第93話 思わぬ再会
肩を揺すられる感覚で目が覚めた。目の前には、顔をひきつらせたトーリ先輩がいて、頭がついていかなくなる。
先輩は、行方不明になっていたんじゃなかったっけ?
見つけ出されたって、聞いたっけ?
「あ、あれ? トーリ先輩?」
何で、ここにいるんだろう?
そういえば、ここは、どこだろう?
見覚えのない場所だった。
確か、魔力封じの魔道具をつけられて、それが外れないように足に枷を・・・
慌てて、掛けられていた布を剥ぐと、両足に枷がはめられていた。その間が鎖で繋がっていて、魔道具が抜けないようになっている。
トーリの顔が曇ったように感じた。
「トーリ先輩。ここは、どこですか?」
なんとか状況を理解しようと、キョロキョロと周りを見回す。薄暗い場所で、鉄格子がある。どこかの牢屋のように見えた。
「ベルゼバブ幹部の、エアルってやつの隠れ家なんだ」
「トーリ先輩は、もしかして、ずっとここに?」
同意するトーリの顔には、焦燥感が見て取れた。
「ひどい……」
泣きそうな顔をしたら、トーリ先輩は笑っておどけた。
「はははっ! 魔力を封じられちゃうと、なんにもできないね。自分だけ逃げられればいいって訳じゃないしね」
壁の方を指差すトーリに首をかしげると、女の子を紹介してくれた。
見た感じ、8歳くらいだろうか。小さな女の子が、ちょこんと寝台に座り、ニーナを見上げていた。鉄格子の扉には鍵が掛けられている。
「こんにちは」
あいさつに小さく会釈を返すだけ。元気がないように見えた。
「トーリ先輩。この子、こんなこところに閉じ込められていいて、大丈夫ですか?」
「まぁ、食べ物には困らないけど……。逃げ出す方法は、ずっと考えてるよ」
「じゃあ、私が!!」
牢の格子に手を掛けて、『身体強化』の魔法を発動するが、うまく行かない。
不思議に思い手のひらを見つめていると、
「ニーナちゃん。魔道具つけられたの忘れたの」
「あぁ~!! そうだった……」
ダメもとで力を入れてみたが、『身体強化』なしでは、びくともしない。
「ふーん!!」と、もう一度試していると、トーリ先輩が肩を揺らしている。
「ぶっ!! ふはは。なんか、元気でた。
逃げ出す方法は、ゆっくり考えよう。
ニーナちゃん。ご飯にするから、手伝って」
トーリ先輩を手伝って、パンとまるごと野菜の食事を三人で食べた。女の子は人見知りをしていただけのようで、少しずつニーナにも慣れ、たくさん話してくれるようになった。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、遊ぼ~!!」
「なにして遊ぶ??」
自然と返事をするトーリに驚く。
「う~んとねぇ、そういえば、おじちゃんは?」
「ニックさんは、エアルに連れていかれたよ」
「えぇ~!! おじちゃん、大丈夫かなぁ??」
この部屋には、もう一人、男性がいたらしい。
「ニックさんなら、きっと大丈夫。僕たちがここに来る前から、ずっとここにいたんだ。きっと上手くやるよ」
「そっか……。でも、おじさんが帰ってこなかったら、どうすればいいんだろう……」
首をかしげていると、そのおじさんが魔法を使えて、色々と世話をしてくれたと教えてくれた。
魔法を使えるのなら逃げられると思うのだが、そこら辺はトーリもよくわからないのだとか。
「お部屋も掃除してもらいたいし~。暖かいご飯も食べたいなぁ~」
「ははは。そうだね」
「でも、魔法が使えるのなら、帰ってくる必要はないんじゃないですか?」
「ニックさんは、帰ってくると思うよ」
小声になってから、
「彼ならそれ以上の結果を期待していそうだけど、ぬか喜びさせちゃうといけないからね」
トーリが片目をつぶる。
なにを期待しているのだろうか……?
上の階で、大きな音がした。
天井にぽっかり穴が空き、興奮気味のエアルが顔を出した。
大きな足音を立てて降りてくると、ニーナの肩をつかむ。
スーッと魔力が奪われる感覚に鳥肌が立った。
「いや!!」
身を捩って、逃れる。
「なんで、逃げるんだ?」
ニタ~っと気持ち悪い笑顔に、背筋が凍る。
「いつも、お仲間に、魔力を分けているんだろ?」
腕を伸ばしてくるので、後ろに下がる。
「いやだ!!」
「減るもんじゃないだろ?」
ジリジリと迫ってくる、ベルゼバブの幹部だという男に、恐怖しかない。
「へるよ!!」
回復しているだけで。
「俺は、魔力が必要なんだ。
ニタ~っと笑って、何をいっているの??
「やめて!」
腕を掴まれた。
スーッと魔力がなくなる感覚に、身の毛がよだつ。
「やめて!!」
手を振りほどこうと腕を振るうが、魔法の使えないニーナでは、ただのひ弱な少女である。
「やだ!! やだ!! やだ!! やめて!!」
暴れても、暴れても、ニタニタ笑うエアルから逃れられなくて、涙が出てきた。
「やめて! やめて!」
ニーナを掴む手に、トーリの手が添えられた。その途端、スーッとする感覚がなくなる。
「やめてあげてください」
「トーリくぅ~ん!!」
甘ったるい声に、目を見開く。エアルはニーナから離れてトーリと手を繋ぐと、満足そうにした。
「トーリ先輩、ごめんなさい」
トーリは、魔力食いについてあまりいい印象がないようだった。
それなのに、ニーナを庇ってくれた。
「いいよ。ニーナちゃんが嫌がる姿は見たくない」
今度は、トーリ先輩の優しさに涙が出そうになる。
魔力を分けるのは慣れているはずなのに、なんで嫌だったんだろう??
スーッとする感覚だって、いつものことなのに。
なぜか、急に、レインに会いたくなった。
昨日、ニーナの帰りを待っていたはずのレインに。
「じゃあ、君は上においでよ。きっと、面白いものが見られるよ」
ニーナに向かってニタニタ笑う。
「ほら、さっさと上らないと、また泣き叫ぶことになるよ」
追いたてられて、上の階に連れていかれた。
「トーリ君は、来ちゃダメだよ」
トーリも一緒に、階段を上ろうとしていた。
「邪魔はしません。魔力が必要なら分けるんで!!」
「トーリ君は、ダメだよ」
ニーナが階段を上りきると、床板を下ろして重しをする。
「エアル様! 来ました!」
外から叫び声が聞こえた。
「早いなぁ~」
エアルに促されるまま外に出ると、道の先にレインの姿があった。
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