第94話 数日ぶりの再会
どこかの町の裏の、さらに裏路地といった場所。ほとんどの家が、古くなったり、崩れかけたり。
住めると思えない家にも、洗濯物が掛けられていて、人の生活が垣間見える。
大きな町には必ずある、影の部分。
「あぁ~!! いた!!」
ニーナを見て笑顔で手を振ったレインは、足に枷がはめられているのを確認すると、むすっと不機嫌になる。
仲間の男は、短剣を構えて「やぁ~!!!」と向かっていった。威勢は良かったのだが、ひょいっと屈んで避けたレインの拳が、みぞおちを捉えて地面に転がる。
「エアル様、アイツ、ヤバイっす」
もう一人の仲間が震え上がった。
「お前は、こいつを逃がすなよ!!」
エアルに背中を押された。仲間の男の方へよろけると、羽交い締めにされる。
「ニーナに、何してるの?」
少し離れているのに、冷気が漂ってくる。レインの怒りが伝わってきた。
「君が、僕たちの仲間だね?」
「なんのこと?」
レインが意味がわからないと両手を広げて、キョトンと目を丸くした。
「君が、魔力食いなんでしょ? 名前は、何て言うんだい?」
「レイン。魔力食いだけど、あんたの仲間じゃない」
「僕はね、エアルっていうんだ。冷たいなぁ~。これから、仲間になるんだから」
「仲間になんて、ならないよ」
迷う素振りもない。
「こっちには、君の彼女がいるんだよ」
ニーナのことを指差して、ニタニタ笑う。
何を見て勘違いをしたのか。
「だから、お前の後をつけて来たんだけど」
レインも面倒なのか、否定しない。
「彼女に会いたかったんだろ? 魔力が欲しくて堪らなかったんだろ? 仲間になれば、逃げられる心配もないし、魔力だってレイン君の好きにしていいんだよ~
それにね。
今のうちに、ベルゼバブの仲間になった方がいいよ。
普通の人には、僕たちの気持ちなんてわからないんだ。魔力を奪わないと、死んでしまうっていう辛さがね。
今の仲間にだって、そのうちに、見捨てられる。
そうなる前に、こっちへおいで」
エアルは、相変わらずニタニタ笑っている。レインがそんな誘いに、のるはずないのに。
「う~ん。見捨てられるようなこと、したんじゃないの?
よくわからないけど、まぁいいや。ニーナは連れていくね。皆、待ってるから」
腿をぽんと叩いたかと思うと、勢いよく走り出す。『身体強化』を掛けて、一気に距離を詰める。エアルが大袈裟に距離を取って『防御』の魔法を展開したので、その前でレインは足を止めた。
「っわ!! まだ魔力に余裕があるのかい? 一人になってから半日くらい……、しかも魔法使ってたよね? 本当に魔力食いなの?」
「魔力食いかどうかなんて、どうでもいいよ。ニーナに酷いことした、お前は許さない」
レインはエアルに注意を払いつつ、ゆっくりと横に歩く。
ニーナはレインと目があった。レインが微笑んだので、少しだけほっとする。
「さてと、そろそろ終わりでいいよね」
レインは、長剣を抜き放った。エアルに切っ先を向けて、大きな一歩を踏み出した。
ガキーン!!
『防御』の魔法で弾かれる。レインは、小さく後ろに飛んで、もう一度向かっていく。
ガチン!!
もう一度弾かれた。
「何度やっても、無駄だよ」
「そうかな? それだって、魔法だよね? ってことは、魔力が使われているんだ」
レインは、何度でも向かってくる。弾かれても、弾かれても、剣を振り続けた。その悉くが、エアルが操る『防御』の魔方陣で弾かれる。
カチン! カチ! カッ!
エアル自身には少しもダメージを与えられていないのに、レインは余裕の表情。少しずつ笑みを深めていく。
「え?? 何が?? 起きてるんだ?」
薄く小さくなってしまった魔方陣を消して、もう一度魔方陣を作り直した。
レインが、後ろに引く。エアルは『防御』の魔方陣を消して、『雷』の魔方陣を描き始めた。その隙にレインが距離を詰めて、魔方陣を剣できりつける。魔方陣は、一瞬で霧散した。
「なぜ……?」
レインは答えない。
レインの武器は、魔力食いのための特殊な武器だ。魔物を切りつければ魔力を吸収することができる。それは、魔物でなくても発揮される。剣先で魔方陣を切り裂きながら、魔力を吸収。それにより、魔方陣がなくなってしまったように見えた。
そのまま斜めに切りかかる。エアルが『防御』の魔法を発動するよりも、レインの方が少しだけ早かった。刃がエアルの腕を、かすめた。
「うわぁぁぁ~!!!」
エアルは、地面を転がる。
肌を少し切っただけの傷なのに、大袈裟な反応。傷による痛みよりも、魔力を奪われることに対する絶叫が響き渡る。
「うわぁぁぁ~!! ニックぅ~!! 助けろぉ!!」
エアルが助けを求めている間にレインは、ニーナを羽交い締めにしている男に跳び蹴りをくらわせた。『身体強化』を使ったレインの動きは一瞬のこと。何が起きたか理解するまえに吹っ飛ばされた男から、ニーナを奪い取る。
「ニーナ、大丈夫?」
「レイン……ありがとう」
その間に、エアルの姿は消えていた。最後にストロベリーブロンドの髪色の人物が、エアルを助けたように見えた。
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