第37話 なんだってするよぉ~
「行かなくてもいいんじゃないかしら? どうせ、会話にならないのよ」
「そんなことないよ。カイト先生、魔道具用意してくれたって言っていたし」
「それでもよ~」
グズグズ言うカレンを引っ張って応接室につく。
扉を開けて中に入ると小太りな男が、バタバタと立ち上がる。カレンに近づき、ハグをするように腕を回した。
「カレン~!! 元気にしていたかい?? 困っていることはないかい?? 欲しいものはなんだい??」
カレンは、大きなため息をつくと、
「パパ~、やめて~。欲しいものは、ないわ」
カレンのパパは、天を仰いで額に手を当てる。
「そんなぁ~。寂しいことを言わないでおくれよ~。何でもいいんだよ~」
「困っていないわ」
「何かあるだろ?? 遠慮せずに何でも言っていいよ~」
「だから……」
といいかけて、カレンは盛大にため息をついた。
ニーナが、カイト先生の袖をチョイチョイと引っ張る。
「ねぇ、カイト先生?? 魔道具、持ってるの?? 壊れているんじゃない??」
「いや~、おかしいな」
魔道具を確認しようとする先生に、カレンが「これなら魔道具が効いているわよ」と、疲れた表情で呟いた。
「いつもなら、欲しいものがないって言った時点で、『パパには価値がないんだ~!! 自害する~!!』って大騒ぎになるのよ」
カレンがパパの真似をして言うので、その様子が鮮明に思い浮かんでしまい、皆でゲンナリとしてしまう。
「お父様。カレンさんもこう言っていますし、学園では衣食住は揃っていますので」
「そうかなぁ~」
「欲しいものではありませんが、お父様には、助けていただきたいことがあるんです」
「なんだい? なんだってするよぉ~」
カレンの助けになるのが嬉しいのか、カイト先生に向かってズリズリと近づく。
「ち、近いです……」
カイト先生はカレンのパパを押し返すと、真剣な表情をした。
「伺いたいことがあるんですが、カレンの体質は、いつからですか?」
「いやぁ~。自分がかかっているときには気がついていなくてねぇ~。使用人の行動がおかしいと思ったときは7歳くらいだったかな~」
「では、それより小さいときですか……」
しばらく考えたのちに、カイト先生は口を開いた。
「実は、生まれつきカレンさんのような症状の事例は、一件も見当たりませんでした。逆に後天的な事例は、過去にもあったそうです」
カイト先生が、自分のパーティーメンバーに頼んでしらべてもらうといっていたので、その結果だろう。まだ、曖昧だといっていたが……。
「後天的……」
「はい。何か思い当たることはありませんか?」
「例えば、どんなことでしょうか?」
「刺青や服への刺繍という可能性はありますが、誰かが気がついているはずです。可能性が高いのは、アンティークですね」
アンティーク……。
アンティークとは、500年ほど前に作られた家具などのことを指す。特に、精巧な作りの小箱のことを指すことが多い。
その小箱は、小物入れほどのサイズであるが、物を入れるために作られたものではない。今は失われてしまった、というより、使うことを禁じて意図して失った、魔法が込められていた。
箱を開けると、開けた者に対して何らかの魔法が発動する、
中に入っている紙吹雪が舞うなど可愛らしいものもあったが、中には即死の魔法が発動するなど人道的に問題のあるものだった。
生きている人で実験し、何代にも渡って研究したであろう綿密な魔法は、その非人道的な理由から、法律ができると共に規制された。研究しようとするものが現れても、見つかり捕縛されることで、研究が完成することはなかった。そのため、今では原理もわからない魔法となっている。
ただし、そのとき作られた
「うちは、アンティークを扱っていましたが、必ず開けて危険がないことを確認しています」
カレンの家は、絵画や装飾品を扱う商会だ。見る目を養うため小さい頃から、売り物に触れさせていた。
「箱の中身が、精神魔法だったからだと思っています」
そこで、一度言葉を切ったカイト先生は、カレンに安心させるように微笑む。
「精神魔法は、かけた魔道師より魔力が少なくないとかからないという特徴があります。
開けられない状態で、エインスワール王国に流れついた時点で、大人が開けてもなにも起こらない。魔法が残っていると気づかれなくなってしまった。
それを、幼児のカレンが開けてしまったのだ。
まだまだ、成長途中、魔力の少ない時期にその
「あっ……。いつ……?」
自分のせいだと呆然とするカレンのパパに、カイト先生は「もう過ぎたことは仕方がない」という。
冷たいことをいうと思えば、これからできることを考えるべきだと。
「残念ながら、エインスワール隊は冒険者が主体で、検査や研究は、ほかを頼った方がいいと思うのです」
無言になってしまったパパに代わり、カレンが聞いた。
「何とかなるんですか?」
「検査は、宮廷魔道師のほうが得意なんだ。知り合いに頼んで、来てもらおうと思う。ちょっと時間がかかるから、待っていてもらえるか?」
ニーナにとって、宮廷魔道師は身近な存在だった。
「宮廷魔道師ですか? 私、母を呼んできます!!」
今にも駆け出しそうなニーナに、カイト先生が慌てる。
「ニーナ!! 待て! 待て!! 宮廷魔道師なら、王都に住んでいるんだろ? 明日にしろ!!」
今から往復することを考えると、帰ってくるころには日が暮れてしまうだろう。
ニーナは渋々といった様子で、「はぁ~い」と返事をした。
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