第76話 ダンジョンでの見学者

 ダンジョンに入り、まっすぐ2階に降りる階段に向かっていく。

 一般の冒険者が歩いて向かうなか、ニーナ達は身体強化で走る。魔力を温存する必要がないからだ。とにかく早く着いて、たくさんの魔物を倒そうと思っている。

 5階くらいなら、身体強化で走って往復できる。

 もう少し深層まで行ったら、一泊するなり、魔物を倒すのを制限するなり、ポーションを使うなり、なにか対策が必要だ。


「2階も用はないよね」

「時間があったら、4階でエメラルドスネークを探そう」

「それいいね! そうと決まれば、急ごう!!」

 走り出したニーナ達を、周りの冒険者達は、口を開けてみている。


「やっぱ、学生はすごいな~」

「だな~。真似できんよ」


「時間があったら、4階に戻ってくるっていっていたよな」

「じゃあ、5階から4階に戻る階段の近くだな」


「お前ら、見ない顔だな。学生に興味があるのか?」

「いや~。どんな戦いかたをするのか、見てみたいんすよ」


「あいつらは、とんでもないから、あまり近寄るなよ。巻き込まれるぞ」

「そりゃ、楽しみだ」

「なんだ? 気持ち悪い笑いだな。本当に、近づき過ぎるなよ」

「へいへい」


 何人もの冒険者を追い抜き、一度、息を吐いた。

「5階、到着~。さ~て、どこにいるかな~」

 5階は、低木が所々立つだけの荒野が広がっている。

 見渡す限り魔物は見えない。ファイアウルフを探すときも、かなり遠くまで行かなければならなかった。

「ファイアロックリザードって、大きなトカゲだよね?」

「ファイアウルフみたいに群れていないし、這っているから見つけにくいんだ」

 体高が低いので、かなり近づかないと気がつかない。

「まぁ、それは、僕も協力するよ。いっぱい魔物がいそうなところは、避ければいいんだよね?」

「でも、レインの魔力探査の邪魔になるし、倒しちゃった方がいいんじゃない?」

「まぁ、色々やってみよう」


 ファイアロックリザードは、見つけるのが大変なタイプの魔物だった。探している途中で、ファイアウルフの群れに4度も遭遇してしまった。

「やっと見つけた~!!」

 まだ、距離があるので、ファイアロックリザードは、こちらの動きを窺っている。

「えっと、どうすればいい?? 水?」


「あら? ニーナは、昨日、調べていたじゃない」

「ぅん? 調べてないよ」

「たくさん、本借りていたでしょ~」

「高く売れそうな魔物は調べたよ~。エメラルドスネークの方が良さそうだったけど」

「あれの、弱点とか、調べてないのかしら!?」

 ファイアロックリザードを指差して、カレンは驚いている。

「そういうのは、イアンでしょ~」

「えっ?? ちょっとは調べろよ~」

「イアンさまぁ~」

 すがるように両手を合わせると、小さくため息を吐いてニヤリと笑った。やはり、頼りになる。

「逃げ足が早いから、一気に距離をつめて、ひっくり返したら柔らかい腹がわを一突きだな」

 口を開いて火を吹く魔物で、背中が岩のように固い。冒険者に会うと、逃げてしまう。

 普通であれば、追い込んだり、罠にかけたり、工夫をして倒す魔物だ。

「やってみていい?」

「一気にトップスピードにならないと、逃げられるぞ」

「わかってる~」

 ニーナの大量の魔力を惜しみなく使った『身体強化』は、スピードで勝ち、大剣をファイアロックリザードの腹と地面との間に滑り込ませると、思いっきりひっくり返した。


「あぁ~……」


 ファイアロックリザードの体が宙に舞い、一回転、二回転、三回転して、足から着地する。

 一瞬ジタバタとしたものの、一目散に逃げ始めるファイアロックリザード。

「ニーナ、やりすぎ!!! もう一回!!」

「ぅわぁ~、やっちゃった~」

 しばらく追い駆けっこは続き、次は無事にひっくり返すことができた。

 豆粒のように小さくなったニーナが、無事に止めを差したのを確認して、胸を撫で下ろした。



 ファイアロックリザードを台車に詰め込み、4階に向かう階段を上る。

 何人かの冒険者とすれ違ったが、今から5階に行くのだろうと、特に気にしなかった。


「うーん。あっちだね」 

「よし! 行ってみよう!!」

 レインが指を差した方向に、走り出した。


「はえ~」

「まだ走れんのか?」

 見ていた冒険者の声など、聞こえていない。


 何匹目かの魔物で、やっとエメラルドスネークを見つけた。

 後方の茂みが動いて、階段のところですれ違った冒険者がこちらを見ていた。

 他の冒険者の戦いを見て学ぶこともある。実際、ニーナ達も、先輩達の戦いを見学したことがある。

 だから、見られていても気にしないことにしている。


「ニーナが足止めして、レインが攻撃!」

 ミハナが叫ぶが早いか、ニーナの『雷』がスネークに一直線に向かっていく。

 痺れて動きが緩慢になったところに、レインが走り込んで首元を切りつけた。

 浅い傷しかつけないにも関わらずスネークは仰け反り、怒りに満ちた目でレインを睨む。 

 レインが剣先で円を描き、魔方陣を作る。

 魔力食いのための、特別仕様の剣を試したのだ。

「雷!」


 ピリピリ、ピリピリ


「よわ~」

「もうちょっと、思いっきり魔力吸収しないと、魔法としては使い物にならないなぁ~」

 首をかしげて考えるレイン。


「イアンとユージで、倒しちゃって~」

「私は~??」

 ミハナの指示に、カレンが食いついた。

「さっき倒してたから、カレンは次ね」


「水!」

「冷気!」

 大量に出現した水が凍りつき、スネークの動きが鈍る。


「よし!」

 イアンとユージが左右にわかれ、両側から攻撃を繰り出した。

 剣を振り下ろしたユージと、振り上げたイアン。背中側の鱗は固いが、顎のしたの鱗は柔らかい。ユージの剣がスネークの首を固定し、イアンの剣が顎下から致命傷を与えた。



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