第71話 ざわめき

 弟が、家からいなくなって、一年半。

 弟がいたときには、これからどう生きていけばいいんだと悩んだりもしたが、いざいなくなってみると、どうにも寂しい。

 手がかかる分、かわいい弟だったのかもしれない。


(あいつ、元気にしているかな……)


 両親からは、元気だったと報告を受けたが、いまいち信じられなかった。


「俺も会いに行けばよかった」


 独り言が口から漏れてしまったが、しっかり働き出して一年半の見習いでは、学園都市までいくための日数なんて、休めるわけもない。


 休めそうなときがあったら親方に言ってみようと、自分に言い聞かせて帰宅すると、家の前に沢山の人が。

 何かあったのかと、様子をうかがっても、うちをじっとみている。


(もしや、怪しいやつ??)


 なんで、うちを狙っているんだ。うちには金目の物はないぞ。


「おい!! うちに何の用だ??」


 俺より少し背が高い、黒髪の男が振り返った。

「ケン兄!!」


 声は、記憶にあるものより随分と大人びているが、俺の呼び方は昔のまま。長い前髪から覗いた緑色の瞳は、じっと俺を見つめていた。


「レインか? でかくなりすぎだろ……」


 挨拶よりも驚きが先にでる。


「ケン兄は、…………小さくなった??」


「小さくなってねぇ!」


(まぁ、元気だっていう、親の報告が間違っていなかったのは良かったが、成長しすぎじゃねぇか??)


 とにかく、落ち着こう。レインに慌てているのを気づかれるのは、兄として何となく癪だ。大量に友達を連れてきている。一人大人が混じっているのは気になるが。


「友達か? 入るか?」

「いいの?」

「狭いけどな」


 案内していて気づいたが、こいつら皆、背が高い。女の子達は、綺麗でかわいいし。

 ピンクっぽい髪の可愛い子と、レインが、ガッツリ手を繋いでるんだけど。


(どういう関係だよ??)


 色々な疑問を振り払いながら部屋に案内すると、両手を握り、気合いをいれた。

「よし!」


 レインの頭に手を伸ばす。自分なりの愛情表現。

 魔力の減ったレインは、ものすごい吸引力で魔力を奪ってくるから、気合いを入れるのは欠かせない。


 グシャグシャ~


 髪の毛を掻き回してみたが、魔力が抜けていく感覚がない。


「あれ?」


 いつまでたっても、レインの柔らかい髪を撫でているばかり。


「あれ?」


「ケン兄。僕、ちゃんと調節できるようになったんだよ。でも、そんなに長くは無理だから、そろそろ止めてよ」


(調節って??? 魔力の吸収を、止めたり出来るってことか??)


 手を離すと、「ふぅ」とレインは息をついた。


「調節なんて、出来るんだな」

「魔石で練習したんだ」


「へ?」


(俺、レインの兄貴なのに、何言ってんのか全然わかんね~)


「魔石を手にのせて、魔力を吸収しないように練習したんだ」


 魔石の魔力を吸収すると気持ち悪くなるから、ちゃんと調節できているかが、わかりやすいらしい。


「バン兄は??」


「もうすぐ帰ってくると思うぞ。」


 レインから友達と先生を紹介され、学校であったことを聞いているうちに、親が帰ってきて、バン兄が帰ってきた。

 話が盛り上がっているうちに、バン兄は輪に入っていた。


 急にレインがキョロキョロとし始めて、

「え~っと、え~っと」

と、困っているような気がする。


「レイン、大丈夫か??」


「あぁ、大丈夫。えっと、カイト先生。あっちの方が騒がしいんだ」


 一切話に入ってこなかった先生に話しかけたことに驚いたが、それだけで、レインの友達、全員とも、ピリッと雰囲気が引き締まっていた。


「それは、魔力的なざわめきだな。すぐにエインスワール隊に報告だ。今日は、宿に戻ろう」


「兄ちゃん達、また来るね~」


 そう言うが早いか、いなくなっていた。


(魔力的なざわめきってなんだ?嫌な予感がするんだけど……)

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