第52話 帰るときも嵐のよう

 次の日は狩りにいき、仕留めた獲物はカイト先生に売ってもらった。

 そのお金を六等分し、お土産探しだ。


「う~ん。何がいいかな~?」

「ここらへんは、初級ダンジョンしかないからなぁ~」


 初級ダンジョンにいる魔物素材を使ったものは、沢山並んでいる。

 しかし、ニーナの親は宮廷魔道師。初級ダンジョンくらいなら仕事で行くだろう。この前、魔鉱石を買ってきてくれたガジェット鉱山のダンジョンは、特級ダンジョンだ。初級ダンジョンの素材など珍しくないはず。


「このポーチかわいいかな??」

 魔物の皮を加工した小さなポーチ。茶色くて小振りな一品。


「かわいいじゃない。ニーナのお母さんにぴったりよ」


 ニーナは、ポーチを買った。

 それぞれ家族などに買う。


「カーシャ先生、何がいいかな?」


「いつもお茶を飲んでいるし、カップとか?」

  

 落ち着いたデザインがいいか、可愛らしいデザインがいいかとさんざん悩んでから、花柄のカップを買った。


 薪をもう少し補充して、最終日にはもう一度狩りにいき、帰るための費用を準備した。


「女将さん!! めっちゃ楽しかったです!!」


「逆に、うちの手伝いばっかりさせちゃって、ごめんなさいね~」


「楽しかったわ。女将さんの料理美味しいし、ねぇ、また来るわよね~」


「でも、ここまで遠いでしょ~」

 女将さんが眉尻を下げた。


「走ればすぐよ。私たち、もう少しでダンジョンに入るのよ。これくらいの移動なら、トレーニングよねぇ~」

 カレンは、この家庭的な雰囲気が楽しかったようだ。


「ユージ。もう帰っちゃうのか??」

 ダンテが話しかけてきた。


「ダンテさん! もうちょっと休みはあるんですけど、授業の準備もしたいですし、皆も実家にいくんじゃないかと」

 ユージはそう言ったが、この後の予定が決まっているわけではない。


「そうだよなぁ~。皆、あの角の部屋、寒くなかったのか??」


「あぁ、あそこ、寒いですよね。俺たちは、『熱』の魔法で温めたんで大丈夫ですよ」


「あ……。そうだな……。その手があったか……」


(そんなに簡単に出来るもんなのか??)


「ダンテさん、ダンジョン攻略、頑張ってくださいね」


「俺は、攻略しに来ている訳じゃないって。安全に稼ぎたいんだ!!」


「そうっすよね!」

 ユージは、小さい頃のように無邪気に笑った。


「また、来いよ。って言うのもおかしいな。お前の家だ」


 そこまでにこやかに話していたダンテは、少し言いづらそうにした。

「ちょっとだけ気になることがあってな、俺は先生に聞きたいことがあるんだ。ちょっといいか?」


 カイト先生はが無言で席を立つ。


 ダンテとカイト先生は背中を向けて話し始めた。


「先生、あいつら、すげぇんですよね? こんなところにいていいんですか? めっちゃ目立ってるし、悪いやつに目をつけられますよ。先生は知らないかも知れないですけど、ここら辺って、ベルゼバブがいたって噂があるんですよ」


 ダンテはベルゼバブについては詳しくなかった。ただ悪い奴らだと。すごいやつが狙われているとかで、自分には関係ないと思っていたのだ。


「心配してくれたんですね。でも、それについては、心配無用です。彼らは、金剛石です。ベルゼバブを含めて、一般人には手出しできないってわかるでしょう?」


 カイト先生は、澄ました顔で笑った。


 ダンテはその顔になぜか背筋が寒くなる。


(さすが、エインスワール学園だな。付き添いの先生も怖えぇよ!!)




「女将さん~!! また来るね~!!」

 ニーナの元気な声が聞こえる。


「兄ちゃん!! 今度来たら、僕らに魔法教えてね!!」


「ユージ、しっかりね。いい仲間だ。大切にするんだよ」


 女将さんだけは、今生の別れのように泣いてしまっている。


「母さん、泣きすぎ。またくるよ。じゃあ。」


 そういうと、帰っていく。ずっと見送っていると、町の端で、振り返って手を振ったりお辞儀をしたりしてから、『身体強化』を発動したのだろう。一瞬にして見えなくなっていった。

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