第70話 皿のもらいかた

「兄ちゃん、魔法教えてよ!!」

 ユージの弟たちが、ユージを取り囲む。


 そういえば、ユージがあれくらいの時には、すでに魔法を使っていた気がする。もっと小さい頃から、宿のお手伝いをしていたユージは、あどけない様子で宿のなかを行き来していて、様々な冒険者に声をかけられていた。中には魔法を教えるやつがいて、かく言うダンテもその口だ。

 それに比べて弟たちがお手伝いを始めたのは、ユージが学校にいってからだ。もう歳も大きく、二人でいることが多いので、話しかけづらい。

 ダンテも事務的な話しか、したことがなかった。


「じゃあ、まずは『熱』の魔法だな」

 そういいながら紙を取り出して、サラサラと魔方陣を書き付けていく。


 覚えやすくて、使いやすい。魔法を覚えるときの基本の魔法だろう。


「えぇ! 兄ちゃん。違うよ!! あの、薪を乾燥させるやつだよ」


 今日の昼間も、ユージ達は薪を作っていた。一年前にもすごいと思ったが、さらに無駄のない動きになり、感心して眺めているうちに薪が山のようにできていたのだ。

 最後に、ニーナが魔法で乾燥させているのが、圧巻というか、冒険者のダンテからしたら、現実離れしているというか……。とにかく、普通じゃないのだ。


「難しいぞ」


「えぇ、だって、兄ちゃん使えるんでしょ」

「そりゃあ、なぁ。練習したから」

「じゃあ、僕たちだって、練習すれば大丈夫だよ。それから、あの怪力をだす魔法も」


(あぁ、わかったぞ。楽して、薪を作ろうとしているんだな)


「怪力って、ニーナがやっているやつか?」

 ニーナの方を見ながら確認する。


 「そうそう!」と嬉しそうに頷く弟たちに、ユージは渋い顔をした。

「同じようには、俺でも、できないぞ……」


「えぇ~!! 兄ちゃんが、出来ないわけないじゃん」


(俺も、驚いたぜ)

 ユージは、なんでも出来ると思っていたから。考えてみれば、一緒にいるのはエインスワール学園の生徒なんだ。


(ユージが、遠い存在になったような気がしてきたぜ)


「『身体強化』は魔力量によるから、ニーナに敵うやつはいないよ。とにかく、『水』の魔法を使ってみてからだな」


 新たに書き直した魔方陣を渡しながら、見ずに書けるようになるまで覚えるんだと伝えている。

 弟たちは目を丸くして、「こんな細かいやつ覚えるの?」と、二人で魔方陣を覗き込んでいる。


「ところで、なんで、薪がなくなるのが早いんだ?」


「・・・・。」


 しばらく沈黙が支配する。


 顔を見合わせてモジモジとした弟たちが、誤魔化して逃げようとしたとき、

「待て」


 ユージが二人を捕まえた。弟たちは、襟を捕まれて、本気で逃げようとすれば首がしまりそうだ。


「いや~、おいちゃんがさぁ~。腰が痛くて、薪を作れないっていうから……」


「あぁ、おいちゃん、元気か?」


 ユージも知っている人だったらしい。


「お金もないし、薪が買えないから、今年の冬は越せないなんて言うから」


「それで、分けてあげたのか」


 「なんだよ。悪いかよ」と、ブツブツいう弟たち。


(知り合いか?)


「おいちゃんも、歳だからな~。よく遊んでもらったしな。そう思ったら、ちょっと足りないか?」


「でも、おいちゃん。遠慮して、あんまりもらってくれないんだ」


「まぁ、そういう人だからな。それでも、薪は多めに欲しいよな」


「はい! はい! 明日も、薪を作ればいいと思いま~す」

 ニーナが手まであげて、主張している。


 ユージの友達は、ニコニコしている。話し合いすることもなく、明日の予定を決めたようだ。


「はいはい! ご飯だよ!」

 女将さんが、厨房から顔だけ出した。


「取りに行こうぜ」

 ユージが声をかけると、皆でワイワイとご飯を取りに行く。


 今日のメニューは、クロコダイルの煮込み料理。トマトや、他の野菜と共にじっくり煮込んだものだ。


「あぁ、ごめんよ。いま置くからね」


 去年、直接お皿を受け取らなかったことを覚えている。レインという子だ。一度置いてくれなんて、変なお願いだったからよく覚えている。


「あっ! もう大丈夫です。去年はありがとうございました」


 そういうと、直接皿を受け取った。


 ニコニコと笑いながら皿を運んでいるが、さっぱり訳がわからない。

 身長も伸びて大人っぽくなったのとか、関係あるのだろうか??


 女将さんも首をかしげたまま、その後ろ姿を見送っていた。

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