第72話 学生だけど

 早朝から、村が騒がしい気がする。起き出していくと、うちのなかも大騒ぎになっていた。


「あなた、森に魔物が出たらしいのよ!」


 普通、森にいるのは野生動物だが、魔物が出ることも稀にある。

 人の少ないダンジョンで、倒されなかった魔物が入り口から溢れて出てきたり、新しいダンジョンが出来たのに気がつかずに放置して魔物が出てきてしまったりと、たまにある話らしい。

 ダンジョンのないこの辺では聞いたことはないが、新しいダンジョンはいつ出来てもおかしくないのだから、そこまで慌てることだろうか?

 村に常駐しているエインスワール隊が、近くの村から人員を集めて討伐してくれるはずだ。


 エインスワール隊……?


 そこまで、考えて、ハッと顔を上げる。


 今、この村にはエインスワール学園の生徒が来ているではないか。連れてきていた友達は、パーティメンバーだと説明された。

 中級レベルまでなら、問題なく倒せるほどのパーティが、この魔物討伐に駆り出されることはあるのだろうか?


(いやいやいや、さすがに学生、あいつらは未成年なんだし、それを駆り出すことはないよな)


 そう自分に言い聞かせていると、母さんの騒がしい声が聞こえてきた。


「あなた!! レインが、レインが!! 討伐隊のなかにいるのよ!!」


 飛び出して見れば、討伐隊の真ん中にレインの姿が。簡単な防具をつけ、帯剣している。昨日と同様、可愛いニーナちゃんと手を繋いでいるんだけど、小柄なニーナちゃんの背中には、似合わないほどのでっかい剣が背負われていた。


(あんな可愛いこが、あんなでかい剣を振り回すのか?? 心配でしかないのだが)


 プルプルと震える母さんの隣で立ち尽くしていた。







 急ぎで集められた冒険者に、隣村から応援に来てくれたエインスワール隊。

 寄せ集められた中で、パーティーを組んでいるのは、初級冒険者が一組、中級冒険者が一組、学生が一組。ダンジョンのない村なので、たまたま移動の途中の冒険者がいただけなのだ。

 有事のため常駐していたエインスワール隊は、最近ではめっきり実戦には出ておらず、魔物の討伐に青い顔をしていた。

 昨日、魔物の様子を見に行った人によれば、新しいダンジョンが出来ていて、少し厄介だと。数も多いし、強い魔物が混ざっているのだとか。


 カイト先生が指揮を取っている。

「3班が、中央突破。魔物を蹴散らす役目な。逃した魔物を他の物で倒す。まぁ、ざっとこんな感じだろ?」

「はぁ? そんな重要な役目を学生に任せられるわけないじゃないですか!」

 声を上げたのは、中級冒険者だ。


「いい案だと思うんだけどな。だろ? ソーヤ」

 木に寄りかかって、眠たそうな男に話しかけた。


「あ?? 異論はないよ。俺はどうすればいい?」

「遠からず近からずで、中央突破だろ?」

「久々に腕がなるな」


「おいおい、二人で盛り上がるなよ。お前たちが、冒険者側の人間だってことはわかるけどな。エインスワール隊には、現場に出ていないやつもいるだろ?? そんなやつに負けるつもりはないぞ。ましてや、学生なんかに」

 わざとらしく、青い顔をしているエインスワール隊に顔を向ける。


「じゃあ、君はどんな案がいいと思う?」


「俺らが、真ん中だろ?」

 胸を張って答える冒険者の防具や装備をチラリと見た。


「それでもいいよ。その代わり、ブラックスネークは瞬殺してくれるよね」


「ブラックスネーク??」


「視察にいったやつが、中心付近にウヨウヨいるのを見かけたらしいんだ。真ん中をいくやつが倒すんだ」

「それなら、なおさら学生には・・・」

 青い顔で呟く冒険者たち。中級レベルの階層にいる魔物だ。中級冒険者としては、自分達か倒せる魔物の中では強い方ということだ。


「カイト先生?? ブラックスネークって、エメラルドスネークの仲間ですか??」

 爛々と瞳を輝かせた3班が集まってきてしまった。


「エメラルドスネークみたいなもんだが、少しだけ鱗が柔らかいな。問題ないだろ?」

「強さは、どうでもいいんですよ。高く売れますか?」

 聞いたのは、真面目なはずのイアンだ。


「どうでもいいって、そんなわけないだろ!?」

 大声を上げた冒険者を尻目に、カイト先生はいたって真面目な顔だ。

「エメラルドスネークほどじゃないが、結構、装飾品として人気があるな」


「やったぁ~。じゃあ、一人10匹ずつ!!」

 飛び上がって、ガッツポーズで喜んでいる。


「さすがに、そんなにいないと思うがな」

「え~!! 多ければ多いほど、儲かるでしょ~」

「っていうか、俺も参戦するぞ。課題じゃないんだからな」

「あぁ~!! カイト先生が、最大のライバルなんてついてない!」

「体が鈍ってしまうからなぁ~」

 体を伸ばすようにしながら、カイト先生が答える。


「もう行っていいですよね?」

「お前ら、連携も大事だぞ」

「むぅ~」

「まぁ、今回は、俺らがフォローしてやるから、好きにしろ」


「やった~。じゃあ、行こう!」

 跳び跳ねるように走り出した3班に、冒険者たちが驚愕する。規格外のスピード。自分達が、魔力をすべてつぎ込んでも追い付けそうにない。

「俺は、あいつら、追いかける!! 無理せず、自分達のスピードで来いよ!!」

 そういうカイト先生も、ソーヤも、青い顔をしていたエインスワール隊もいなくなってしまった。


 すぐに蹂躙が始まった。


 ウサギやネズミの魔物など、敵ではない。それでも逃がすわけにはいかないので、片っ端から倒して進む。ブラックスネークも、少し鱗が柔らかいというだけあって、ニーナの大剣の一撃で首がとんだ。イアンは、脳天から突き刺す。

「柔らかいから、いけるぞ」

 こうなってしまえば、一人一匹だ。

 ミハナですら「やぁ~!」と可愛らしい声を上げて、倒していた。


 レインの魔力探知で、狩り残しがいないかまで確認して、討伐は終わったのだった。


 売って旅費にしようと魔物をさばいていると、レインの家族が揃って手伝ってくれた。

「レインが、こんなに強いとは思わなかったわ」

「あぁ、友達も出来たし、安心だな」


 帰るときには「レインをよろしく」と、何度も頭を下げる親に、レインは「もういいから」と逃げてしまった。

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