第100話 テント費用あつめ
岩を乗り越え着地すると、視線の先には鼻息を荒くするツノイノシシがいた。
「あれ、倒さないと先に進めないやつだ」
7階まで『身体強化』で走ってきた。階が深くなるごとに、冒険者の数は減っていく。
回り道をして回避することで魔力の温存をする班もあるが、ニーナ達はテントもないので、回り道をして時間をかけることはできない。
「戦うか」
7階にいる魔物の中では弱い方だが、さすがに一撃というわけにはいかない。
ミハナを真ん中とした陣形に広がった。
「突進されると、面倒だな」
猪突猛進に迫り来るツノイノシシでも想像したのだろうか。イアンが眉間にシワを寄せた。
「まっすぐ走ってくるなら、こっちのもんでしょ~。グサッと一突きで~」
能天気にはしゃぐ3班を見て、ツノイノシシが前足で地面を掻いた。
「火の魔法は効きづらいんだっけ?」
ツノイノシシ自身が、鼻から炎を吐くのだ。炎には、めっぽう強い。
「とりあえず、切りつけてみよう!」
ニーナが走り出した。
「前にもそれ、やったから~!! もう!! 仕方ない、総攻撃だ」
イアンが走り出したときには、ニーナはツノイノシシの目前に迫って、大剣を振り下ろしていた。渾身の攻撃は、角で止められる。
ツノイノシシが首を振り、鼻から炎を吹き出す。その首の振りも利用して、後ろに一回転。きれいに着地すると、左手で『雷』の魔方陣を描く。
それを見た、レインが『嵐』、イアンが『風刃』、カレンが『氷』の魔方陣を作った。
「いけえ~!!」
ミハナの号令とともに、全員の魔方陣が発動する。
地面を切り裂く音とともに、ツノイノシシに迫った。
嵐が身体を濡らし、そこへ雷で感電。足元が凍りつき、身動きを封じる。風の刃が首もとの固い毛を刈り取ったところに、ユージが走り込み、ガチッとわざと角に向かって剣を振り下ろした。
「ニーナ!!」
最大限に『身体強化』をかけ、大剣にも魔力を流し込んだニーナが、高く跳ね上がり、毛の短くなった首もとめがけて、全体重を剣にのせる。さらに切っ先が首に届く瞬間、これでもかと大量の魔力を流し込めば、大剣はサクッとツノイノシシの首に突き刺さった。
「ピギャ~!!!」
振り落とそうと大暴れするツノイノシシから、距離を取る。プゴーと吹き出す炎も当たらないところまで一旦下がった。
ニーナの大剣は、ツノイノシシの首に刺さったまま。大きな鳴き声を上げて身体を振るが、半分ほど刺さった剣は抜けない。それどころか、ニーナが手を離したせいで、元の重さまで重くなる。
「ピギャ」
「ニーナ!! 援護する!」
レインが『嵐』、他のメンバーが『雷』の魔方陣を作り出した。
「嵐!」「雷!」
「ピ、ピギャ!!」
凍りついていた足元を力付くで氷を剥がしとり、血走った目で3班の方を睨んだときには、ニーナはツノイノシシの顎の下にいた。
ツノイノシシの首に刺さったままの大剣の持ち手を握り、大量の魔力を流すと同時に、下に引っ張る。
ツノイノシシは声にならない叫び声をあげ、ゆっくりと身体を傾けていった。
ドーン
地面が揺れるような衝撃と共に、ツノイノシシの巨体が倒れた。
「あぁ~、結構魔力使ったかも」
「一旦、休憩にしよう」
「角だけ取るぞ」
「ニーナ、甘いもの食べる?」
「早くテントが欲しいわね~」
「ポーション、分けるから手伝って!」
それぞれ、自分のやりたいことを始めてしまった。
「あっ、のんびりしていると、魔物が集まるかも」
レインが、台車のポーションボックスに入っているお菓子を物色しながら残念そうな声を出す。
取り出した飴を皆に配りながら、周囲を気にしている。
ミハナが、小さなコップにポーションをいれて配り始めた。
ニーナが、それを一気にあおる。
「行こう!」
少しはゆっくりしたいところだが、魔物が集まってきてしまうと、戦闘になり、余計な時間を使ってしまう。
「腹減ったけど、お昼まだ?」
時計を確認すると、もう少しで昼御飯の時間だった。
「やば! もう、こんな時間!」
「ブラックビックベアって、3匹倒さないとならないんだよね。かなり時間的に厳しいかも」
「夕飯抜きは、無理~!!」
「一応、8階には行ってみよう」
急いで階段を下ると、そこは森林地帯だった。
レインの魔力探知で魔物を探すが、最初に見つけたのはツノイノシシ。
その次は、小さなラビット。かなり弱い魔物だ。
「あと一匹倒したら戻らないと、夕飯が!!」
さすがに抜きになることはないが、残り物になってしまう。
「あっち」
レインの示す方に行ってみると、
「また、イノシシ~!!」
ブラックビックベアではなくて肩を落とすが、角だけでもお金になる。テントを買うためには、少しでも売れるものを持って帰らなければならない。
なんとか、皆で本日3匹目のツノイノシシを倒して、引き返していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます