第73話 分裂

 学園に戻り夕飯を食べていると、スワンがお盆を持って現れた。

「ここ空いてるよね?」

「うん。スワンは休みの間、何してたの?」

「僕は、実家でのんびりだよ。今日はポーション作っていたけど」

「今日? ってことは、明日からダンジョン?」


 3班は、明日はカーシャ先生にお土産を渡しつつ、練習場でポーション作りの予定だ。


「うん。マシューが焦ってて。今、3班と並んでるでしょ。魔物によっては、倒すと復活までに時間がかかるものもいるし、とにかく早く進めたいみたいで」


「まぁ、そうだよね」

 次は、課題36ファイアウルフの群れ討伐だ。


「ファイアウルフ、強いかな? 高く売れるといいね~」


 課題の話や、長期休暇中にあったことなど話ながらご飯を食べていたら、あっという間に時間がたってしまった。




「なぁ、スワン、お前本当に3班になったのか??」


 無言になるスワン。


「スワンは、1班のためにポーション作ったそうだよ」

 ポーション作りだって、3班であれば全員で手分けして行う。それをスワン一人にやらせているのだから、マシューにも班としての自覚があるのだろうかと、疑問に思う。


「あぁ、まぁ、それはいいんだが。お前、レナとマイを見たか?」

「いや、見てないけど」


「あいつら、まさか学校が始まるって気がついていないんじゃないだろうなぁ? こっちは急いでいるっていうのに」


 気がついていないということは、ないと思うが……。


「本当に使えない奴らばっかりだ!!」


 イラつきながら、どこかへいってしまったマシューの背中を見送る。


「男子は全員いるの?」


「うん。いたよ」

 3班が帰ってきていないので、昨日は1班の部屋で寝たらしい。全員揃っていたが、会話のない空間だったそうだ。


「女子の部屋、見てこようか?」


「う~ん。明日になればわかると思うんだ」


 全員集まっていないとダンジョンには入れない。ダンジョン事務所のお姉さんは、厳しいのだ。


「ポーション、無駄にならないといいけど」

「無駄になっても仕方がないかな。うちはいつかはこうなるかと思っていたんだ」


 ダンジョンで課題をこなしているあいだも、ずっとイラついているマシューに嫌気がさしていたらしい。


「まぁ、このままで、いいわけないけど」


 マシューが変わらなければ、もうどうにもならないところまで来ていた。




 次の日、ダンジョン前で待っていた1班男子だが、ついに女子が現れることがなく、女子寮に呼びに行こうと言い出したマシューを寮母のリサさんが止めた。リサさんが部屋まで行ってくれたのだが、誰もいなかったという。


 3班が、ポーションを作り終えて、道具を戻しにミーティングルームに向かっていると、またもや1班の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。


「先生!! あいつらの住所ってわかるんですよね!!」


「まぁ」


「教えてください!! 手紙で呼び出します!」


「まぁ、数日待て。もしかしたら体調を崩しているだけかもしれないだろ?」


「はぁ?? 二人揃って体調不良なんて、あるわけないじゃないですか!! 待てるわけないですよ!! 俺たちの卒業がかかっているんですよ。あいつら、勝手な行動ばっかりしやがって!!」


「わかった。じゃあ、3日間だけ待とう。それで来なかったら、手紙を書く。これでどうだ?」


「それでは、遅いと思いますけどね!!」


 大きな音を立てて扉を閉めて、一人どこかにいくマシューの後ろ姿が目にはいった。

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