第77話 マフィンのお裾分け

 ニーナは、自室の二つ隣をノックした。カレンは顎をあげて澄ました顔をして、ミハナは、胸の前に大きな包みを抱えている。


 コン、コン、コン


「はい」

 返事があったので開けると、お盆を持ったレナがニーナ達を見ながら固まっていた。

「あなた達……」


「これ、食べるかなって思って。マフィンなの」

 学園都市で、人気のお店に行ってきたのだ。6人とカイト先生で行列に並び。ワイワイと関係ない話をしているうちに順番が来た。

 大量購入をして、練習場でスワンやカーシャ先生も一緒に、美味しくいただいた。

「食べられるでしょ?」

「甘いものは、たまには食べないとねぇ~。女が廃るわ」

 元気で明るいニーナの声に眉を潜めたが、カレンの言葉に目を丸くする。

「ん?」

 ミハナが急いで取り繕う。

「あぁ! 気にしなくていいから。そのお盆、リサさんに返しておくね」


 夕飯を食べ終えたものだ。きっと、リサさんがお盆を取りに来たと思って、入室の許可をくれたのだろう。

 無言になってしまったレナから、お盆をもらい、ずっしりマフィンの入った紙袋を近くに置く。


「美味しかったら教えてね。次買ってくるときの参考にするから」

 優しく扉を閉めて、レナの部屋を後にした。


 エメラルドスネークを売ったお金で、カレンご所望の甘いものを買いに行った。スワンがレナのことを気にしていたので、多めに買ってきたのだ。


 帰りに、『身体強化』の練習として、学園の外周を走っていたスワンにばったり会ったので伝えると、息を切らせながらも目を潤ませていた。

 そのまま練習場に移動してお茶の時間にしたのだが、「レナに、どれを残しておこう?」という質問に、スワンは固まっってしまった。


「僕、班員の事って、何にも知らないんですよ……」

 眉を下げるスワンを、ニーナの能天気な声が吹き飛ばす。

「全種類、持っていけばいいよ~」

 そんなわけで、買ってきていた三種類、プレーン、チョコ、ドライフルーツ入りを、詰め合わせて渡したのだ。





 眠たい目を擦りながら、部屋を出る。今日はダンジョンへ行くための準備日だ。

 ポーションをつくって、武器や道具の整備をして、一応作戦を立てる。


「あなた達、多いわよ!! ………でも、……ありがとう」


 朝御飯に向かおうと、廊下を歩き出したところで呼び止められた。部屋を出たときには眠たそうだったニーナが、小さく跳ねて近寄っていく。

「食べられたのなら、よかったわ~」

「レナは、どれが好き?」

「スワンに聞いても、好みがわからないって言うから、全種類になったの」


 三者三様の反応に、目を白黒させる。

「私は、その……、チョコが入っているやつかな。……でも、何で、 スワン?」

 一緒にいることが多いこと。昨日も一緒にマフィンを食べたこと。レナの好みがわからないことを、申し訳なさそうにしていたことを話すと、

「私も、スワンの好み、わからないな」

と、呟いた。


「スワンは、断然、プレーンでしょ!!」

「でも、この前、イチゴジャムのたっぷりかかったやつも、食べてたわよ」

「それは、カーシャ先生が、確認せずに、たっぷりかけたから~」

「美味しそうに、してたわよ~」

 ニーナとカレンの言い争いを、ミハナが止める。

「二人とも、そういう話じゃないの!!」


 キョトンと口を開けていたレナが、顔を背けて肩を震わせる。

「ふふふふ。スワンは学校来てるの?」

「うん。いるよ! 昨日は、走ってたね」


「彼は、強いのね。私とは、大違い」

 初めからマシューの暴言は、スワンに向かっていた。それでもスワンは、学校を休まなかった。

「スワンは、いままで逃げていたことを、後悔しているみたいなの。レナとマイのこと、心配してるよ」


 長い沈黙の後、

「そうね……」

と、泣きそうな顔をした。

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