第38話 日帰りの里帰り
広い階段をかけ降りる。そのまま、商店街の噴水まで、急ぎ足でやってきた。
ここで王都の方へ方角を変えれば一本道。
王都と学園都市は隣同士とはいえ、まだまだ長い道のり。
「午前中のうちには着きたいけど……」
小さく呟くと、気合いを入れ直して歩き始めた。
乗り合い馬車はあるが、途中で乗り降りのために止まる。歩かなくていいのは楽だが、はっきり言って、歩いたほうが早い。
小柄なニーナが、大人たちの間を縫うようにして歩いていく。
以前訪れた薬草店の前を通りすぎるとき、そっと中を覗き込んだ。
今日は、貫禄のあるおじ様の接客をしているようだ。
少しずつ店は減ってきて、住宅街に変わっていく。
それでも王都と学園都市を繋ぐメインの通り。人通りは途切れない。
前を歩く人に遅れないように、小柄な体で足を動かす。
「絶対、指輪だけは、はずすなよ」
学園をでる前、カイト先生がうるさかった。
もちろん、外すつもりはないのだが、カイト先生の心配性が爆発したようだ。
「本当に、一人で大丈夫か??」
何度聞かれたことか……。
ユージがついてきてくれるといったのだが、そうするとレインがついてくると言い出して……。そうしたら、皆で行く方がいいが、カレンは外に出たがらない。
結局ニーナが一人で行くのが一番いいと思い、意地を張るように一人で飛び出してきた。
住宅もポツポツと隙間が空き始めたと思ったが、また住宅が増え始め、小さな商店街が現れる。
この街道は、行き交う人も多く、ニーナもたくさんの人や何台もの荷馬車とすれ違った。
小さな商店街をいくつか通りすぎたあと、住宅の密度が増していき、王都特有のぎゅっと詰め込んだような町並みが現れる。
ニーナの生まれ育った町の雰囲気に、懐かしさを覚えながら自宅に続く横道にはいる。
いつもと変わらない景色の中に立っていることに、ソワソワとした違和感を感じていたが、近所のおじさんに声をかけてもらえた途端に、帰ってきたんだと実感した。
自宅の玄関の呼び鈴をならす。
なんの返事もない。
わかっていた。
母さんは仕事だ。
昨日の夜にかいた手紙をポストに投函して、来た道を帰る。
「あれ?? ニーナちゃん、もう帰るのかい?」
「あっ、おじさん。母さんに用事があって。手紙をいれたから大丈夫です」
「そうかい。届けに来たなら、ゆっくりしていけばいいのに」
郵便を頼むこともできるが、ある程度の量を集めてから運ぶので、5日ほどかかると考えた方が無難だ。それを考えれば、自分で来てしまった方が格段に早い。
「明日も学校があるんです。だから、大丈夫です」
「ニーナちゃん、しっかりしちゃって~。学校頑張んなよ~」
「はぁ~い」
後ろ髪を引かれる思いを断ち切りたくて、足早に通りすぎた。
母さんとは手紙のやり取りをしているし、いつもは班のメンバーと部屋まで一緒なので寂しいと思っている時間がない。
「ゆっくりしてもいいけれど、皆も待っているし帰ろうか」
小さく呟くと、皆の顔が思い浮かんだ。
行きにも通った道だからだろうか? 少しだけ近く感じる。歩く以外にも景色を見る余裕もでてきて、お店やすれ違う人を見ながら足を進めた。もう半分くらい来たんじゃないかと思った頃、後ろを歩いている人が、行きと同じ人のような気がしてきた。
身なりは、冒険者。腰に剣を下げ、体のラインに沿った動きやすそうな服装。胸やお腹を守る、簡易的なプロテクター。ただし、その質は一流のもの。防具に詳しいわけではないのだが、すれ違っている冒険者とは物が違うのがわかる。
あんな、知り合いはいないし……。ちょっと走ってみようか。
そう決心するが早いか、ニーナは走り出した。
しばらく走って振り向くと、いなくなっていたので気のせいだったのだろう。
そのあとは、歩いて学園まで戻った。
「ニーナ、お帰り。お疲れさま」
レインが、差し出す手を握る。嬉しそうにニヤリとするが、いつものことなので気にしない。
「お腹減った~」
「あれ? お昼、もっていかなかった?」
ミハナは不思議そうにするが、お弁当は持参した。それでも、動いていればお腹は減るというものだ。
「食べたけど、減ったの!!」
「食いしん坊さんね~」
いつもの調子を取り戻した、カレンに安心してしまう。
「なんか、つけられた気がするんだけど……」
「えぇ~!!」
「ニーナを??」
驚きつつも、そんなわけないだろうと目が物語っている。
「うわ!! つけられたなんて、気のせいだろ?? 人が多いから勘違いしたんだろ??」
不自然なほど慌てるカイト先生のこめかみには、一筋の汗。
「先生、なんか知ってます??」
「知ってるわけないだろ?? んで、宮廷魔道師だって言う親には、会えたのか??」
「あやしい~!!」
「怪しくない! んで、会えたのか??」
「仕事中だった。手紙置いてきたの。んで!! 先生、何、隠してるんですか??」
「じゃあ、返事待ちだな!!」
そう言い残すと、「じゃあ、明日」と足早に立ち去ってしまった。
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