第82話 新しい魔道具

「おぉ~、レイン借りてくぞ~」

 課題も順調。今日も練習場で作戦を立てながらゆっくりしようと向かっていると、レインがさらわれた。

「あわわわわわ」

 小さく悲鳴を上げながら、引っ張られていく。

「あれ、ライア兄さん。うまくいきそう?」

 レインの手を引っ張って拉致していくのは、いつものこと。

「たぶん、今日、完成する~!!」

 長期休暇が近づいてきているというのに、ライア達の特別課題である、新しい魔道具が完成していなかったので心配していたのだ。

「じゃあ、ついていこうか」

 ライアが足を止める。

「お前ら、全員くるのか??」

「だって、完成するんだろ?」

「そのつもりだけど……。狭いんだよ」

 ゲンナリとした顔で、振り返る。

「いいじゃん」

 ライア達の班は、ミーティングルームを魔道具製作部屋に改造していて、ただでさえ物が多い。

「わぁかったけど、静かにしていてくれよ」

「そりゃ~。子供じゃないんだから~」

 うんうんと頷く3班だったが、ライアはしばらく疑いの目を向けていた。


「お~い。全員ついてきちゃった」

 ミーティングルームついて諦めた声を出すライアに、ライアの班員も、ため息をついた。

「あそこら辺にいてくれ」

 ものっすごい隅に、レイン以外の全員が押し込まれる。


「レイン君。これを試して欲しいんだけど」

 両手で抱えるほどの大きな箱。箱のサイズに合わない小さな蓋を開けて、そこに魔石を入れる。

 何度も実験に付き合って、どこをどうすればいいのか分かっているレインは、印のところに手を置く。

「う~ん」

 レインが箱をじっと見て、「う~ん」と考えている。

「今のところ大丈夫だよ」

「ホントに??」

「うん」

 手を離した。

「大丈夫なら、魔石一つ分吸収しちゃってよ」

「あっ、もう終わっていると思う」

「え?? 早くない?」

 そういいながら蓋を開けると、中の魔石は色を失って濁っていた。

「僕も、自分の能力をうまく使えるようになっているんだよね~」

 少し自慢そうなレインに、先輩達はほのぼのと見ている。


 魔力吸収を止めることができるのとは逆に、急激な魔力吸収もできるようになっていた。


 ユージが少し腰をあげて、高い位置から覗き込むように見ている。

「思ったより、大きくなったんですね」

 赤髪の先輩が、箱をひっくり返したり横にしてみたりしている。

「そうなのよ。本当は携帯できるサイズにしたかったんだけど、意外と気持ち悪くなる魔力を分離するのが難しくて。フィルターを通せばいいってことまでは解ったんだけど、がっつり、フィルターが必要で、こんなに大きくなっちゃったわ」

 「ふぅ~」と赤髪を掻き上げた。


「こっちの方が簡単だったよ」

 メガネの先輩が、小さな箱を持ってきた。

「こっちが先にできたんだけど、あれが全然成功しないから、最悪、これを特別課題として、提出しようかと思ったくらいだよ」

 ミハナが目の前に置かれた箱を、体の傾けて眺めている。

「これは、なんですか?」

 ニヤっと笑ったメガネの先輩が、箱を差し出してくる。

「誰か、魔力の多い子がここに触れて欲しいんだけど」

 さっき使い果たしたばっかりの、濁った魔石を中にいれた。

「じゃあ、ニーナ」

 ニーナが印のところに触れると、ゾワゾワ~っと魔力の抜けていく感覚がする。レインが魔力を吸収しているときの数倍は抜けているようだ。


 少しすると、それが止まった。

「止まりましたよ」

「え?? 早い……」

 そういいながら魔石を取り出すと、いれたときには色を失っていた魔石が、淡いピンクに輝いていた。

「えっ?? もしかして、この魔石なら、気持ち悪くならない??」

 レインが目を輝かせて、魔石を見つめている。

「たぶんね~。ニーナちゃんの魔力を蓄えただけだからね」

 魔石を受けとると、そのまま吸収してしまった。魔物由来のものとは違って、体調不良は起こらないようだ。


「これ、すごいじゃん」

 目を輝かせているレインをみながら、イアンが箱を手に取った。


 ライアが、イアンから箱を奪い取る。イアンはちょっとだけムッとした。

「でもさぁ、魔力が足りない場合は、誰かの魔力を蓄えておくこともできないだろ? そもそも魔力がないんだから。魔物由来の魔石から吸収できれば、家族は楽になるって話だよ」


「まぁ、それは、確かに」

 イアンは、レインの家族のことを思い出したのだろう。辛そうな顔をした。

「まだ、魔力食いには偏見も多くて、隠す家も多いけど、魔石の補助が受けられたりすれば、隠すこともなくなるだろ? 回りの人との付き合いもできるし、もしかしたら早めに必要な教育も受けられるかもしれない。魔力食いの子供が犯罪者になることも減らせるんじゃないかな」

 レインは、必要な魔力が多いが、家族が多かったからギリギリなんとかなった。それでもギリギリだった。両親と二人の兄が、必死で支えても足りなかった魔力を魔石で補えるのなら、大分楽になるだろう。

 

 メガネの先輩が、レインの顔を覗き込む。

「レイン、協力してもらったし、なんか魔道具作ってやるよ」

「じゃあ、これが欲しい」

 使い果たした魔石に魔力蓄えることができる魔道具のほうを選んだ。

「ニーナに魔力入れてもらえる」と嬉しそうだった。


 この発明で、ライアの班は特別課題合格と見なされた。

 卒業後は、班で素材を集めながら、自分達の作りたい魔道具を作って売ったり、依頼のあった魔道具を開発したりするようだ。

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