第54話 一泊帰省
「おはよう」
そう声をかけると、朝御飯ののったお盆をレインの隣に置く。
「おはよう。ニーナ。今日も可愛いね」
「レイン、おかしくないかな?」
ニーナは自分の服装を、あちこち確認しながら椅子に座る。
「いつも通り可愛いよ」
「よかった。レイン、ちょっと待っててね」
レインを待たせているのはわかっているのだが、やっぱり支度には時間がかかってしまうのだ。今日久しぶりにお母さんに会うというのも、時間がかかった理由なんだけど。
「大丈夫。こうしていていい?」
そういうと、レインがニーナの腰に手を回してきた。椅子が離れているので、背中辺りに手を当てているのだが。
「えっ!! なんかちょっと恥ずかしいかも」
「でも、ニーナは今日から実家に行くんでしょ。ちょっとでも触れていたいな」
(そう言われると、勘違いしそうになっちゃうじゃない。レインは魔力が好きなだけなのに)
「う~ん。魔力も減っていたみたいだし、仕方ないな」
スーッと魔力が無くなる感覚がしているので、早く魔力が欲しかったのかもしれない。
ご飯が終わって、レインと手を繋いで歓談していると、遠くにいる1班と目があってしまった。
ズンズンという音が聞こえそうな歩き方で近づいてくるマシュー。今日はスワンは一緒ではないらしい。
「おまえら、いつも、いつも、お手手つないで、なにしてんだよ!?」
マシューには関係ないと思うのだが、レインの体質について言うべきかどうか……。
「いちゃいちゃしやがって、ここに遊びにきてんじゃねぇよ!!」
遊びに来ているつもりなど、これっぽっちもないが……。
「なんか言えよ!! 無視すんじゃねぇよ!!」
いや~。別に言うことないし……。
「はぁ?? おまえらムカつく!! とくに、お前!!チビでブス!!」
ニーナに向かって、唾まで飛んできた。
ニーナが、眉間にシワを寄せていると、足元から冷気がゾワゾワと漂ってくる。
「へっ? へっ? 何か寒い??」
何が起こったのかわからずに焦るマシューを、レインがキッと睨み付ける。
「ニーナをバカにするなよ!!」
レインが話すと、さらに冷気が増した。マシューが顔色を悪くする。
「はぁ~?? おまえらなんて、遊んでばっかりじゃねぇか!? ばぁ~か!!」
そう言い捨てると、肩を怒らせていなくなる。
「ニーナは、こんなに可愛いのに」
「ふん!」と鼻を鳴らすレインに笑ってしまった。
「じゃあ、いってきま~す」
そう言って、学園をあとにして、家までの道のりを進んだ。お昼頃につくと約束してあったので、そんなに急いでも仕方がない。
軽く身体強化をかけて走る。軽くがポイントだ。急ぎすぎても早く着きすぎてしまう。
お土産を渡してギュット抱き締めてもらう。久しぶりに食べた母の手作りご飯は、なんだか懐かしく、涙が出そうになった。
「ニーナ、あなた、大きくなったわよね?」
「えっ? そうかな?」
「えぇ。これくらいだったと思うのよね~」
母は、棚の一部を指差して言う。とくに印をつけたりはしていないものの、棚のどの辺かと、成長をチェックしていた棚だ。
「確かに。これくらいだったね~」
「やっぱり、魔力を閉じ込めていたのが悪かったのかしら? お父さんもお母さんも小さくないのに、ニーナだけこんなに小さいなんて」
「お母さんは、ちょっと小さいと思うけど」
「ちょっとよぉ~」
「ふふふふ」
一頻り笑った母は、急に真面目な顔をした。
「ところで、レイン君とはどうなの?」
「えっ?? なんでレイン?」
なぜレインだけ特別に聞かれたのかわからずに、首をかしげる。
「だって、あの子、魔力食いなんでしょ」
「うん。だから、私の魔力を分けてあげるの」
「ふ~ん」と含みのある相づちを打つ。
「仲良くしてる?」
「そりゃあね」
「レイン君、いいこよね」
母の意味深そうな笑顔が、恐ろしい。
一泊だったものの実家を満喫して、母とはわかれた。帰りも軽く走って帰ろうと思ったのだが、誰かにつけられているような気がして、本気で走って帰った。
思ったより学園につくのが早くて、レインが喜んだので、本気で走ってよかったのかもしれない。
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