第36話 朝食の一幕

「お腹へった~」

 食堂へ続く階段を降りながら、ニーナが欠伸を噛み締める。


「今日は何をしようか?」


 ニーナの魔法制御の練習は少しずつ進歩を見せ、昨日ついに課題4の『熱』魔法に挑戦する許しがでた。もちろん、変な格好をしなくても魔力制御ができるようになっている。


 早く、課題4を見てもらいたい気持ちはあるものの、定期的に休みを取るカーシャ先生に合わせて、3班は休みの予定だ。


 男子3人は、町に行くはず。休みの度に、町に遊びに行っている。


 世間知らずだったレインも、買い物や人との付き合いになれて、最近では少し大人っぽくなってきたようだ。ご飯がしっかり食べられるのもあって、身長も伸びたように感じるから、なおさらだ。

 ユージも都会の雰囲気になれて、お金を使わないで楽しむ方法を編み出そうとしている。


「う~ん。おやつはイアン君に頼むとして、私たちは、何をしようね」

 ミハナが可愛らしく首をかしげると、カレンが眉を下げた。

「二人は、遊びに行ってきていいのよ。私は、一人でも寂しくないわ」


「カレンは、気にしなくていいの。カイト先生も協力してくれるっていってたし」


 カレンはあれから一度も、学園から出ようとしない。

 カイト先生も、カレンの体質について調べてくれているらしいのだが、まだ曖昧な情報しかないと言っていた。




 朝御飯をもらう列に並ぶと、いい匂いが漂ってくる。

 ハムを焼いたものに、目玉焼き、厚切りトーストにトマトのサラダ。

「ニーナ、おはよう。今日は玉ねぎのドレッシングがあったよ」

 サラダにかけるドレッシングを選んでいると、レインが隣にきていた。肩がふれあい、魔力がスーッとうつるのがわかる。


「美味しそうだね」


「おすすめだよ」


 レインおすすめのドレッシングをかけると、定位置と化したテーブルに向かう。


「おっ! おはよう!」


 いつもの場所、レインの隣にお盆を置いて座ると、レインも食べるのを再開した。


「今日は、ワッフルを買ってみようと思っているんだけど、ワッフル好きだよね?」


 イアンが、トーストにかぶりつきながら聞くのでで、ニーナもミハナも大喜びだ。


「せっかくだし、二人も行ってくればいいのよ?」

 カレンの笑顔がぎこちない。


「カレンは、食べられるだろ? 買ってくるから、おやつに食べよう」


「う~ん。でも……」


 レインが、「そうだな~」と目を細める。

「カレンは、笑顔がかわいいよ。笑って」


 カレンは、飛び出てしまうのではないかと思うくらい、目を見開いた。


「どこで覚えてきたんだよ~」

「俺、知らないぞ」


 ユージとイアンが言い合っている間に、カレンは気を取り直したようだ。


「レインに言われちゃお仕舞いよ~。いいわ。皆には甘えることにするわ。少しくらい図々しくたって、いいわよね」


「それでこそ、カレン」

とミハナが嬉しそうにし、皆も頷く。


「その代わり、ユージも図々しくていいのよ」


 「ふん」と鼻をならすカレンに、ユージは「お、俺!?」と、慌てる。


「あぁ、でも、カイト先生が慌ててるよ」

 レインが示す方向を見ると、キョロキョロと混み合う食堂を進むカイト先生が。

「やな予感がするよな」

 ユージの言う通りだ。



 キョロキョロしていたカイト先生が、3班を見つけて、ほっとした顔をする。

「あぁ、よかった。まだ一緒にいるな」


「カイト先生~。早すぎですよ~」


 先生は、町に行くメンバーに付き合うはずだ。


「あぁ、その予定だったんだが、カレンの父親がきている。もう応接室にいるんだ。なるべく早く食べて、来てくれ」


「最悪よ……」

 カレンが、顔をしわくちゃにする。


「カレン、美人さんが台無しだよ」


「レイン……。だから、どこで覚えたんだ?」

 ユージが頭を抱えた。

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