第86話 捜索

 ニーナは、学園都市と王都を結ぶ最短の道を使っていたはず。ソーヤさんが見失ったのも、その道でだったので、まっすぐに向かった。


「ニーナは、防具はつけていなかったわよね」

「うん。でも武器は持ってた」


 道中、民家の少ないところも通るので、野生動物などに遭遇する可能性がある。逃げた方が簡単だが、ニーナは倒して食料にする方を選んでいた。中には凶暴な野生動物の場合もあり、ニーナが倒してしまえば、後から来る旅人の事故も減らせる。


「ってことは、魔法を使う間もなく、武器を取り出す間もなくってことか?」


 魔力が多くて『身体強化』も得意。小さな魔法は苦手でも、特大魔法はいくらでも使える。

 大量の魔力を全力でつぎ込んだ『防御』の魔法は、破られるとは考えにくい。


「魔法が使えない状態ってこと?? そんなことあるかな?」

「ニーナは、まだ魔力封じの指輪を持っているよね? はめていたってことは?」

 ミハナの言葉に、思い出したようにレインが呟く。


 膨大な魔力を暴発させたことのあるニーナが、入学当時にしていたものだ。ニーナのものは、つけ外しができるように、指輪だった。入学当初は、魔法の練習のときだけ、ゆびわを外していたのだ。


「あの大剣を背負っていったんだ。指輪をしていたら無理だろ?」

 ニーナの大剣は、エインスワール隊が保存していた、特殊な剣だ。魔力を流せば自由自在に操れるが、流していないとただの重たい金属の塊だ。


 ユージははっきりと否定した。しかし、ソーヤが「魔力封じの指輪?? 魔道具ってことか?」とぶつぶつ言い出した。

 はっと顔を上げると、さけぶ。

「カイト! 遠くで起こったことだから、関係ないって思っていたが、あれじゃねぇか!?」

「ソーヤさん。なにか知っているんですか?」


「あぁ~、あれだな。少し前に、護送されている罪人が襲われたんだよ。

 護衛していたエインスワール隊も3人死亡。役人も2人死亡。そして、その罪人も死亡。

 なんのために罪人を襲ったのか、判明しなかったんだよ。金持ちの旅行と間違えられて盗賊に襲われたか、自分の手で正義を執行したい者に殺されたかって言うのが、大方の見立てだったんだがな。

 エインスワール隊が護衛していて、盗賊なんかにやられるわけがない。ましては、一般人では無理だろう。しかも、襲った者の持ち物や死体なんかが、全くなかった。エインスワール隊を相手に、圧勝したってことだ。

 可能性としては、エインスワール隊や上級冒険者だが、容疑者は浮かんでこなかったんだ。

 おかしな事件だと思っていたんだが。

 もし、その罪人が、魔力封じの魔道具をつけていたとしたら、話が変わってくるんじゃないか?」


「魔力封じの魔道具を奪うため……。ベルゼバブか……?」


 魔法で戦うエインスワール隊は、魔力食いとは相性が悪い。対応策がないわけではないが、奇襲されたり、人数で劣っていたとしたら、かなり分が悪い。

 そして、ベルゼバブは、魔力封じの魔道具を集めていた。

 魔力の多い人間を、生かしたまま捕らえておくためだ。


「魔力封じの魔道具……。罪人だと、首とかにしていることが多いのよね……」

 専用の鍵を使わずに魔道具を奪うには、罪人を殺して奪うのが手っ取り早い。


「あれを付けられたら、さすがのニーナでも何もできないぞ」


「罪人につけるのって、首に嵌めるのが、ほとんどよね? さすがに、首にはめられる前に、逃げるんじゃないかしら?」

 普通なら首に物を近づけられたら、警戒するはず。

「あれは、内側にからだの一部が通っていればいいんだ。だから、手首でも、それこそ指でも作用はする」

 手首ではすぐに抜けてしまうが、抜けないように何とかすれば、魔道具は正常に動くらしい。



 学園都市から王都に続く道は暗く、通る人の誰もが怪しく見えてしまう。


「ベルゼバブ……。ニーナ狙いか?」

「可能性はゼロではないな。俺は、レインを狙ってくると思っていたがな」


 カイト先生の言葉に、答えるソーヤ。二人の呼吸がぴったりで、確認したわけではないが、ソーヤはカイト先生のパーティメンバーだと確信していた。


「魔力封じの魔道具って、たくさん出回っているんですか?」


「あの魔道具は、特殊だからな。出回ってはいないさ。ベルゼバブの被害者のほとんどは、魔法を覚える前に拐われるんだ。

 最近、生きたまま解放される被害者がでてきてわかったことだがな。その被害者の話から、魔道具がベルゼバブに悪用されている可能性が出てきたってだけで」


「でも、悪いことばかりじゃない。相手がベルゼバブなら、ニーナは生きているさ。急いで探そう。何かしらの痕跡でもいい」

 ユージが、レインを励ますようにいう。

「あぁ、ただし、姿が見えて声が聞こえる範囲にいてくれ。魔道具がたくさんあるとは思えないが、お前らも魔力量は多いんだ。レインもだぞ」

 

 レインが魔力関知をしながら、足跡や争った形跡がないかを調べていく。

 民家が途切れたところでは、草原や林に分け入って探した。


 『灯り』の魔法を発動して、草の根を分けて探す。木々の間に『灯り』が右にいったり、左にいったり。

 道から離れたところにいたカイトが、声を上げた。

「お、おい!! これ!!」

 『灯り』で足元を照らしながら向かえば、カイト先生の地くにキラリと光るものが。

「これ、ニーナのっぽい」

「鞘から抜いてもいない……」

 藪のなかに隠すように、大剣が落ちていた。

「試してもいい??」

 ユージが、グリップをつかんで持ち上げようとする。

「重い」

 魔力を通すと、スッと持ち上がった。

「間違いない、ニーナのだ」

 魔力を通すことで、思いどおりに扱うことができる大剣。

 その代わり、魔力を流さなければ、かなりの重さになる。

「邪魔になったんだろ」

「じゃあ、この先か?」


 視線がレインに集中するが、レインは小さく首を振った。

「魔力は、……たぶん野生動物」

「人は探知できないか……」

「もう少し探してみよう」


 『灯り』を前へ前へ飛ばして、さらに林を進んでいく。

 メンバーの足音と、ザワザワと木々が風に揺れる音だけが響いていた。

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