第81話 長期休暇の計画

「あれ? あそこにいるのって、1班じゃない?」

 レインが気づいた。ダンジョンの1階に入ったところで、ネズミを相手に戦っている。

 魔法の威力を押さえて、連携を確認しながら交代で倒しているようだ。


 レインがスルスルと、大きな木の陰に歩いていく。

「バ~ルド先生!!」

 飛び上がらせてしまった。

「うお!! お前ら~!! 本当に見つかるんだな」

 カイト先生に向かっていう。カイト先生は、最近では、隠れても探し出されてしまうので、隠れるのをやめていた。

「まぁ、レインだからな~」

「3班は、相変わらずだな。でもな、お前ら、助かったよ。ありがとう」

 

「へ?? なんのこと??」

 ニーナの能天気な声に、笑いが広がる。

「俺らは、あんまり気にしてないんで。友達が困ってたから、ちょっとだけ手を貸しただけですよ」

「あぁ、そうかもしれないな。でも、やっと、全員揃ったんだ。しかも、ダンジョンにこれるまでも、随分かかったからな~」

 はじめは、一緒にランチを食べることから始めた。

 3班のような、いつでも一緒にいるような班ではないが、班で行動するのが嫌という状態ではなくなったようだ。

「バルド先生も、嬉しいのね~。先生たちって、そういうことは考えないのかと思ったわぁ~」

 カレンのからかいともとれる言葉にも、真面目に頷いた。

「あぁ、口を出してはいけない決まりがあるからな~。でも、自分の担当の班が分裂してしまうのは、やっぱりなぁ~」

「そういうものなんですね。でも、いいんですか、先生? 1班が移動していますよ」

 イアンが、指を指す方向は、沼のあるほうだ。

「はっ?? 不味い!! じゃあ、いくから、お前ら、本当に感謝するぞ」

「はい、はぁ~い!」




 食堂には、いつも通りいい匂いが漂っている。

「今度の長期休暇は、カレンのところと、ミハナのところ? レインのところは?」

 夕飯を受け取るための列に並んだ。少し、出遅れた感がある。

「お姉さまがたに会うのが楽しみよぉ~」

「うちは、行かなきゃならないわけじゃないけどね~」

 あまり実家には行きたがらないミハナは、微妙な反応だ。

「え~、ミハナのところは行くの!! 行ったことないんだから!」


「うちも、別にいいかな~」

「レインもいいの??」

「この前、行ったばっかりだしね~」

「行ったほうがいいんじゃない?」

 親子のわだかまりが、完全に無くなったというわけではないのだから。

「う~ん。兄ちゃんたちは、手紙を送ってきているし、様子はわかっているから、大丈夫だよ」

「そんなもん?」

「そうそう」


 「う~ん」と、ニーナは悩んだ。

 ニーナは、休みのたびに一度は実家に顔を出しているし、イアンは、親がくる方が多い。

 実家が遠いと、そんなもんなんかと首をかしげる。


「おい、ニーナ。今日の夕飯、クロコダイルだぞ??」

 背の高いユージが、嬉しそうに振り返った。 

「ぅえぇぇぇ~!! 私たち、とってきてないよね??」

 いつもクロコダイルは、3班がとってくるのだ。

「とってきてないな」

「記憶喪失かしら??」

「それは、ないだろ」

「ん~。あいつらじゃねぇか?」

 ユージが、遠くで夕飯を囲んでいる1班を指差した。

 スワンも一緒に食べている。

 


 ダンジョンで見つけたとき、1階で連携を確認していた。

 あのあと、奥に進んでいったから、クロコダイルを倒した可能性が高い。


「聞いてみればいいよね~」

 料理を受け取ると、1班の近くに座る。

「ねぇ、ねぇ。これって、もしかしてぇ~」

 スワンが、「あぁ、そう・・・・」と言いかけると、マシューが、ガタンと大きな音を立てて立ち上がる。

「そ、そ、そ、そ、それはだな!! 」


 大きな音を立てたので、食堂にいる生徒たちの目線が集まった。

 マシューは、下を向いて、そっと座り直した。


「まぁ、あれだな。そう、あれだよ」

 大きな身振り手振りで、じたばたしているようにしか見えない。

「ふ~ん。マシュー、あなたも、いいところはあるのね~」

「は??」


「カレンったら」


 一口含んだニーナが、とろけるほどの笑顔を見せる。

「やっぱり美味しい~。1班の皆、ありがと~!!」

「あ、あぁ」

 うっすらと頬を染めて、そっぽを向くマシューがいた。

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