第83話 肩乗りおサルさん
「今日は、暑いね~」
長期休暇初日。太陽がギラギラと照りつけていた。
「忘れ物ないよな」
「お土産もった??」
「もった~」
袋を揺らすと、ジャラジャラと音がする。
「いくつ、あるんですか??」
目を丸くしたスワンが、袋を触ってみている。
今回の長期休暇は、スワンもついてくることになったのだ。
「150は越えているんじゃないか??」
「ひゃ、ひゃくごじゅう?? 何してるんですか~??」
スワンの叫び声に、3班は首をかしげる。
「まぁ、去年よりは多くなったかな?」
「ポックン、めっちゃ増えていたからね~」
カレンのお姉さまがたへのお土産だ。去年と同じようにポックン狩りを始めた3班に、ダンジョン事務所のお姉さんはポックン退治の依頼を大量に出してきた。
群れになると厄介な魔物だから、今のうちに狩ってもらおうと思ったらしい。
3班も強くなっているので、問題なく依頼をこなせたのだが、魔石の量はとんでもない量になってしまった。
「っていうか、カイト先生は、一緒に行くんですか?」
スワンのこの一言に、3班メンバーは、一番驚いた。普通ではないらしい。
「最近、ベルゼバブの動きが活発なんでな。この班は、レインがいるだろ? レインは、ベルゼバブなんて興味がないだろうが、エインスワール隊としては、将来有望な生徒を犯罪集団にかっ拐われてはいけないって配慮なんだよ」
「それで、ずっと一緒にいたんですか?」
イアンが声をあげたが、皆も同じように思っていた。
2年間担当してもらっていて、初耳だ。カイト先生の気づかいで、メンバーには知らされていなかった。
身体強化で走り続け華やかなお店につくと、スワンが真っ赤になって慌てている。
日が暮れかけた夕闇のなかに、数多のランプが煌めいていて、とても綺麗だった。
「ここ!? ここって、あの!! 子供が来るようなお店じゃないですよ!!」
去年もきている他のメンバーは落ち着いている。
「そりゃぁねぇ~」
真面目なミハナが面白そうにいうので、スワンはさらに驚いた。
「え、えぇぇぇ~」
「まぁいいから、とにかく宿探しだ」
ユージがスワンを引っ張って、去年も泊まった宿に空きを確認しに行った。
昼過ぎ、お姉さまがたが起き出す時間を狙ってお店を訪れたカレンは、今年も入り口で止められていた。
「お姉さま~。今年もお土産よ~」
建物内部に向かって大声を出すと、カレンの恩人であるルージュ姉様が出てきてくれた。
「おぉ、カレン。今年もお友だちを連れてきたの?」
高級店で食事をしたので、目立っていた。実際、成人前の大人数で、高級店で好きなだけ飲食したのを、お姉さまがたの誰かに目撃されていた。
ルージュ姉様は、そろそろ来るのではないかと、寝巻きから柔らかいドレスに着替えて待っていたようだ。
「やっぱり、カレンがきていたのね~。あなたたち、めだちすぎよぉ~」
ジュエ姉様も寝巻きの上に、一枚羽織って現れた。
「目立ってもいいじゃない~。お土産も、もってきたわよ」
ずっしりとした袋を渡すと、二人とも目を丸くした。
「あら? カレン? ふえてない~??」
「去年の分でも、随分長い期間、魔石を買わなくてよかったのよ」
「私たち、強くなっているんだから、当たり前でしょ~。目指せ、一年分ね~」
「カレン、ポックンが絶滅しちゃうよ」
レインが、突っ込んだ。
「絶滅したら、クロコダイルかしら??」
「クロコダイルは、美味しいけど、群れてないかも」
レインとカレンの会話も面白かったが、姉様二人が話についてこれていない。
「魔物なんだから、絶滅しないだろ?」
「やっぱり~」
ユージの言葉に、嬉しそうに胸を張るカレンだった。
「そ、そういうものなのね……」
おっとり柔らかい雰囲気のジュエ姉様が、目を丸くして言葉に詰まっている。
そんなことは気にしないカレンが、店のなかをキョロキョロしながら何気なく尋ねた。
「ねぇ、お姉さま。おサルさんって来ないの? 皆に小さくてかわいいおサルさんを、見せてあげたいのよ」
急な話題の変更。姉様がたは、目を白黒している。
「さ、おサルさん?? ……あぁ、あの子ね。カレン、好きだったわね~。呼ぶ予定はないけれど、いつもいるところは教えてあげられるわよ」
「どこかしら?」
カレンに、早く、早くと急かせれて、ルージュ姉様は必死で道を教えている。
ジュエ姉様は、カレンの勢いに傍観をきめていた。
「じゃあ、行ってくるわ~」
「カレン、また来いよ」
「まっているわね~」
お姉さまに聞いた場所に行ってみると、本当に肩に乗れるサイズのおサルさんがいて可愛かった。
ショーのときには、フルーツをあげることもできるようだ。
カレンは、「私のなかでは、おサルさんはあれなのよ。かわいいでしょ~」と自慢そうだった。
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