第68話 尻尾ばっかり

 雪がちらつき、今年も冬がやってきた。

 長期休暇の前に、ダンジョンで課題ができるのは明日が最後だ。

 ユージは、早く実家に帰りたいという。去年の長期休暇で薪がなかったことを考えると、心配でたまらないらしい。残るほどの薪を作ってきているのだが、それでも信頼ならないという。

 ただし、学校が残っているのに実家に戻るのは、母に怒られる。大人っぽいユージだが、母には頭が上がらないらしい。


 そんなわけで、明日、課題35のエメラルドスネークを倒して、さらにお土産を用意したら、明後日から向かうことになっている。


「バルド先生!! わかっているんですか??」


 ポーション作成の道具を取りに、ミーティングルームに向かっていた3班は、マシューの怒鳴り声で足を止めた。

 どうも1班のミーティングルームの扉が開きっぱなしになっているようだ。


「どうして、1班が、あの3班に追い付かれるのか、教えてくださいよ!!」


 1班が、エメラルドスネークを倒せたのは、昨日のこと。しかも、すごく小さい個体だったようだ。「皆が倒したのと比べると、半分くらいかな」とスワンは、自分の頭の近くで、スネークの大きさを表すように手を動かした。


 1班が遅れたのは、3班のせいでもある。他の課題をやっているときでも、エメラルドスネークを見つけると、いい稼ぎになるとばかりに、意気揚々と倒していたのだから。

 ユージやレインに合わせて、親からの仕送りを断ってしまっている3班にとって、旅費のためにも、必要なものを買うためにも、お金はどうしても必要なものだ。

 エメラルドスネークは、見つけると一番テンションの上がる魔物だ。競うように狩っていたら、4階にいるエメラルドスネークを狩り尽くしてしまったらしい。


「班員が使えないんですよ!! 代えてください!!」


 足音を立てないように、ミーティングルームに歩を進めていた3班は、無言で顔を見合わせた。


 エメラルドスネークに関しては、ちょっと悪いとは思っている。しかし、1班の課題が進まないのは、班員の連携がとれていないからだ。

 マシューは、自分が一番だと思っている。魔力量や魔法の能力に関していえば、そうなのかもしれない。しかし、回復魔法だけをとったら、スワンが一番だろう。そのスワンも、ミハナの回復能力にはまけるが、ミハナよりも攻撃魔法が使える。

 一人一人、得意なものと不得意なものがあるのだ。そんな、連携など無視して突っ込むマシューに、協力する気がない班員。常に怒鳴り散らされているのだから、協力する気など起きないのだろう。


 スワンは、必要なとき以外は3班と一緒にいるので、一時的な協力だと割りきっている。それでも、1班で活動したあとは、ぐったりと疲れきっているので、沢山のことを我慢しているのだろう。最近では、少しずつ荷物も3班の男子部屋に運び込んでいるようだ。あいているベッドを使っているのだという。


 バルド先生の、はっきりとした声が聞こえた。

「エインスワール学園に入学したということは、どんな班を組んでも、卒業課題くらいは工夫次第で合格できる実力があるということだ。卒業課題がクリアできないということは、魔法能力以外の何かが欠けているんだ。そのことを良く良く考えるんだな」


「だから、欠けているのは班員の能力だって言っているんです」


 足を踏み鳴らすマシューに見つかり、八つ当たりされる前にと、ミーティングルークに急いだ。背後からは、マシューの唸るような苛立つ声が聞こえていた。



「はぁ~。スワン、大丈夫かな?」


「あいつは、強いから、大丈夫だろ。手を出すような場合は、バルド先生が止めてくれるはずだ」

 カイト先生が、椅子に座ってしまった。


 皆もつられて、ミーティングルームの机に、久しぶりに腰かける。今、ミーティングルームをでて、マシューに絡まれるのは避けたかった。


「ねぇ、尻尾って、20匹くらいあれば足りるかな?」

「20??」

 ユージが素っ頓狂な声をあげる。


「ニーナったら、尻尾だけ持っていくつもりなのかしら?」

「え? だって美味しいじゃん」


 「う~ん」と、ミハナが首をかしげる。

「ニーナちゃん、せっかくだし、宿のお客さんも驚かせたくない? まるごと数匹、尻尾は多めにでどうかな? その方が、油が乗っている肉と、さっぱりしたところと、色んな料理をつくってもらいやすいと思うの」


 ユージの宿屋へのお土産に、クロコダイルをどれだけ持っていくかのいう話だ。


「ユージんちの近くのダンジョンは、クロコダイル、とれないんだっけ?」


 うなづくユージを見て、「じゃあ」と。


「まるごとは3匹で、尻尾は7匹ね!!」


 20匹全部、尻尾以外を売るために捌くことを考えれば、7匹ですむなら簡単だと、十分感覚がおかしくなってしまっている3班は考えた。なにせ、クロコダイルを食べたくなると、10匹以上の尻尾を食堂に差し入れるのだから、それに比べれば少ない。

 最近ではリサさんも、「他の部位も、うまく調理するから、持ってきてくれ」と言い出している。


「そろそろ、いいかなぁ~」


 ミーティングルームの扉をすこ~しだけ開けて様子をうかがってから、急いで練習場へ向かった。

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