをテーブルの中央において、食事が始める。


「シンプルに焼くのもおいしいね」

「でも、何日も泊まることになったら、メニューを考えないと飽きるぞ」

「今度は、野菜か果物も持ってきましょう」


 クロコダイルはおいしく焼けたし、食べ終わった皿は『水』と『浄化』の魔法で簡単に綺麗になった。

 事務所のお姉さんのいうほど、大変なことはなさそうだ。




 皆が寝てしまったあと、最初の見張りはニーナとレインになった。

「レイン!! はい」

 手を差し出すと、レインは両手で包み込むようにして握ってきた。スーッと魔力が減っていく感覚がする。

「ねぇ、ニーナ。隣に座って」

 レインが示す地面に腰を下ろした。


「最近元気ない?」

「え?? ぜぇ~んぜん!!」


 レインが黒い瞳で覗き込んでくる。

「め、めっちゃ! 元気だよ!!」

 繋いでいるのとは反対の腕で、力瘤を作って見せる。


 ダンジョンに入ったときも、皆と一緒に魔物を倒して元気がない姿なんて見せなかったはずだ。


「う~ん。なんていうか、空元気? 無理に元気にしてるっていうか。魔力もいままでなら、もうちょっと加減しているっていうか……。どうしたの?」


「え……?」

 なぜ、わかってしまったのだろうか? 他のことに力一杯取り組んでいれば、考えなくてすむと思っていたことに。


「捕まったとき、怖かった? すぐに助けてあげられなくてごめんね」

 レインは、キュッとニーナを抱き締める。

 柔らかい前髪が、ニーナの額にあたって、くすぐったい。


「違うの、レインは、すぐにきてくれたよ」


「いつでも、僕はニーナの見方だよ」

「あ、ありがとう」

「で、どうしたの?」


「ん、う~ん。なんでわかっちゃうのぉ?」

「だって、僕、ニーナのことしか見てないもん」


 それはいいすぎだと思う。ちゃんと他のメンバーのことも気にかけていることは知っている。


「う~ん。私の見間違えだったらいいんだけど」

「うん」

 レインが静かに続きを促してくる。


「レインがきてくれたとき、ベルゼバブのなんて人だっけ? 幹部とか言ってた……。あの人が逃げたとき、それを手助けしている人がいたの」


「う~ん。大声で助けをもとめていたのは気づいたけど……」

 レインはそのとき、ニーナを助けることに集中していて、エアルの状況はしっかり見ていなかった。


「そう、その後、助けにきた人がいたの。その人が、私と同じ髪色だった……。たぶん、男の人……」


 ニーナの髪色は少し珍しい。同じ色の人がいないわけではないし、似た色なら光の加減で同じ色に見えたとしても不思議ではないけれど。


「ニーナはその人が……?」

「うん。もしかしたらって思ってる……」

 行方不明と聞いていたけれど、もう生きてはいないと思っていた父親なのではないかと……。


「大丈夫。何があっても、僕はニーナの見方だから」

 ニーナを抱き締める腕に、力がこもった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る