第66話 高く売れる?
1班が対峙しているのは、きれいなうす緑の大蛇。
人の胴くらいの太さのある大蛇は、とぐろを巻いて、存在感を放っていた。鎌首をもたげて、目の前のマシューを見下ろしていた。
「おおきいね~」
緊張感がない。
スワンによると課題35、エメラルドスネーク討伐。3班の3つ先だ。
マシューが、魔方陣を展開して、剣もかまえている。
人のことをバカにするだけあって、魔力量は申し分ないらしい。
マシューの剣は、うっすら炎を纏っているようだ。
マシューが何かを叫び、メンバーを鼓舞すると、そのまま大蛇の前に躍り出る。
魔方陣から、なにかを出しているようでもあるが、よく見えない。
自分の魔法で自分を援護して、大蛇の前で剣を振り回す。
少し遠くて見辛いのだが、
後ろにいる班員は、魔方陣を展開してはいるものの、全員まとまって突っ立っていて、向かっていく気配は見られない。マシューが邪魔で魔法を使えないだけ、というわけではないと思うのだが。
闇雲に振った剣が、大蛇の牙で止められる。
シャー!!
3班のいる場所でも聞き取れるほどの大きさで、大蛇が牙を剥く。
マシューは尻餅をついた。剣でスネークを牽制しながら、
足をバタつかせて、後ずさろうとしているようだが、ほとんど進んでいない。
大声をあげて、罵倒し始めた。
「お前ら、なんとかしろよ!!」
3班にも聞こえるほど、焦っているのだろう。
マシューが尻餅をついた頭上から、魔法を打ち込む。
赤いのは、炎系。白っぽくキラキラしているのは、氷系。なんの魔法を使っているのかわからないのは、風系だろうか。
大蛇に当たって、なんのダメージを負わさず、魔法が消えているみたいだ。
それでも、マシューから意識を逸らすのには成功した。
マシューがジタバタと立ち上がり、もう一度剣を構えた。
マシューに当たる危険があるからか、魔法攻撃はやむ。
(マシューもそうだけど、他のメンバーも離れて戦えばいいのに……。回復の要のスワンが、一番外にいるし)
万が一のときの『回復』は、最後の砦。
最後まで守らなければいけないので、3班ではミハナが一番真ん中だ。
ニーナとユージが目の前の魔物に対応する間、回りにいるメンバーで乱入してくる魔物への警戒をしつつ援護。ミハナが3班全体の状態を常に確認している。
大蛇が、ズルズル~と、動き始めた。
マシューが、炎の剣で切りつけたが、大蛇に振り払われる。
あまりの勢いに、地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。スワンが駆けつけて、『回復』の魔法をかけ始める。
他のメンバーが魔法を発動するのだが、少しも足止めにならない。
「うわ~!!」
蜘蛛の子を放らすように逃げ始めた。
「お前ら、俺を置いてくな!!」
マシューは『身体強化』で他のメンバーに追い付くと、一番前を走り出した。
「うわ! 俺は隠れるぞ。カイト、頼んだ」
バルド先生は、姿を隠した。
ニーナ達がいることなど、気がつかなかったようで、階段を駆け上がっていったが、大蛇は追ってこない。
「ニーナ!!! 行くぞ!」
始めにユージが走り出した。
ニーナが続く。
「あわわわ、光!!」
マシューは『回復』をかけてくれている、スワンを置き去りにしたのだ。
目眩ましの光に、大蛇が一瞬怯んだ。
シャー!!
牙を剥いて今にも飛びかかってきそうな大蛇に、剣を構えながら『氷』の魔法を発動していた。
ズリズリ~。
尻尾がスワンに向かって、振り下ろされ・・・!!
ガツン!!
その固い尻尾を、ユージの剣が受け止める。
「重いし、固い!!」
「ユージ!! その鱗、きれいだよね~!!」
「あぁ、高そうだな」
こんなときに、売ったら値がつきそうだなんて……スワンが口を開けたまま固まる。
「俺、スワン連れてくから、ニーナ、頼んだ!」
「よし! もう、一発かな!」
ユージがスワンを連れて3班のところに戻る。その代わりにイアンが剣を構えて少し前に出た。
でも、少しだ。あまり、前に出すぎると、ニーナの魔法に巻き込まれる。
「ニーナちゃんが一人!? 女の子なのに!?」
スワンが悲痛な声をあげた。
「へ? スワン、うちの前衛舐めんなよ。まぁ、見てろって」
ユージが、何てことない事のように言うので、スワンはギュッと縮こまっていた体を伸ばして、回りを見る。
隣には、ミハナ。それを守るように左右にカレンとレイン。ユージが後ろを守っている。
「ニーナの魔法が号砲だ」
「ニーナの手柄にならないかしら?」
「ニーナ、楽しそう」
「スワンもいるし、どうせ、もう一回戦わないとだよね。早く終わらせようよ」
エメラルドスネークは課題35。まだ課題32の3班が倒しても、課題には反映されないのだ。
大蛇の黄色い瞳をしっかり見据えて、ニーナは魔方陣を発動する。
魔法は使えば使うほどうまくなる。本日二度目だが、一度目よりもいい魔方陣がかけたはずだ。
「ニーナ、すでにアレンジか!」
近くにいるイアンにはわかったらしい。
「ふふっ。雷の、嵐!!」
元より、水を減らして、雷を増やすように魔方陣を組んだ。
五割増の雷が、大蛇の頭に向かって空気を引き裂きながら進む。
バリバリ、バリバリ!!
雷に打たれた大蛇は、焦点が合わないながらも、ニーナに牙を剥いた。
シャー!!
噛みついてきたのを、バックステップで避ける。
「ニーナ! 雷に集中して!」
レインが、魔方陣を飛ばしてきた。
「いくよ! 嵐!」
「雷!」
大きな魔力を込める!
大地すら引き裂きそうな恐ろしい音を立てながら、レインが放った水を伝って、大蛇の首にまっすぐ向かっていく。
バリバリ、バリバリ!!
強烈な電撃が、鱗を捲れあがらせ、身を焼く。
大蛇の大きなからだが、グラリとかたむく。電撃に続いて飛び出していたイアンが、顎のしたから脳まで貫いた。
ドガン。
「やった~!! ねぇ、ユージ!! 宝石みたいな鱗ある~!」
「えっ? どこ? 高い??」
「倒した、余韻みたいなものって、ないんだ……」
ミハナの隣で、スワンが呟いた。
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