第48話 ついていけない

 ユージ達の食事が終わるのを宿屋の入口付近で待っていると、すこしずつ人数が増え始めた。

 ダンテと同じように、ユージ達の狩りが気になって見学するつもりなのだろう。

 大人数で押し掛けたら獲物が逃げてしまうが、そんなことより好奇心が勝ってしまっている。ダンテもそうなのだから、他の人に文句を言うこともできなかった。


「ユージ~?? 何がとれるかな?? ウサギ? シカ? イノシシ?? あぁ!! クマだ!!」

 ニーナが指を降りながら、動物の種類を数えている。


 いくらなんでも、クマは無理だろ。集まった冒険者の何人がそう思っただろうか。


「クマは冬眠してるから、厳しいかもな~」


(そういう問題か? クマは狂暴だからと言ってくれ……)


「じゃあ、クロコダイル探そ~。美味しかったんだよね~」


(ク、ク、クロコダイルゥ~??)


「ここは初級ダンジョンだぞ。一階にクロコダイルはいないから、出てくることはないな」


 ダンジョンから魔物が出てきてしまうことはある。あまり人の入らないダンジョンでは、倒されずに増えすぎた魔物が、出てきてしまう。ただし、一階の魔物がほとんどだ。魔物が溢れていることを見つけた時点で、エインスワール隊が派遣されて、増えすぎた魔物を狩っている。


 ここの初級ダンジョンは、毎日誰かは入っているので、魔物が溢れるとは思えなかった。


「う~ん。やっぱり、クロコダイルは、ダンジョン行けるようになるまでお預けかな」


 「美味しいのに~」と文句をいうニーナの姿に、クロコダイルの味が気になってしまう。


(そんなに美味しいのだろうか?)


 ニーナが屈伸を始めた。他の子達も体を伸ばしたりと、準備運動をし始める。


「ちょっと待っててくれ」

 そう言うと、ユージが納屋へ向かう。

 手には、鉈や鎌が握られていた。


 それを、一人一つ配る。

「とりあえず、これ武器な。ニーナ、壊すなよ」


「えぇ~!! 壊したら、ユージ直してよ」


(ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくれ。そこは、壊さないと反論するところだろ? いや、いや、まず、鉈や鎌を配ってるのっておかしくないか?)


「はぁ、壊すなら、直せる程度にしてくれ」

「はぁ~い」


(なぜ、壊すこと前提に話が進んでいるんだ?)


「ところで、ダンテさん。それから、皆さん。お揃いで、どうしたんですか??」

 ユージが話しかけてきた。


 ダンテは、他の冒険者を見回わす。お前が言えよという気配がひしひしと伝わってくる。

 なんとか大人の威厳を保って、・・・あまりの規格外の会話にびびっている気持ちを隠して、ユージを見た。


「狩りにいくのは、危険がともなうからな」


(ついていってやってもいいんだぞ)


 ちゃんと伝わっただろうか?


 ユージは困ったように笑うと、頭をボリボリとかく。


「えぇ~っと、ダンテさん。僕たちは僕たちのペースでやりたいんで」


 ペコリと頭を下げると、友達の輪の中に戻っていってしまった。


「じゃあ、いこう!!」

 ニーナが小さな拳を空に向かって突き上げると、みんなが「おぉ」とすぐそこの店に買い物にいくくらいの雰囲気でこたえる。


 なんだか気合いの入らない掛け声だったが、それで十分だったらしい。というか、彼らには狩りでさえ遊びだったのかもしれない。


「じゃあ、俺が案内する」

とユージがいうが早いか、地面を蹴った次の着地は信じられないほど先だった。その背中をおって、子供達全員があっという間に見えなくなってしまう。


(普通、自分達のペースでっていうときは、ゆっくりやるときなんだよ!! ちくしょう~。なんて早さだよ!)


 身体強化を使った、彼らのペースについていけるものなどいない。いや、ここに集まっているのは冒険者だ。潜っているのは初級ダンジョンとはいえ、剣を振るうときなどの一瞬の身体強化なら出来るというものもいる。

 しかし、あのままのペースで走るとなると……。どれだけの時間、身体強化を維持しなければならないのだ?


 一緒に来ていた先生というのも、とんでもない人物だったのだろう。ユージ達が宿屋の入口にいるときには姿を見かけたのに、すでにいなくなってしまった。いついなくなったのかもわからずに。


 集まっていた皆は顔を見合わせてから、バラバラと散っていった。


(仕方ない。ダンジョン行くか)


 ユージ達が気になるので、いつもより早く帰ってくることを決めた。

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