第55話 もうすぐダンジョン
朝から食堂は喧騒に包まれていた。実家に帰省していた学園生も多かったので、全員揃うのは久しぶりだ。ただ、112期生の先輩達が卒業してしまったので、空いている席が目立つ。
今日、後輩である118期生が登校してくるはずだ。ここ数日、荷物の運び込みなどがあって、落ち着かない雰囲気だった。
登校時間は、家が遠い生徒のことも考えて、午後である。
それまでに、練習場に行かないとならない。
ダンジョンに入れるようになるまで、課題はあと二つ。
スワンから聞いた情報なので、確実だ。
ダンジョンに入るときには、ネームプレートの他にも防具や、台車、ポーションボックスなど、揃えなければならないものが多い。
学園生としてダンジョンに入るには、事務所で購入したエインスワールの紋章入りのものでなければならない。
かなりの金額を、口座のお金として用意しなければならず、スワンが泣きそうになりながら薬草を取っているのを見つけてしまった。
マシュー達がどうやって、お金を貯めたのかはわからない。しかし、スワンが最後になってしまって、かなりの嫌みを言われたらしい。
寒さのなか、一人鼻の頭を赤くして薬草を採るスワンを放っておけず、皆で手伝ってあげたのだ。
カレンの魔道具のために薬草採りをしたばかりだったので、どこに高い薬草があるか熟知していた。
全員で手伝ったので、課題をしていない午後だけ手伝ったのだが、二日ほどでスワンの必要経費を貯めることができた。
泣いて喜ぶスワンだったが、その代わりに先の課題を教えてもらっているのだ。
最近では、1班の雰囲気に嫌気がさして、3班の男子の部屋にいることも多いらしい。
ダンジョンに入るための装備だが、同然、3班も用意しなければならない。
台車とポーションボックスは、ライアの班から借りることになっているが、ネームプレートと防具はそういうわけにはいかない。
長期休暇中から、コツコツと薬草採集していたのだが、この寒さでは薬草もあまり生えてこないので、あまり貯まっていなかった。
「おはようございま~す! カーシャ先生~、お久しぶりで~す」
「あら、あら、あら、あら。あなた達、元気にしていたかしら?」
「ユージの実家に言ったんですよ~。それで、カーシャ先生にお土産」
ニーナが代表でお土産を渡すと、カーシャ先生は無言で袋を空けた。
中から出てきたのは、花柄のカップだ。練習場に誰もいないときには、お茶を飲みながらのんびりしているようなので、使ってもらえるはずである。
「あ、あら、あ、あら、・・・」
カーシャ先生を見つめると、瞳が潤んでしまっている。
「カーシャ先生!! 大袈裟!!」
「使ってくれるわよね?? それに、私たちの課題も見てもらわないと困るのよね~」
「あら、あら、そうね。新入生も来ちゃうから、今のうちよね」
ミハナが使う『回復』の簡易バージョンである『治癒』の魔法。
しっかり練習してきているので、一発合格だ。
最近ではニーナも、練習場以外で指輪を取ってもいいことになっていた。ただし、不意に魔道具に触れて壊してはいけないので、魔法を使いたいときにだけ外すようにしている。
次の課題は、テントで一泊。
ダンジョン内で泊まることもある。そのためのエインスワール印のテントを建てて、一泊するというものだ。
まだ雪の残っている外でテントでは寒いかと思ったのだが、ライアの班が、暖房の魔道具を貸してくれたので、以外と快適だった。
「こんな寒いときに、テントに泊まったの??」
夕飯を一緒に食べていたスワンが、驚きの声をあげる。
今日はマシューの虫の居所がわるく、マシューを避けて
いるらしい。一人にしておくと、さらに機嫌が悪くなるのだが、スワンとしては、機嫌を取るのは自分の仕事ではないとのことだ。
「魔道具があったから、大丈夫!!」
「本当に3班は準備万端なんだから。結局、テントは借りたんでしょ」
「うん。先輩にね。ダンジョンに入ったら、稼いで買わないとならないんだけど、それまでは借りる約束してるんだ」
「うちなんか、酷かったんだから。よく、バルド先生、合格くれたってくらいに、揉めに揉めたんだよ」
マシューが大声で指示を出しているのだが、やったことがあるわけではない。間違った指示を出しているのに訂正しないどころか、その通りにやらないと怒る。間違っているので、出来るわけないのだが、それも人のせいにして怒る。
結局二人しかいない女子のテントが先に建ってしまった。それに、さらに怒るのだから、質がわるい。
女子二人は、携帯食を二人で食べて、先にテントにこもってしまったのだという。
男子のテントは、腹を立ててどなり散らすマシューが、しばらくその場を立ち去ったときに建てたらしい。なぜ、場所を離れたのかは、トイレだったのか、居たたまれなくなったのかは定かではないが。
この頃では、マシューの取り巻きをして持ち上げていたメンバーも、仕方がなく付き合っているといった様子だ。
「本当に3班が、羨ましいよ」
スワンの、気持ちが籠りに籠った呟きに、何て返していいのかわからなかった。
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