第78話 ワッフルのお裾分け

「あぁ~!! スワン!! 今日も走ってたの?」

 大粒の汗をかいたスワンが練習場に入ってきた。3班はといえば、テーブルの上で図鑑を広げていた。

「はい。身体強化はあまり得意ではないんです。卒業までに自由に使えるようになりたいんで」

 タオルで、汗をぬぐう。水筒代わりにしたポーションの大瓶に口をつけ、豪快に水を飲んだ。

「スワンは真面目だな~」

 ユージが言うと、スワンは口許をぬぐった。

「僕には叶えたい夢があるんですよ」

「すごい夢??」

 レインが興味津々といった様子だ。

「僕にとっては、そうですね。教えませんよ?」

「なぁ~んだ~」

 『浄化』の魔法を自分の服にかけて、「ふぅ」と一息ついて3班の集まるテーブルに近づいてきた。

 

「これ。レナから預かったよ」

 ニーナが渡すと、スワンは首をかしげる。

「あ、ありがとう。なんだろ??」

「う~ん。内容については、聞いてないよ」

「開けてみますね」

 スワンは空いている椅子に座り、手紙を開いた。

 しばらく目を通してから、「う~ん」と唸る。

「返事は任せて~」


 スワンは、「う~ん」とか、「え~っと」とか呟きながら、手紙を書き上げた。


「これを、レナさんに渡してください。それと、いい機会があったら、レナさんをつれてきてくれませんか? どうも、部屋から出るきっかけがなくなってしまったようなんです」

 ニーナが、図鑑をつつきながら顔を上げる。

「う~ん。じゃあ、明日とかどう? 私たち一日くらい休みにしてもいいよね~??」

「いいんじゃない?」

「構わないぞ」

 ミハナもユージも同意した。イアンも頷いている。

 3班は、ダンジョンに入っても必ず課題を進めているわけではない。魔物を狩ってお金稼ぎをしている日もある。ダンジョンに入ると、準備日と休息日を含めて3日かかってしまう。

 だからだろうか。一日くらい気にならなかった。

「次は、ワッフルよね~」

「カレンは、そればっかり~」

「でも、せっかくだし、ワッフル買いに行くか」

 イアンも乗り気なので、ワッフルに決まった。



 夕飯の後、1班の部屋をノックすると返事があった。

「あぁ、手紙、渡してくれてありがとう」

 レナはこの前のように驚かなかった。

 スワンの返事を渡すと、

「もう書いてくれたの??」

と、大事そうに胸に抱いた。

「ねぇ、明日、ワッフル買いに行くんだけど、一緒に食べない?

「でも……」

「ワッフル、何が好き?? 買ってきたら、呼びに来るから、大丈夫だよ」

 ミハナが気遣うように、微笑む。

「マシューなんて、私をチビとしか呼ばないんだから!!」

「サルもあったわよ」

「あったっけ??」

「サルって、悪口なのかしら? って思ったわよ」

 下らない話を始めてしまったニーナとカレンに、ミハナがため息をついた。

「サルは、悪口だと思う……」

 レナが、呟いた。

「えぇ~!! だって、とってもかわいいじゃない! これくらいの大きさで、目がくりくりしていて、お利口で、服とか着ているのよ」

 カレンが、腕や肩の上にも乗りそうな大きさを手で作っている。

「えっと、どこのサル?」

「お姉さまがたのところにくる子よ。お姉さまがたと、お客さんがショーを見るの。とっても可愛いんだから。お姉さまがたも大好きよ」

「外国にいる、特別なおサルさんのことね。エインスワールにいるのはこれくらいで、魔物のサルはこれくらいかな」

 ミハナが、まずは腰くらいの大きさを示し、そのあと手を高く上げた。

「可愛くないかも……。先に知れてよかったわ……。魔物のサルをみて、夢が崩れるところだったわよ」

 カレンはこの世の終わりかというくらい項垂れた。

「えっと、うちは、いつもこんな感じだから。あんまり深く考えないで、ワッフル食べに来てね。明日、昼御飯食べたら呼びにくるよ」


 3班が去ったドアをみながら、

「サルであんなに盛り上がれる??」

と呟いて、小さく笑った。



「レナ、こっち」

「そっちは、練習場しかないじゃない」

「そうだよ」

 寮から出て、歩き始めたら、遠くにマシューの姿が見えた。

 「あっ!!」と声を上げて、近づいてきそうになったら、その場で足踏みをして、顔を歪めて引き返していった。

「マシューくん。来なかったね」

「大丈夫だった~」

「まぁ、来ても、うちのニーナには敵わないわよね~」

「へ? 私が戦うの???」

 変なファイティングポーズをとるので、ミハナが笑い、それにつられてレナが笑った。


 練習場の扉を開ける。

「カーシャ先生~。ワッフル食べる~??」

「あら、あら、あら、あら、もう男の子達が準備しているわよ」

「あちゃ~。もうカーシャ先生にばれてたかぁ~」

 ニーナ達がレナを呼びに行っているあいだ、練習場で準備をしておくのは打ち合わせどおり。ふざけていることをわかって、笑っている。

「レナさんは、ここですね!!」

 レナが座ると、「じゃ~ん!!」とワッフルを広げた。

 レナは、ワッフルの量に驚き、誰よりも早く手を伸ばしたカーシャ先生に驚く。

「カーシャ先生は、フルーツ味好きですよね~」

「あら? そんなにフルーツばかりとったかしら?」

「カイト先生は、遠慮しているとなくなりますよ」

「わかってる。今日はレナが先だ」

「そうだった!!! レナ?? どれがいい?」

「えっと…、えっと…」

「これがプレーンで、これがチョコ、これがストロベリーで、これがオレンジです。カーシャ先生がとったやつは、フルーツミックス」

「スワンくん?」

「今日は僕も一緒に買いに行ったんですよ。ワッフルの買い方にも驚きましたし、3班の『身体強化』の精度にも驚きました」

「じゃあ、私、これ」

 レナが、チョコをとると、「俺、これ!」「これ!」と、全員が手を伸ばして、奪い合いになる。

「僕のプレーン! 残しておいて下さい!!」

「ニーナ! こんなことで『身体強化』を使うな!!」

 勢い余ってワッフルが、吹き飛んだ!!

「ワッフルが!!」

「浮遊!!」

 ふよふよとワッフルが浮かんでいる。

「ナイス~ユージ!!」

「ニーナぁぁ!!」


「いつも、こんな感じ??」

 レナが目を丸くした。

「3班はいつもですよ」

「そっか」

 レナが、ふっと笑った。

「おいしい~」

「でしょ~」


 レナは、1班のギスギスした雰囲気に耐えられず、学校に来たくなくなってしまったらしい。だから、新学期が始まる日付を偽って親に話していた。

 それが、マシューの手紙で嘘だとばれてしまい、親に家を追い出されて、他に行くところがなく仕方なく学校に戻ってきたらしい。

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