第65話 先生って大変

 目の前を歩く一般の冒険者が、イライラしているのがわかる。

 その前を歩く1班が、ダンジョン内とは思えないほどダラダラと広がって歩いているからだ。


 ダンジョンに入る前からもめていたのだが、険悪な雰囲気のまま、ダンジョンに入っていった。


 3班は、少し時間をおいて入ったのだが、ダラダラ進む1班に追い付いてしまったのだ。


「えっと、先にレインの魔石、取りに行こうか」


 昨日、レインが両親に渡した魔石。


「ごめんね。せっかく皆にもらったものなのに」


「いいよ。あれはレインの物なんだし。使い方は自由だよ」


 あの後も謝ったのだが、誰もレインを攻めなかった。

 「明日、ちょちょっと寄って、とってくればいいよ~」と、ニーナの能天気な声とともに、笑いが広がったのだ。


 第3階で、ダンジョンの奥へ向かう列から離れて、森の奥へ進む。


 途中で出てくるポックンを倒しながら、勝手に親玉と呼んでいる巨大なポックンのところまで向かった。


 カレンのお姉さまがたへのお土産を用意しているときに出会って、必死で倒したのだ。


 ポッククン。ポッククン。


 ポックンよりも少し低くて、ゆっくりとした音が聞こえる。


「この木の向こうだね」

「この前、どうやって倒したんだっけ?」

「6人で取り囲んで、魔石をほじくっただろ」


 相手が魔物でなければ、ただの弱いものいじめだ。


「う~ん。固すぎるんだよね~」


 体が大きいだけあって、剣で切りつけてもびくともいないし、ちょっとした魔法では痛くも痒くもないようだ。


「ニーナ、本気だしてみれば?」


「え~! 私は、いつでも本気だけど! …………あっ! やってみていい?」


 皆が頷くのを確認して、ポックンの親玉の前に躍り出た。


 右手に集中して、魔方陣を描く。


 何度も本を見て、丸暗記してしまった五枚重ねの魔方陣。

 呪文を唱える前から、バチバチと放電が始まっていた。


「雷の嵐!!」


 魔方陣から放たれた、雨粒が風にのってポックンの親玉を襲い、その水を伝うように電光が走る。

 

 バリバリバリバリ~と空気を震わせて、幾筋もの光が親玉を襲う。


 バリバリ、バリバリバリ!!


 目映い光が収まると、ポックンの親玉は動きをとめ、うっすらと煙をあげていた。


「やったか?」

「たぶん、まだ!」


 ニーナは、大剣にいつもの3倍ほどの魔力を流し込む。『身体強化』で増した跳躍力で、身長の倍ほど飛び上がり、ポックン親玉の葉っぱの付け根を横薙ぎにした。


 ズサ!!!


 小気味良い音と共に、親玉の頭から葉っぱが落ちる。


「今だ!」


 ユージが親玉の頭に飛び乗り、ナイフを突き立てた。


 ガツ!


 ナイフが入らない!


「ニーナ!」

 待ってましたとばかりに、跳躍の高さも利用して、大剣を突き立てる。

(よし、入った!)

 そのまま、魔力を流し込み、てこの原理で魔石を取り出した。乱暴な使い方だが、魔力を流し込んでいれば、これくらいで壊れることはない。


 前よりも大きな魔石を透かして確認し、レインの目の前に差し出す。


「いくよ」


 確認して手の平の上にのせると、レインは真面目な顔で魔石を握り、急いで特製の箱にしまった。


「ふぅ~」

「大丈夫?」


 魔物の魔力は気持ち悪くなる。


「うん。これくらいなら」

「すげぇな」


 ユージがレインを誉めると、嬉しそうにはにかんだ。


 レインは、自分の体質と向き合っていた。常に魔力を吸収しているだけではなく、コントロールしようとしているのだ。


「じゃあ、下にいくか」


 第4階、始めての中級エリアだ。


 階段を降りていくと、それまでと大きくは変わらない。草原と林が点在している。


 辺りを見回しながら進んでいくと、大きな木のところ。こちらには背を向けて、木の影から何かを熱心に覗いている。たまに額に手を当てたりしているようだが、明らかに不審だ。


(変態だ)


 ここのダンジョンは、学園都市の中にある上級ダンジョンだ。

 学園都市は、王都からも近くて栄えているし、大変過ごしやすい。学園生の出入りが多いので、魔物の管理も行き届いている。


 したがって、女性の冒険者が多い。女性だけのパーティもいるくらいだ。


 ニーナ達は、お互いに顔を見合い、気配を消して近づくことにした。


 不審者の背中が大きくなってくると、なんだか見覚えがあるような……。


 誰だっけ?


 不意に、不審者が振り返る。


「うわぁ! 3班か!」


「なぁ~んだ。バルド先生か~」

「何しているんですか?」


「あぁ~」

 言いづらそうに視線をそらす、その先をみると、1班が戦っていた。


「もしかして、カイト先生も?」

「カイト先生、あそこにいるよ。いつもいるけど」


 レインが後ろを指差す。魔力食いの体質から、誰よりも魔力探知にたけている。というか、レインしかできない。


 レインに指摘されたカイト先生は、こめかみの辺りを掻きながら、なんとも言えない表情で姿を表した。


 すぐに『身体強化』で走ってくる。


「やっぱり、レインには気づかれてたか……」

「でも、先生、もう一人・・・」

「わぁ~!! レイン!」

 急に小声になって、レインに耳打ちする。

「言わなくていい。っていうか、内緒にしてくれ」


「はぁ~い」

 レインが小さな声で返事をするので、皆、首をかしげた。

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