第51話 冬に薪は必須
朝御飯を食べているとユージ達が起きてきて、昨日と同様のやり取りをしている。ダンテも二度目となれば、そのやり取りにも慣れてきた。
しかし、薪を作るって、今日一日で出来るものなのか? 俺だって、自分の家の分の薪は用意するが、夏の間に倒れた木を見つけては、こつこつ、ちょうどいいサイズにきっておくのだ。その後、乾燥しなければならない。一年から二年乾燥すれば十分だろう。
ただ、ユージは昨日狩りに行くことを提案した。ということは、今日一日でなんとかなると思っているということだ。
(どうするんだ?)
ユージ達は、呑気に楽しそうに食事をしている。心配なのか、楽しみなのかよくわからない気持ちを抱えて眺めていた。
「さ~て、やるか~!!」
今日も大量の見学がいた。なんだか、この宿の宿泊者以外もいないか??
その中に次男と三男の姿も。やっぱり、薪のことは気になるらしい。
「はぁ~い」
いつもながら、気の抜ける返事だ。
「ニーナは、これ。イアンは、これ・・・」
ユージは様々な道具を持ってきて、皆に配っていく。なぜ、小柄なニーナが大きな斧なんだ?
準備が出来ると、森にはいっていってしまった。
弟たちが、その後ろをついていく。
(危ないんじゃねぇか??)
ハラハラしながら弟たちの後ろをついていく。ここまで付いてきている見学者は、さすがに減った。ユージが、どの木を切ろうか、選んでいるようだ。さらに近づこうとする弟たち。
「おい。危ないぞ」
堪らず声をかけると、ユージが気がついて戻って来てくれた。
「ダンテさん。すみません。コージにエイジ。これ以上近づいてはいけない」
「そうだぞ。見ていたいのはわかるが、怪我をしたら元も子もねぇ。ここらだったら大丈夫か?」
「ここで、ギリギリかと。お前たち、ここにいてもいいが、絶対にダンテさんのいうことを聞くんだぞ」
無言で頷く弟たちを残して、ユージは仲間のもとに戻っていった。
「ニーナ。これだ」
一本の木を示すと、ニーナが斧を振りかぶって、木の根本に打ち付ける。
ドガン!!
爆音がなって、大きく抉れた。
「えい!!」
可愛らしい掛け声に、可愛らしくないパワー。
「えい!」
ドガン!!
「えい!」
ミシ、ミシ、ミシ、ミシ。
(えぇ!! 今の時間で一本倒したのか? )
「浮遊!!」
ゆっくりと倒れていく。
「えい!」
最後にちょっと繋がっている部分を思いっきり叩ききると、完全に浮遊でフヨフヨ浮いている。
ゆっくり下ろすと、ニーナにノコギリを渡す。いや、三人くらいノコギリを持って、同時に切りはじめた。
絶対、『身体強化』を使っているだろ? ありえないスピードだ。
身長の二倍ほどもある丸太が、フヨフヨと浮かんで運ばれていった。ドサッと、宿屋のとなりにある広場におかれる。
弟たちを伴って宿屋の方に戻ったのだが、自分の目が信じられないくらいだ。
次々に、丸太がフヨフヨ飛んでくる。
隣を一人ずつ歩いてくるので、『浮遊』の魔法を使っていることはわかっているのだが。
ユージが次々に指示を出して、ノコギリで切り分けていく。
「ユージ~。もう一本切っていい?」
ニーナが大きな斧を担いで戻ってきた。
「あぁ、ニーナ。これ割ってくれ」
と、丸太を示す。
「思い切りやっていい?」
「あぁ、やってくれ」
持っていた大きな斧を思いっきり振りかぶって、地面においた丸太に向かって、振り下ろした。まるで斧がハリボテなんじゃないかと思うような、軽々とした動き。
ガン!!!
(一撃だった……)
大きな丸太は、ニーナの大きな斧で。小さくなったものは手斧で。どんどん割っていく。
先生も手伝っているので、7人。人数が多いということもあるが、驚くほど早い。
あっという間に一本の木が、薪になってしまった。
広いところにすべてまとめておくと、山のようになった。あれは、何日分なんだ? この冬くらい十分に越せそうなんだが。
「カイト先生~。急ぎなんで、ニーナにお願いしてもいいですか?」
先生は、仕方がなさそうに頭をかく。
「ニーナ、気を付けろよ」
「はぁ~い」
「皆は、ちょっと離れて。ニーナ、あそこに向かって『水』の逆だ」
(『水』の逆だって?? 物質系の魔法は『浮遊』ほどじゃないにしても、難しいぞ。しかも、あの子は魔法が苦手なんじゃ?)
すっと手を伸ばして、魔方陣を発動すると、「乾かす」と唱える。
バキ、バキ。バキ、バキ。
木材が軋む音を立てる。
(いや、いや、いや。なんて範囲が広いんだ。魔法が苦手なんじゃなくて、強力すぎるのか??)
「ニーナ!! ストップ!!」
ユージが近づいて、薪同士を打ち付けた。
軽い、乾いた音がする。
「うん。十分だ。あそこに運んだら、今日は終わりかな」
弟たちは目を輝かせてユージ達を見ているが、あれは真似などできないと言ってやるべきか??
「え~!! もうちょっと遊ぼうよ!!」
(やっぱり、あの子達にとっては、遊びだったんだ……)
「ニーナったらぁ~。昨日は、女将さんに料理を教えてもらいたいって言っていたでしょう」
「う~ん。美味しいものが食べたいだけなんだよね~。作ってもらえればいいかな~」
「もう、ニーナらしいわねぇ~」
そう言いながらも浄化をかけて服をきれいにしている。
ユージ達は、「お腹減った~」と、食堂に入っていってしまった。
(エインスワール学園って、皆あんな感じか? それにしても、あの子達って、金の卵なんじゃないか? 先生が引率でついてきているとしても、こんなところでフラフラしていていいのか?)
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