第85話 行方不明
長期休暇がもうすぐ終わる。新学期のスタートに合わせて、半分くらいの学生が戻ってきていた。
食堂の中はガヤガヤと煩く、夕食が始めるのを待っている。
「ニーナは、今日、帰ってくるのよね?」
昨日から、ニーナが実家に帰っていた。
「そう。一緒に夕飯、食べられるといいんだけど」
さきぼどから、レインは食堂の入り口を気にしている。
「いままでなら、そろそろ帰ってくる頃よね?」
ニーナの実家は王都にある。学園都市とは隣に位置して近いというのもあるだろうが、レインのことが心配なのもあるのだろう。必ず夕飯までには帰ってきていた。
ガーン、ゴーン、ガーン、ゴーン。
夕飯を知らせる鐘が鳴る。
寮母のリサさんが、各自取りに来るようにと声を張り上げている。
「いつもよりは、少し遅いかしら?」
首を捻るカレンに、ユージが笑う。
「せっかく、実家に帰ったんだから、ゆっくりしてくればいいだろ?」
「それはそうよね~。ただ、一人で行っているから、ちょっとだけ心配になったのよ。迎えにいこうかしら?」
「ニーナに走りで敵うやつはいないだろ? 何かあっても逃げてくるんじゃないか?」
魔力量の多いニーナの『身体強化』は、並大抵の強さではない。走ったら、誰にも負けないくらいの速さがでる。
「でも、僕、ついていけばよかったかなぁ~」
「レインもいくなら、全員になっちゃうけど、ニーナんち母さんしかいないし、ニーナの母さん宮廷魔道師でバリバリ働いているだろ? ちょっと迷惑かけちゃうんだよな」
歓迎してくれるのはわかっているのだが、全員で泊まるのは避けていた。
「お前ら、もう寮から出ないだろ?」
カイト先生が、帰ろうと腰を上げた。
「あんまり遅かったら、ニーナ、探しに行くかも」
「ん~、じゃあ、ニーナが戻るまで、いるかぁ」
そういいながら、座り直す。
「カイト~!!」
見たことがない……いや、一度、一緒に戦ったことがある男が、青い顔で近づいてくる。
ズンズンと、足音が聞こえてきそうな勢いだ。
エインスワール学園の教員ではないはずなのに、リサさんも居合わせた教員も、その男を止めない。
「ソーヤさんだ」
レインの実家で起きた魔物の反乱のときに、一緒に戦った人だ。カイト先生の知り合いで、仲も良さそうだったことを覚えている。
「レイン、知り合い?」
「あの、僕の実家で一緒に戦った人。それに、いつも隠れているよ。僕らが二手に別れると、片方カイト先生で、もう片方ソーヤさんがついていってるから」
エインスワール隊としては、魔力食いのいる117期生3班を、いくらカイトとはいえ、一人で守るのは現実的ではないことをわかっていた。そのため、各班に教員は一人という決まりを破らない形で、もう一人つけていたのだ。
指導教官ではないので、出掛けるときやダンジョンに入るときだけ、気配を消して後をつけていた。
それでも魔力探知ができるレインには、まったく隠せていない。
レインがしゃべりそうになったときには、カイト先生が止めていたので、他のメンバーは知らなかった。
「昨日、ニーナの後ろを追っていったはず」
いつもより帰りが遅いニーナ。ニーナの護衛をしてたはずのソーヤが、慌てて一人で戻ってきた。レインが最悪の想定を思い浮かべる。
大股で近づいてきたソーヤが、食堂の中を見回した。
隠れているはずのソーヤが堂々と姿を表したことから、カイト先生は、顔をひきつらせて立ち上がる。
「ニーナちゃんは?」
怪訝そうな顔の3班。
「まだ、帰ってきてないぞ」
「あぁ、だから言っただろ?? 俺じゃあ、ニーナちゃんの『身体強化』には、ついていけないって」
「それは何度も考えただろ? ニーナが、捕まるなんて考えられない」
「そりゃあ、追いかけたら無理だぞ。でも、ニーナちゃんが、足を止めるように仕向ければ、追いかける必要なんてないだろ。その時点で、ニーナちゃんが、俺をまいていれば、目撃者もなしってことだ」
ソーヤが、悔しそうに顔を歪める。
「ニーナをどこで見失ったんですか??」
レインから、冷気が漂ってくる。
「王都を出たところだよ」
ガタン!!
椅子が動く大きな音。冷気が一層増した。
「ニーナを探しに行く」
イアンが、レインの背中をポンッと叩いた。
「俺も行く」
「あたりまえだろ?」
ユージが立ち上がると、ミハナとカレンも動き出した。
「準備したら、学園の入り口に集合な!!」
愛用の防具を身に付けて、武器を携帯する。何が起きたのかなど想像できないが、最大の備えで臨む。
皆の頭のなかには、今だ見つからない、トーリ先輩のことがちらついていた。
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