第50話 どれだけ凄いんだ?

 ダンジョンでの成果は、時間が短かったわりには、まずまず。

 出稼ぎに来ているのだから、稼がねばならない。それに、ユージ達があんなに面白いのだ。

 稼いで、食堂で酒でも飲みながら眺めていたい。


 いや、いや。まずは、今日の成果だ。ユージ達は何か獲れただろうか?


 宿に戻ると、すでに冒険者がたむろしていた。

 彼らがまだ待っていると言うことは、ユージ達は戻っていないということだ。


 ダンテは急いで荷物を片付けると、ユージ達を待つ集団に加わる。


「なぁ、獲れるかどうか賭けようぜ」


(いや、獲れるに決まっているだろ)


「え~。どうせお前、獲れる方に賭けるんだろ? 賭けになんねえよ」


 冒険者の話しに心の中で突っ込みをいれたり、同意したりしていると、賑やかな話し声が聞こえてきた。


 行きはあんなに急いでいたのに、帰りはゆっくり歩いて帰ってくるんだなと、しょうもないことを考えてると……。


(いや、ありゃ、走れなかったんだ。獲物が多すぎる)


「はぁ~??? 何匹獲ってきたんだ??」


 誰かの呟きだったんだと思う。いや、ダンテ自身も呟いていたのか??


「一人、一匹か?」

「そうだな。先生は付き添いだとすると、一、二、三………六」


 ユージが女将さんを呼んでいる。


 宿から出てきた女将さんが驚いているのもお構いなしに、ニーナが剥いできた皮を渡した。


「自分達じゃ売れないんで、実物ですみません。宿泊代です」


「いや、あの。お金なら先生にもらったよ」


 ニーナは、「へ?」と目を丸くしたが、「あぁ」と気がつくと、なんでもないことのようにサラリと言った。

「あれは、先生一人分ですよ」


「あ、あんた達!! うちをどこの高級宿と勘違いしてるんだい!?」


「まぁ、受け取っておきなよ。食事代も含んでいるんだから。んで、今日は、肉いる? 残りはどれくらいの大きさにして、凍らせればいいの?」


 女将さんの話を見事にぶった切って、ユージが早く教えろと催促している。


 女将さんは、目を白黒しながら、獲物をチェックしていった。

「今日は、少しでいいよ。あんた達と、これを食べたいって人に出してあげる分だからね」


「女将さん!! 俺、食べたいです!!」

 ダンテは、誰かに先を越されたと思った。

「俺も!!」

 手まで挙げて訴えると、他の冒険者も続いた。


「あぁ!! ちょっと多めに頼むよ」


 女将さんはそう言い直すと、「これは、ここで切って。あれは、三等分」と指示を出しはじめる。


 すべて切り終えると、今日使わないものを集める。


「じゃあ、イアン頼んだ」


「はいよ」


 気軽に返事をすると、手を回して魔方陣を発動する。


 素早い発動に、ダンテはじめ、見学者は息を飲んだ。


「冷やす」


 魔方陣を肉に近づけて、パキパキ音を鳴らせて急激に凍らせていく。


(見事な魔法発動だ)


「じゃあ、こっちによろしく」


 「浮遊!」と魔方陣を発動して、肉を食料庫に運び込んでいった。


(『浮遊』って、結構難しい魔法のはずなんだけど……。エインスワール学園って、末恐ろしいな)


 この時期、夜は氷点下。昼でも日陰にある食料庫は温度が上がらない。そこら辺に大量にある雪でも突っ込んでおけば、しばらくもつだろう。


「あんた達、着替えておいで。早いけど、ゆっくり食べな」


「いや。『浄化』でいいよ」


 そう言うと、それぞれ自分に『浄化』をかけはじめた。ニーナってこだけは、黒髪の子にかけてもらっていたのだが、彼女だけは魔法が苦手なのか?





 始まった夕飯も賑やかで、楽しげな会話が聞こえてくる。

「おいし~!! 楽しかったし、また、狩りに行こう!!」


 ダンテも鹿肉のソテーを口にふくむ。赤身の肉の旨味が口のなかに広がる。

(あぁ、ユージが獲ったものを食べられるなんて、幸せだ)

 ついつい、父親のようなことを考えてしまう。


「そうだな~。帰りの宿代も稼ぎたいし、もう一回くらいは行かないとならないな」


「でも、明日はやらなきゃならないことがあるんだろ?」


「あぁ、薪がな、ないんだ」


「薪??」


(そうだった。ユージは忘れてなかったんだな。俺は、すっかり忘れていたよ)

 ダンテは薪ストーブの方をみる。隣には沢山の薪が積み上げられていた。


「そう、明日は、ニーナ、頼んだぞ!!」


 肉から顔を上げた、ニーナ。目を輝かせている。


「暴れてもいいの??」


「まぁ、ちょっとはな」


「やったぁ~!!」


(暴れるって、どういうことだ?)


「ニーナは、ちょっと元気すぎるのよね~。ところで、ミハナ、それ気に入ってるの?」


 大人っぽい女の子が、大人しそうなミハナの持ち物を手に取りながらいう。


「あぁ! それって、お母さんが持ってきた魔鉱石!」

 ニーナも食いついた。


「うん。ガジェット鉱山の魔鉱石だよ。気に入っているっていうか、これ見ていると頑張らなきゃなって思うんだ」

 ミハナが、緑色の魔鉱石を揺らした。


 初級冒険者のダンテからすれば、これ以上頑張ってどうするんだよと思わなくもないが、世界最高峰の魔法学校の生徒は大変なんだろうなと、ぼやっと考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る