第49話 食料は現地調達

 ユージは、森の中にある小さな池で足を止める。

 動物達が、水呑場にしている池だ。


「ここら辺に、いることが多いんだけどな」


 今日はなにもいない。まぁ、水呑場になっているからといって、ずっと留まっているわけではないので、動物がいるほうが珍しいのだ。


「じゃあ、探せばいいよね」


 ニーナが、キョロキョロとし始める。


「ニーナ、大声で話していると、逃げられるそ」


 魔物であれば人を認識すると襲ってくるので、話していても問題ない。野生動物については、逆だ。人がいるとわかると逃げてしまう。


「はぁ~い」


 いつもよりは小さな返事。一応気にしているようだ。


「ニーナ、あれは?」


 イアンが、すごく遠くに顔を出しているシカを発見した。距離が遠いので、警戒しつつもニーナ達が何をするつもりか、見ているようだ。


「私、いってくるね。身体強化!!」


 地面をけると、一気にスピードをあげて、木々の中に走っていってしまった。


 ニーナが急に近づいてきたのに驚いたシカは、大きく跳び跳ねて、背を向けて逃げ始めるが、ニーナのスピードの方が早い。すぐに追い付くと、思いっきり鉈を振り下ろした。


 少しだけ、生きているものの命を奪うことにゾワッとした感覚はあったが、それも一瞬。ニーナは自分のスピードに、怖いと思う暇もなかった。


 ついさっきまで生きていたシカが横たわって入る。


 自分がすごく恐ろしいことをしたのではと思い始めた頃、足音が聞こえた。

「ニーナ。すごいね。僕が運んであげる」


 気がつくとレインが隣に来ていて、ニーナの服に『浄化』の魔法をかけてくれた。そして、シカを『浮遊』の魔法で浮かせて運んでいく。


「あぁ、レイン待って」

「このあと、血抜きをして、皮を剥いで、その後女将さんに美味しく料理してもらおう」


 レインが左手を出してくるので、自然とそれを握る。

 ニーナの目を見たまま、嬉しそうにニヤッと笑った。魔力が吸われてスゥーっとするはずが、ギュッと握るその手を暖かく感じた。


 池の場所まで戻ると、皆が拍手で迎えてくれた。

「さすが、ニーナだな」


 ユージがシカの足を縛り、近くの木につるす。しばらくこうして血抜きをするようだ。


「じゃあ、少し移動して、探そうか」




 イアンは覚悟を決めた顔で、落ち着いて、シカを狩った。

 カレンは、「ひゃぁ~」と、大声をあげながらだったが、なんとかイノシシを倒して肩で息をしていた。

 レインはサクッとイノシシを倒して、ユージは、言うまでもないだろう。


 ミハナが遠くのシカから目をそらさずに、ガタガタと震えている。


「ミハナ。無理しなくてもいいぞ。肉はもう十分だし、獲ったら皮を剥いだり、内蔵を出したりしないとならないからな」


「ううん。私、頑張る」


 ミハナは鉈をグッと握り直した。

「うぅぅぅ」


 ミハナは、木々の間からチラリと見えたシカを怖い顔で睨み付けて、それでも手の震えを止められなかった。


「大丈夫。大丈夫。出来る。出来る。私は強くなるんだ!!!」

 自分に言い聞かせるように呟いていたが、空いている手で腿を叩いて渇を入れる。


「はぁ~!!」


 掛け声でも気合いを入れると、走り出した。


 様子をうかがっていたシカは、高く飛び上がると、一目散に逃げ始めた。


 スレスレで木々を避けながら、シカを見失わないように走る。


 怖くないと言ったら嘘になる。でも、もう足を止めなかった。


 身体強化も苦手だったが、移動中ずっと使っていたら、嫌でもうまくなるというものだ。ニーナとユージの魔力が多い二人はスピードも段違いでそれには敵わないが、十分うまく使えるようになっていた。

 どちらかというと大人しかった自分が、こんなにも動けているのを不思議に思いつつ、シカに追い付く。


 シカは、追い付かれてパニックになったようで、ミハナの方に体当たりを食らわせてきた。


 身体強化中のミハナが、そんな攻撃でやられるわけがない。


 体当たりを食らう前に、鉈を思いっきり振り下ろす。

 倒れ込んできたシカを避けて止まる。


「やった……?」


 怖々とシカを覗き込んで死んでいることを確認すると、膝が震え出してしゃがみ込んでしまった。


「ミハナ、ナイス!!」

 ニーナが助け起こしてくれて、ユージが獲物を『浮遊』で運んでくれた。


「私、できた……」


「うん!! ミハナ、すごい、すごい!!」


「えへへ」


 その後、血抜きが終わったものから内蔵を抜き、皮を剥ぐところまでは池の回りで済ませた。そのときはカイト先生も手伝ってくれたので以外と早く終わった。


 シカを『浮遊』で持ち帰ると、ダンテをはじめ、沢山の冒険者が集まっていた。

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