第80話 学園に戻ってこない?
「さぁ~て、行こうか。」
暖かくなってきたある日、3班のメンバーは、学園の階段にあつまっていた。カイト先生はもちろん、スワンとレナもいる。
「よし! じゃあ、出発!!」
ニーナがレインと手を繋いだまま走り出した。
しばらく走ったところで、ユージが止める。
「ニーナ、待て!! レナがついてきてない」
「え? そんなに全力では走ってないよ。スワン、ついてこれてるし」
「これで、全力ではないんですか??」
スワンが、驚きの声を上げた。
「うん。うちも、ミハナが『身体強化』苦手なの。だから、ミハナに合わせているんだけど」
スワンと、追い付いたレナがミハナを見る。
「長期休暇のたびに、『身体強化』使って旅行しているし、ダンジョンでも走るから、ちょっとずつ慣れてきたの」
レナが、驚愕する。スワンは、嬉しそうな顔をした。
「やっぱり、僕がやっているトレーニングは無駄ではないんですね」
「スワンくん、トレーニングしてるの? 特別課題までがんばる?」
「特別課題は受けませんよ。僕の目標は違うところにあるので」
「卒業課題までか……。そうだよね。そうすればいいよね」
自分を納得させるように、ブツブツと呟いた。
そのあとは、レナに合わせて走ることになった。
マイの家までは、一泊二日の距離。
班員がいないとひとつも課題を進められないことに、マシューは苛立ちつつも、メンバーの大切さを痛感しているようだった。
何度か、3班のところにも話を聞きに来た。
「なぁ、あれからずっと考えているんだけど、どうやって連携ってとるんだ?」
「僕らの場合は、普段から一緒にいるんで、だいたい何を考えているかわかるんだ。それでも、突拍子もないことをすることがあるから、ミハナが全体を見ていて調節しているけどな」
「ミハナ~?? だって、ミハナは守られるべきだろ?」
そういえば、マシューはミハナに気があるようだった。
「そりゃあ、ミハナは回復の要だし、一番安全なところにいるさ。そのかわり、指示を出してもらうんだよ。戦い始めると、どうしても視野が狭くなるだろ? 」
「指示か~。指示を出すやつは、一番近くで戦っていたらいけないってことか??」
「全体を見渡せるところにいるメンバーがいいと思うけど、得意不得意があるからな。うちは、ミハナが適任だっただけで」
「あぁ、そうか」
「マシュー、あれだぞ。エインスワール隊で即席パーティを組むことってあるだろ?」
イアンの父は、班でパーティーを組んでいるわけではない。つまり、卒業課題は合格したが、特別課題には挑まなかったのだ。
頷くマシューに、イアンが続けた。
「そういう場合、連携を確認するために、弱い魔物で色々試すんだと。一人でも倒せるような魔物で、ペアを代えて戦ってみたり、全員で魔法をぶつけてみたり。はじめはタイミングが合わなくても少しずつ合わせていくんだって。相手の癖を見つけて、それに合わせていくらしいぞ」
「あ、合わせるのか……」
「それぞれ、微妙に力量が違うからなぁ~。どっちかっていったら、魔力の多い方とか、早く動ける方とかが合わせるんだ。1班だったらマシューだろ? それで、ここぞってときには、全力を叩きつける」
「お、俺が合わせるのか??」
「だって、お前が一番魔力多いだろ??」
「そうだけど……」
「すごいやつが、合わせるんだ」
すごいやつと言われれば、悪い気はしなかったようだ。
「そ、そうか……。お前らは誰が合わせているんだ?」
「合わせるのはユージだな。ニーナが一番強いけど、ニーナは合わせるのが、あまり得意じゃないからな。」
「はっ?? このチビ……、いや、すまん。。小さな子が一番強いのか??」
マシューは言い直してくれたが、逆にバカにされたみたい……。
「チビでいいよ……」
「ニーナはチビじゃないよ」
「ニーナはチビじゃないわよ」
レインとカレンがフォローしてくれるが、逆に変な空気が漂う。
「えっと、お前の名前はニーナだな。お前、強いのか……」
「ん~?? そんなことないよ。皆が助けてくれるからね」
その一言に、マシューは拍子抜けしたようだ。
「そ、そうだな」
「住所だと、この辺だよね」
「こんにちは~。マイの家ってどこですかぁ~?」
ニーナが手当たり次第に聞くので、レナが慌てている。
「あぁ、隣だよ」
エプロンをつけたおばさんが答えてくれた。
「ありがとうございます~」
「こんにちは~!!」
ニーナの元気な挨拶が響き渡った。
その声に、驚いたマイが飛び出してくる。
「え?? レナとスワンくん?? それから、3班?? なんでぇ~??」
「とりあえず、学園に戻ってこない? 嫌なら帰ったっていいし、寮から出ないってこともできるわ。実際、私は寮の部屋に閉じ籠っていたし」
「マシュー君に怒られないかな?」
「マシューは男なのよ。女子寮には入ってこられないんだから」
「マシュー君も、変わろうとしていますよ」
「スワン君……」
「あの班で、一生やっていく自信はないなぁ~」
「一生じゃないわ。スワンなんて、特別課題は受ける気がないんだから」
「そうなの?」
「卒業課題までは、頑張りますよ」
「そっか。1班なんだから、エースパーティにならないといけないって思い込んでた」
エースパーティの強さは、学生時代から一緒に過ごして阿吽の呼吸で攻撃できるところだ。特別課題まで合格した班のパーティで、実績のあるところがエースの称号を得る。
「まぁ、レナもスワン君もいるなら、行ってみてもいいかな」
無理なら帰るつもりで、学園まで戻ってきた。帰り道は、3班がバカなことをやったり、ビックリする量のお菓子を買い込んだりするので、楽しそうにしていたと思う。
学園につくと、マシューが待っていて、ボソボソと、「帰ってきて、よかった」と言った。
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