第40話 作成依頼
食堂にはライアの班とニーナの班の12人が集まっている。ライアの班は魔道具班なだけあって、体力自慢というよりは、武器を使って戦うタイプが多いようだ。魔道具と思われるメガネを額につけている先輩もいる。
全員での話し合いになったのはライアだけでは、対処できそうになかったからだ。
食堂が夕食時で混み合うなか、イアンにライアとの交渉をお願いした。
「兄さん、ちょっと相談があるんだけど……」
嬉しそうに振り返ったライアは、班のみんなに断ると、イアンと夕飯を食べることにした。
「実は、兄さんに魔道具をつくって欲しくて」
イアンの説明にライアは渋い顔をした。
「俺の手に終える範囲じゃなさそうだ。時間がかかってもよければ、俺が方法を探してもいいけれど……。急いでいるんだよな??」
イアンが頷くと、ライアは仕方がなさそうに頭をかいた。
「班への依頼だと、お金がかかるんだけどいいかな?」
「お金?」
「そう。いくらになるかは、話し合ってみないとわからないけど、高額になると思うんだ。しかも口座振込みを指定するから、まだダンジョンに入れないイアン達じゃあ、貯めるのは大変だと思うけど」
課題が進んでダンジョンに入れるようになると、装備を揃えなければならないらしい。それも、エインスワールの紋章が入ったものでないと、ダンジョンへの立ち入りが許可されない。
紋章入りは、ダンジョンの事務所でしか手に入らず、口座からしか支払いができない。
口座からの支払いしか受け付けていないのは、親からの仕送りやおこづかいで装備を揃えることを防ぐため。それに、薬草や町の依頼をこなすことで、お金をかせぐ方法を学んで欲しいということらしい。
普通の班は、ダンジョンに入れたら、魔物を刈って稼ぐらしいのだが、魔道具班であるライアの班は、依頼や魔道具製作の方が稼ぎが多いらしい。
「う~ん。それでも早く欲しいんだけど」
「しょうがない。イアン達の課題が遅れるのが心配なんだけど、班のみんなに相談してみるよ」
そう言うとライアは、今のうちにやっておいた方がいいことを少しだけ教えてくれた。
「ところで、依頼内容をもう一回確認してもいいかしら?」
きつめのウェーブがかかった紅い髪の先輩が、テーブルに頬杖をつきながらこちらを見てくる。
「お腹にある魔方陣から、意図していなくても精神魔法が発動されて困っているんです。魔法を遮断する魔道具があるって聞いて、作ってもらえないかと。後輩価格にしてもらえたら助かるんですけど」
イアンが代表して依頼を伝える。3班には心配するような、息を飲む雰囲気が広がっていた。
眼鏡の先輩は「う~ん」と唸ると、紅い髪の先輩と話し始めた。
「俺の専門じゃないが、ジョン・クラフトの魔道具書にそんな効果の魔道具が載ってなかったか?」
「あの、温冷一緒に調理できるとかっていう、変な魔道具のことかしら? 一緒にする必要ないのでは? って思って、真剣に考えたことなかったけど」
「そのまえに、保冷の魔道具の外側に施すと、冷たさが逃げないとかなんとか」
「あぁ、確かにそんなこともあったわね~」
ニーナ達にはわからない話が始まってしまった。
3班が意味もわからず話しつづける先輩を見ていると、ライアの班員にも、呆れた顔をするものが現れる。その先輩がライアを肘でつついた。
「二人とも。とにかく値段とかそう言ったことを決めないと」
ライアが助け船を出してくれた。
「じゃあ、後輩価格とは言わずに、弟価格で5万エルでどう? 研究費込みだから、これでも破格なのよ。だから、二枚目以降は私たちから買うって約束してくれないかしら? あっ、二枚目以降は研究費はないから、同じものなら1万エルでいいわ」
紅い髪の先輩には、どんな魔道具になるかイメージができているようだ。
3班は値段を聞いて、それぞれが頭の中で、一日中薬草をとったとして、かかる日数を考えた。二十日間くらいだろうか。薬草を採り尽くしてしまうことを考えたら、もっとかかるかもしれない。
「5万……」と、カレンが小さな声で呟いた。
「先輩!! よろしくお願いします!!」
ニーナが、頭をガバリと下げた。ストロベリーブロンドの髪が揺れる。
「でも、お金が……」
カレンが止めたが、ニーナはお構いなしだ。
「カレンと一緒に出掛けるの!! 今なら、長期休暇には間に合うでしょ~!!」
「そうだな。ユージの実家に行くんだよな」
イアンが同意すると、ユージが、
「それって、決定事項だったのか??」
と、変な声を出す。
「お金のことは、こちらで話し合うんで、魔道具作成、よろしくお願いします」
先輩方は穏やかに微笑んで、「私たちも、いいものを作るわよ~!!」と、拳を振り上げる。
「形は、腹巻きがいいと思うのよ」
「今の時期はいいけれど、夏には暑くないかい?」
「その場合、服に熱の魔方陣を仕込めばいいじゃない」
熱の逆張りで、冷やすらしい。
「動力はどうするのよ? お腹のところに魔石があったら、ゴロゴロして邪魔じゃない?」
「あぁ、確かに。じゃあ、腹巻きはやめて、下着にして肩の辺りからアクセサリーのように出すか?」
「ワンピースとかみたく繋がっていなければ、お腹から出してもいいのよね? じゃあ、線を伸ばして魔石入れをピンで服に留めるようにすればいいんじゃないかしら? 魔石の色を変えれば、アクセサリーよね?」
値段を聞いてから暗い顔をしていたカレンが、少しずつ顔を上げて、嬉しそうに目を細める。
おしゃれができるというのは、嬉しいことなのだ。特にカレンは、いつもおしゃれに気を使っているのだから。
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