第99話 肩慣らし3
「やったぁ~!! 今度こそ、蛇~!!」
そう叫びながら、ニーナが走り出した。
「ニーナ! ずるい!!」
「俺も!」
ミハナ以外が追いかけるが、取られまいとニーナは必死になる。『身体強化』の魔法に膨大な魔力をつぎ込んだニーナに、追い付けるはずもない。エメラルドスネークの首はニーナの大剣が切り裂いた。
何度も戦闘を繰り返して、大剣の扱い方も上手くなっている。少しずつ切れ味も増しているようだ。
「やったぁ~!!」
「次は、俺な!」
ユージが悔しがると、「俺だから!」とイアンが張り合う。
エメラルドスネークを捌き始めたニーナたちを横目に、トーリがしゃがみこんだ。
「トーリ先輩。今のうちです」
ミハナがトーリの隣に膝をついた。
「ヤバイね。いつもこんな感じ?」
とにかく行動が速いのだ。今も5人で連携して、一番高く売れる部分を剥ぎ取っている。エメラルドに輝く皮の部分だ。
使っているナイフも良いものだし、手慣れているので、速い、速い。
「まぁ、こんな感じですね~。いつもは、私も加わっています」
「ミハナちゃんも?」
「そうですよ。早くしないと、レインが次の魔物を発見しちゃうんで」
レインは皆から離れて、回りをフラフラと歩いている。魔力探知をするのに、班員が近い、もしくは班員の方向はわかりにくいらしい。色んな方向を探っているようだ。
久しぶりに『身体強化』を使ったトーリの身体は、悲鳴を上げていた。もう、これ以上動けないと大の字になる。
一年間の監禁生活中、意識的に身体を動かしていたのにも関わらず、思った以上に筋肉が落ちてしまっていた。
助け出されてから、散歩や軽いジョギングなどはしていたが、それだけで筋肉痛になってしまっていたのだ。『回復』を使ったり、普通のポーションを使っても、疲れが取れるだけ。『治癒』であれば、身体の治す働きを上げているので、筋肉の修復が進む。さらに、普段筋肉痛がなおったときと同じように、筋肉の増加まで見込める。
ミハナは無言で右手を大きく回して、魔方陣を描く。
「治癒!」
トーリの足や腕、さらには全身を、淡い光が包む。
「あぁ、楽になった」
「体力の回復もしたいので、なにか食べておいてくださいね」
3班の様子を見ると、エメラルドスネークの皮を剥ぎ終わったようだ。『浄化』の魔法をかけて、丸めている。
レインは一点を見つめているし、すぐにでも次の魔物を追って移動しそうだ。
「お弁当、まだかな?」
「う~ん。夢中になっていると、忘れているんですよね~。次の魔物のあとにでも、時間を取って食べた方がいいと思うんですけどね」
皮を丸めて台車に放り込んだとたんに、レインが「あっち」と指を差した。
「よ~し!」
先頭をきって、ニーナが走り出した。
「ニーナ! 待て!!」
「トーリ先輩、大丈夫ですか?」
ミハナの優しさが嬉しい。
「大丈夫。次の魔物のあとは、弁当だ!」
叫んでも、ニーナには聞こえていないだろう。
トーリも『身体強化』で走り出した。
なんとかお弁当を食べて、そのあとも同じペースで魔物狩りを続ける。
エメラルドスネーク5匹、その他の魔物は数えきれないくらい狩ることができた。
残念ながら、トーリは、はじめのミッシングウルフ一匹だけだったが、『身体強化』をつかっても多少は大丈夫なくらいの身体に戻すことができた。
「お金は、3班とトーリさんで、どう分けますか?」
事務所のお姉さんに聞かれた。
「俺は、いらないよ」
トーリは即答する。
「でも、トーリさんの分もあるんですよね?」
「いや、ないに等しいね。『身体強化』を使って、バテてたから。何回、ミハナちゃんに『治癒』をかけてもらったかわからないし」
簡単にいうと、ついていくだけで精一杯だったのだ。
レインの能力を上手く使った荒稼ぎ。できればトーリも参加したかった。
「では、3班の口座に入れさせてもらいます」
「トーリ先輩、いいんですか?」
「本当に、はじめの一匹だけだからね。逆に、ミハナちゃんに『治癒』のお礼に報酬を払わなきゃならないくらいだよ」
使える人が少なく、魔力消費量も多い、特別な魔法なのだ。
「気にしないでください。私、回復魔法は得意なんで」
トーリは、3班だけは実家に帰っていないことを不思議に思っていた。一番疑問だったのは、お金のことだ。
誰かの実家に行っているらしいのだが、それでも班員の交通費と、途中の村での宿泊費、食費、その他諸々。長期休暇の間にかかるお金は並大抵ではないと思っていたが、今日のように稼いでいたらしい。
そりゃ~、一番高いテントでも帰るよね。
トーリが、3班のお財布事情に納得していると、近くに人が立っていた。
「君たちが、魔力食いの班かね」
事務所から出てすぐに、中年の男性に声をかけられた。
3班に続いて、事務所から出て来たカイト先生とソーヤさんが慌てた様子で話に割り込んできた。
「うちの学生に、なにか用でしょうか?」
カイト先生達の様子に危機感を覚えた3班のメンバーには、緊張が走った。
「どの子が魔力食い?」
レインが素直に手を上げる。
「僕ですけど」
レインより前にいたユージとイアンが、視線を遮るように、中年の男性とレインの間にたった。
「本当にパーティの仲はいいようだね。化けの皮が剥がれないことを祈るよ」
そう言い残すと、颯爽と学園の敷地から出ていった。
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