第84話 二年ぶりの実家
「うちは、行かなくていいと思うんだ~」
お姉さまがたの店の近くにしばらく滞在し、遊び尽くした後の事だ。
「ミハナの家に行くとは言っていないでしょ~」
ミハナの地元に向かおうと、お姉さまがたにお別れの挨拶をしてきた。
「ホテルを拠点に、観光するつもりだろ?」
「そうそう。んで、美味しいもの食べて、帰るの」
「まぁ、それなら、いいけど……。うちには近づかないよ。お父さん煩いから」
ミハナは父親の反対を押しきって、エインスワール学園に入学してきた。
今だにその確執は続いていて、この2年間、実家にも帰っていなければ、手紙のやり取りもしていない。
3班は、実家から仕送りをもらえないユージに合わせて、お金は自分達で稼ぐスタイルなので、実はミハナも助かっていた。
「でも、逆に、班のメンバーが強いって分かった方が、安心するんじゃないか?」
「それがダメなの~。学園に入るって言ったときも、強いほうが危険なダンジョンに行かされるからって、猛反対だったんだから」
「まぁ、気持ちは解るけどなぁ~。冒険者はリスクがあるからこその稼ぎだし。エインスワール隊は、その中でもサポート体制がしっかりして、普通に冒険者をやるより断然安全なんだけどな」
ユージは、冒険者の危険性も、その代わりにある大きなリターンも理解していた。
「あれだろ? 各パーティには補助員がつくし、必要とあらば、魔道具班がつくこともあるだろ?」
父親が現役エインスワール隊のイアンは、こういったシステムに詳しい。
学生の時期でも、ダンジョンに連日入らないようにとか、ポーションを必要なくても備えるようにとか、余裕をもって戦うことを指導されている。ダンジョンの中では先生が隠れて同伴しているし、この班に至っては、休みまで先生同伴だ。
「そうなんだけど、お父さんには、わからないんだよ」
ミハナの場合は、冒険者であるお母さんをダンジョンでなくしているので、余計に心配なのだろう。
道中、ミハナが「やっぱり、いかなきゃダメ~??」と二回聞いたが、メンバーで慰めながらミハナの地元までついた。
一番大きなホテルに部屋をとると、夕飯はミハナが行ったこともない高級店に決める。
絶対に父親と遭遇したくない、ミハナのためだ。
次の日、ユージが別行動を提案したら、カイト先生が渋々了解したので、バラバラにお土産を探すことになった。
その代わり、レインはニーナとカイト先生と一緒だ。
「ニーナ。美味しいものを探しに行こう」
「レインは、何が食べたい?」
「ニーナが好きなものでいいんだけど」
レインの目には、ニーナしか映っていない。
「え~、そんなこと言わないで。一人、一つずつ食べたいものを言って、3箇所行けばいいじゃん」
嬉しそうなカイト先生が会話に加わった。
「おっ!! 俺の食べたいものまで、気にしてくれるのか?」
「だって、他の先生は、休みなんでしょ~。カイト先生、大変~。奥さんに怒られない?」
カイト先生は、疲れた顔をした。
カイト先生が家に帰れるのは、ニーナ達が寮にいるときだけだ。入り口をリサさんが守っているのと、学生がまとまっていれば十分な戦力だからだ。
「あぁ~。もう、土産で機嫌をとるしかない。……最近は、土産を渡しても、しばらく機嫌が悪いんだよ……」
「先生、大変~」
「お~い。レインに言われると、ドッと疲れるぞ」
カイトが離れられない理由の一番はレインだが、かわいい班員のことだから、責めるつもりもない。
「先生が大変なのは、あと、一年ですね。
僕は、ニーナをお嫁さんにもらうから、ずっと一緒にいられるね」
「へ?? レイン、またそんなこと言って~」
「そのつもりだったんだけど、ニーナは嫌?」
ニーナは、レインの澄んだ瞳に見つめられて、タジタジになる。
「そんな、嫌とか、そういうのじゃなくて。レインは、まだ、色々な人と知り合うと思うんだよね~。まだ決めないほうがいいよ」
レインは、嬉しそうにニヤリと笑った。
「嫌ではないんだね。僕には、ニーナしかいないから」
「また~。
もう! お肉、食べに行くよ!」
ニーナの差し出した手に指を絡めたレインは、嬉しそうに「カイト先生も、早く!」とニーナの好きそうな店を物色し始めた。
ミハナの父は、教師をしている。
別行動を提案されたミハナは、何となく一人になってしまった。
レインは、相変わらずニーナにべったりくっついている。最近では、ニーナもベタベタされて嫌そうにしないから、このまま付き合ってしまえばいいのにと思っていた。
ニーナが一人でレインを支えることになって大変かといったら、そんなこともないはず。3班は、話し合ったわけでもなく特別課題まで挑むことを決めているから、メンバーがいるときには皆で支えればいい。休日や夜間くらいなら、ダンジョンに挑みながらでも、ニーナの魔力で十分だろう。
そんなことを考えていたら、自然と実家のある方に向かっていた。
実家が見える位置で立ち止まる。
これ以上は近づいてはいけないと、自分に言い聞かせる。
あまり変わっていない実家の様子に、少しだけホッとした。
懐かしい光景に、しばらく、ぼーっとしてしまった。すると、玄関の扉が開き、壮年の男の人がでてくる。
難しい顔をしてミハナの方へ向かってきたと思ったら、途中の横道に曲がっていった。
父親に見つからなくて、胸を撫で下ろす。
「お父さん、元気そうだった」
少し窶れた様子だったが、父親の元気な様子を確認することができた。そのことをミハナは、皆に話さなかった。
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