第46話 いつもと様子が違う

 今年も作物の育たない時期になってしまった。

 ユージが、エインスワール学園を受験したのは、去年のことだ。結果を聞かずに、宿を後にしてしまったので、どうなったのかわからない。

 息子のようなユージが、世界一といわれる魔法学校に合格していたとすれば、それはそれは嬉しいことだ。喜んでやらなければならないことはわかっているが、同時に寂しくも思う。


 ただ、こんな田舎の少年が、エインスワール隊、直々の声掛けであったとしても、合格するとは思えなかった。もし、合格していなかったら、どう声をかけたらいいんだ?


 複雑な気持ちを抱えたまま、行きつけの宿屋に到着する。


 受け付けのときに辺りを見回したが、ユージの姿は見当たらない。

 いつも忙しく仕事をしているので、たまたま居ないのか、それとも、合格して今は遠くに住んでいるのか?


 女将は、ユージの母親だとわかっているのに、直接聞く勇気もなく、とりあえず、手持ちのお金で五泊分の支払いを済ませた。



 夕飯を食べに食堂にいると、違和感に気がついた。


 部屋が寒い気がする。


 安くていい宿なのだが、一番いいのは、薪を惜しげもなく使ってくれるところだったのだ。

 その薪も、ユージが夏の間に作って乾燥させたものだと知っていた。


 ユージはよく働くやつだから、余裕をもって薪を集めていたのだろう。なくなる心配をすることなく、どんどん薪を継ぎ足していた。


 去年、これでもかと薪が積み上げられていたストーブのとなりには、ちょこんと薪がおかれている。


 あれが、今晩の分ということだろうか。


 もう、この頃には、ユージがエインスワール学園に合格して、今は宿を手伝っていないということに確信を持っていた。


 ユージの弟かと思われる子供二人が、連れだって薪ストーブの加減を見に来ていたが、新しい薪を付け足すことなく戻っていってしまった。


 今は冬が始まったばかりだから、これでも凌げる。寒くなってもこのままでは、この宿にはいられないな。


 今までユージに会いに来ていたってところもある。愛着のある宿だったのだが仕方がない。


 新しい宿を探すのも大変だ。宿屋の女将に更新しない旨を伝えるのも気が引けるが、寒いのはいただけない。





 明日になったら、この宿を引き払うと伝えなければならない。この数日で到着した客も、去年との違いに困惑しているのが手に取るようにわかった。


 この宿での最後の夕飯。さて、何を食べるか。


 そう思うと、食べておきたいメニューがいくつかあり、決められない。


 俺が一番好きなメニューは昨日も食べた。ユージが好きだったメニューにするか。初めてあいつに分けてあげたメニューでもいいな。


 そんなことを考えながらメニューを眺めていると、手紙が届いた。


「エインスワール学園からだわ」

 女将の呟きが聞こえる。


「兄ちゃん??」


「いえ。学園からなのよ」


「何かあったのか??」

 宿屋のおやっさんも出てきてしまった。ユージのことを知っている客も気になったのか、ソワソワしながら目線を送っている。


「とにかく、早く開けろ」


 おやっさんの一言で、女将さんが封筒を開ける。手が震えていた。


「ふ、封筒?? はっ!! ユージからだわ!!」


 学園からの封筒の中から、ユージからの封筒が入っていたらしい。


「あんだよ、ビックリさせやがって!! んで、ユージは何だって?」


 女将さんが、ビリビリと封筒を破いているのが聞こえる。慌てすぎて、うまく開けられないようだ。


「これ、あなた」

「んん?? 何だ?? ユージが長期休暇に帰ってくるって。しかも友達つれてくるらしいぞ。ユージいれて、七人だ!! おい! そんな場所あるか??」


「あまり人気のない部屋なら、まだ空いてるわ」

「そこって、広い部屋だよな? 二部屋押さえておけ。長期休暇は今日かららしい」


 ダンテは、考える。おやっさんが人気がないって言っている部屋は、食堂からはなれていて寒い。広いのも部屋が暖まらない理由だと思う。なんていったって、すきま風がそこそこ入るのだから。


 それでも、ユージなら何とかなると思ってしまうから不思議だ。


「兄ちゃんが帰ってくる!!」

「よかった~。これで何とかなるね」


 ユージに比べると、かなり小柄な弟二人が、コソコソと何か話している。


「じゃあ、お前いってこいよ」

 少し大きな次男が、三男に命令している。


 三男はすごく嫌そうな顔をすると、わかりやすく悪態をつきながら出ていった。


 しばらくすると、両手にいっぱい、薪を抱えて戻ってくる。

 三男が持ってきた薪を次男が奪い、ストーブに突っ込んだ。


 メラメラと燃え上がる炎が食堂の中を暖めていた。あのあと、弟たちは、代わる代わる来ては薪を突っ込んでいった。


 さっきまで、あんなにケチっていた薪を、どんどん継ぎ足して大丈夫だろうか?

 ユージが帰ってくるとはいえ、こんな天気では薪をとることも、ましてや乾燥することなどできないだろうに。


 ダンテは、先程まで宿屋を代えようとしていたことなど忘れて、自分の好物を堪能していた。

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