第39話 垂れ流し
ニーナの作り出した魔方陣から強烈な光が発せられた。
「まぶしい~!」
「ニーナ、ストップ、ストップ!!」
ニーナはしっかりと右手を握り、魔方陣を閉じた。
「あら、あら、ニーナちゃん。課題6、合格よ」
少し残念そうにいうカーシャ先生。未だにニーナを練習場の後継者にしたいカーシャ先生は、課題に合格しないのも困るが、早く合格しすぎて特別課題まで突破してしまうのも困るのだ。
ニーナが魔力制御の練習をしている間にも、課題の対策はしていた。
『水』の魔法で魔力制御の練習をしてしまうと、ビショビショになってしまい練習どころではなくなるので、練習所が使えなくなる直前にしていた。それまでの時間は、ニーナは魔方陣だけだが、ほかのメンバーは課題を先取りして練習していたのだ。
ありがたいことに、1班と2班が先に課題をこなしているので、何が課題になっているのかはわかりやすい。
1班は課題15くらい、2班は課題10くらいまでは到達していそうだ。
3班は、大幅に遅れているようだが、ここから巻き返していく予定。
「次の課題は、野生動物のテストだなぁ~。午後は図書室にでもいってみようか」
課題対策は、イアンにお任せだ。
「野生動物って、ダンジョンにいる魔物以外の動物ってこと?」
「そうだな~。魔石をもたない動物ってことだと思うんだよ」
「リスとか、ネコとか?」
ニーナが可愛い動物を想像して口許を緩めていると、ユージがガバッとこちらを向く。
「えぇ~!! そういう愛玩動物なのか?? 食用になる、イノシシとかシカとか、そういうのじゃ??」
「薬草みたいに、自分達で食べ物くらいなんとかできるようにって?」
肉屋で捌いているのを見たことはあるが、野生動物を食べると言われても想像がつかない。
もしかして、ユージは捌いたことがあるのだろうか?
「そうそう、そうやつかと思ったんだけど」
ニーナ達が、課題について話し合っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「カイト先生~!!」
先生らしき人が、カイト先生の名を呼びながら食堂のなかをさ迷っている。
「ここです!」
カイト先生が、手を上げて立ち上がると、その女の先生は駆け寄ってきてカイト先生に耳打ちした。
カイト先生がお礼をいうと、食堂の椅子に座り直す。
「早く食べよう。ニーナの母親が来てくれたようだぞ」
「わぁ~。本当に??」
出してきた手紙の返事を待っていたのだが、直接来てくれたようだ。
掻き込むように昼食を食べ終わると、急いで応接室に向かう。
ノックをするのも忘れて、応接室のドアを開ける。カイト先生が咎めるように名前を呼んだが、逸る気持ちは押さえられない。
「お母さん!!」
ニーナの呼び掛けに、ゆっくりと振り返ったのは、ニーナによく似た、茶色い髪の女性だった。
ニーナからは考えられないほど、のんびりと頬に手を当てると、ゆっくりと口を開いた。
「ニーナったら~。慌てすぎよ~。皆に迷惑かけてないかしら」
「迷惑なんてかけないよ!!」
班の皆から、少しだけ呆れたような空気が漂う。
母さんは立ち上がると、深々と頭を下げた。
「ご迷惑をかけているようですが、これからもよろしくお願い致します」
「ええええ~!! 母さん!! 迷惑なんて、かけてないよぉ~!!」
「ははは、ニーナは、色々やりますが、お互い様なんで」
イアンが落ち着いた口調で答えると、ニーナが頬を膨らませて「んぅ~」と唸る。
「あぁ、そう、そう。これが皆へのお土産よ」
箱を開くと、きれいな石が。
「魔鉱石ですか?」
ユージが箱を覗き込むと、驚きの声を上げる。
「そう。ガジェット鉱山にあるダンジョンへ出張していたのよ。だいぶ前から、ダンジョンで異常が発生していたようで、その調査だったんだけど、そこで採れたものだから、一つずつ選んでくれるかしら?」
ニーナが赤い透明なものを選ぶと、皆それぞれ好きな色のものをとる。
選ぼうとしないミハナを振り返ると、歯を噛み締めて辛そうな顔をしていた。
「ミハナ?」
「ガジェット鉱山って……」
「ここからだと、北東にある上級ダンジョンよ。これはダンジョン産だけど、普通の鉱石もあるから、女の子にも人気な観光地になっているわ」
「そ、そうですね…。ありがとうございます」
ミハナは、なんとか言葉を絞り出した。
「ミハナ? どうしたの?」
慌てたように頭を振ると、カレンに目を向けた。
「なんでもないよ。それより、カレンについて、ニーナのお母さんは何か知っていそうなの?」
「あぁ、アンティーク被害かもってことよね。魔法の発生場所が知りたいだけど、一度見せてもらえないかしら?」
「あの、私のことです。どうすればいいですか?」
小さく手を上げるカレンは、目を合わせずにオドオドと話す。
「うんと、ニーナ曰く、垂れ流しだってことだけど……」
「垂れ流し……。確かに、そうね。ちょっと喋っただけでも、魔力の少ない人には効果があるようなの」
「う~ん。敢えて、魔法を使うことってできるかしら? あぁ、私のことは気にしなくて大丈夫よ。ニーナほどじゃないけれど、魔力は多いから」
その言葉に、カレンの強張らせていた表情が緩む。
「ユージ、私を誉めてくれるかしら?」
「いきなり、俺かよ!?」
ゾワゾワ~っと嫌な気配が漂ってくる。
「あら~。原因はアンティークって言うから、もっと小さいものかと思えば、お腹全体に広がっているようよ」
アンティークにより魔法をかけられてしまった事例を見たことがあるそうだが、拳くらいの大きさだったようだ。それが、お腹全体に広がっているので、魔方陣が大きく効果も強いらしい。
「赤ん坊のときに魔法を受けたのかもしれないな。成長で大きくなってしまったか?」
カイト先生が首を捻る。
「う~ん。可能性はあるけれど、悪意を感じるわね~。まぁ、アンティークなんて悪意の塊よ。たしか魔道具に、魔法を遮断するものがあったはずよ。かなり特殊で、作れる人が限られるのだけれど。それではダメかしら?」
魔道具といえば、イアンの兄の出番だ。ライアに直接依頼して、いい方法がないか考えてもらうことになった。
お金は………、結構高かった。
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