第79話 班の連携
マシューの手紙は自分を責める内容で、余計に学校に来たくなくなった。他の二人も、マシューほどひどくないものの、マシューに追随するような手紙で、嫌になったらしい。
それに比べて、スワンの手紙は、何を伝えたいのかよくわからない内容で、家を追い出されてから学校につくまで、何度か開いたという。
「だって、何でもないことを、たくさん書いているんだもの。休暇中に雪だるまを作ったら、隣の男の子に壊されただとか。久々に帰ってきたスワンを毎日遊びに誘う隣の子から、どうやって逃げようかだとか」
「僕は、3班が僕にしてくれたことを、手紙でやっただけですよ。
ほら、真面目な話をしていることもありますけど、それ以外は基本楽しいことを話しているんですよ。それを聞いていると嫌な気持ちも忘れるんで、何でもないことを書こうと思って。
僕じゃあ、面白いかどうかは微妙なんですけど」
「まぁ、面白さは、ふふふ。もしかしてマイにも手紙は書いたのかな? マイは、どうしてる?」
「班の様子を気にしていますよ。学園に来た方がいいんだろうなと思いつつも、なかなか踏ん切りがつかないようでしたね」
「そっか。私も食堂には行く気になれないし…。はぁ」
「食堂で食べれそうなら、俺らと一緒でもいいぞ。スワンは前から一緒に食べてるぞ」
ユージの頼もしい言葉に、レナは小さく笑う。
「そうね。1班のメンバーと絶対にいないと行けないって訳じゃないんだしね」
レナは考え込んでしまった。
「部屋まで送っていこうか?」
「大丈夫。もしマシューくんがいても、走って逃げるから」
「そういうときは、『身体強化』で!」
元気に拳を振り上げたニーナに、カイト先生が眉をしかめる。
「ニーナ、校舎や寮の中での『身体強化』は禁止だぞ!」
「ばれなきゃ大丈夫!!」
「ふふふ。うん。少し、要領よく、やらないとね」
そういうと、レナは先に帰っていった。ニーナ達は、図鑑をしばらく調べてから、夕飯に向かった。
「そういえば、最近、クロコダイル食べてないよね~」
ニーナが、豚肉のソテーをつつきながらいう。
「また、捕りに行かないと」
ニーナお気に入りの尻尾のステーキは、3班のお気に入りの目シューだ。
「尻尾のステーキおいしいよね」
「次にダンジョン行ったら、ちゃちゃっとクロコダイルも狩って帰ってこよう!」
「なぁ、ちょっといいか?」
いきなりマシューが話しかけてきた。
「ん? マシューも、もしかして、クロコダイル好き?」
思ってもいない質問に、マシューの声が上ずる。
「へ? ぇ? ゆ、夕飯によくでる、尻尾のステーキのことか?」
「そうそう。食べるよね!」
ニーナの決めつけに、ユージが返事をする。
「だろうな。たくさん獲ってくるぞ」
「って、は? あれって、お前らが獲ってきてるのか?」
「そうだよ~。美味しいから、リサさんに頼んで料理してもらってるの」
「はぁ~?? なんで、そんなことしてんだよ」
「えぇ~?? だって、美味しいじゃん。帰りにちょちょっと倒してくるだけだし~」
「まぁ、そう言われれば、そうか……?」
「でしょ~」
「でもさ、俺らは1班だから、しっかりしていないとならないんだ。どの班よりも早く課題を終わらせて、どの班よりも早く卒業課題まで到達しないと。それには全員が全力で挑む必要があるだろ? そんなことわかっているはずなのに」
ニーナやレインは、「う~ん」と困ってしまった。
「マシューは、がんばりすぎちゃったんじゃないかな? 僕も入学して、3班になるまでは、そう思っていたから」
イアンが、ゆっくりと話し始めた。
「がんばりすぎ?? がんばるのは当たり前だろ?」
マシューがいつものように声を荒げそうになって、語気を和らげる。
「でもさ、班の連携って考えたことあるかい?」
こういった話しは、イアンに任せた方がいい。
ニーナは、豚肉のソテーをつつきながら様子を見ている。
「そりゃーな」
「例えば?」
「全員で『炎』の魔法をぶっぱなせば、特大の炎になるだろ?」
「じゃあ、どうやってタイミングとか、魔法の種類とかを決めるんだ? 戦いのときに全員であつまって話し合うわけにはいかないんだ」
「そりゃ、班のメンバーなんだから、わかるだろ? わからなくても全力を尽くせばいいんだし」
「う~ん。そうかな? 例えば、『熱』と『冷気』を全力で放ったとしよう。そうしたら、相殺してしまうだろ?」
「そんなことってするか??」
「可能性はあると思うよ。苦手な魔法のない魔物とかなら。それに、1班とはいえ、得意不得意はあるんだろうし、補いあっていけば相乗効果でよくなると思うんだけどな」
「俺は、苦手なんてない」
「まぁ、そういうな。一人で全ての魔物を倒せる訳じゃないんだし」
マシューは、顔を歪めた。
エメラルドスネークに班の連携がとれていない状態で挑んで、撤退したことを思い出したらしい。
「たしかに、一人じゃ無理だな」
マシューは、静かに食堂を立ち去っていった。
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