第35話 先生の奢り

「俺は、会いに行ってもいいと思うけどな」

 ユージが穏やかに言うと、

「皆で会いに行けばいいよ」

 イアンも足取り軽く同意する。


「ユージんち、みたいに??」

 ニーナはそのまま、嬉しそうに「わぁ~い!」と手を上げ、一緒になってレインも喜んだ。


「皆も来てくれるのかしら?」


 それぞれ頷く班のメンバーだが、カイト先生が、

「まっ、そのときは、俺もついていくさ」

と、目を細めて優しい顔をした。




「よ~し!! つぎ、どこ行く??」


「薬草、見に行こうぜ!」

 イアンが言うので、途中で屋台のご飯をつまみながら、薬草店を探す。


 課題3は、薬草テスト初級だったので、中級や上級があると見越して、勉強がてら行きたいと言うのだ。


「あ、あれは?」


 緑色を基調とした、ガラス張りの建物には、薬草の文字が。


「あったぁ~」


 駆け寄ってみると、様々な種類の薬草が、ところ狭しと並んでいる。籠や箱に入っているだけのものから、透明な瓶に入って厳重に保管されているものまで。周囲には薬草のにおいが混ざって漂っていた。

 傷薬の軟膏なども、売っているようだ。


「あれ? ハート草って、こんなに高いの? 売るとすごい安いのに」


 100エルで売ったくらいの量で、1000エル以上している。


「あぁ、事務所のお姉さんに聞いたんだけど、学園の買い取りは、普通の半分から三分の一だってさ」


 ユージはなんでもないことのように言うが、ニーナは納得できない。


「えぇ~!! じゃあ、普通のところで売った方がいいじゃん」


 ユージは小さくため息をついて、小さい子に言い聞かせるように話す。

「未成年の俺たちは、学園じゃないと売れないよ」


「あっ……。そうだった」


「まぁ、差額は、学園の運営費用になっているらしいから」


「え~!! カイト先生、納得できませ~ん!!」


 今度はカイト先生に文句を言うニーナに、先生はしかめっ面をする。


「はぁ~! 俺に言うなぁ~。俺だって、学生の頃は何でだ??って、思っていたんだから。まぁ、真面目な話、冒険者にも色々いて、その日のご飯代を稼ぐのも大変な冒険者もいるんだ。お前たちが冒険者となってダンジョンへ行く頃には強くなっていると思うが、そういう冒険者のことを思いやれる心を育ててるんだと思うけどな」


「まぁ、俺は、そのお陰で学費無料だから、文句はないですよ」


 ユージの言葉で、ニーナも落ち着く。

 仕送りのために頑張って薬草を採っているユージのために、少しでも高く買い取ってもらった方がいいのではないかと思っただけなのだ。

 この制度のお陰で、学費が無料になるのなら、いいのかもしれない。


「まぁ、そっか……」


 その後、学園では生えていなかった薬草を見せてもらい、効能などを教えてもらった。


 店員さんは、購入するわけではないのに、嫌な顔一つせず説明してくれる。


「ポーション作るときには、うちにおいで。全部揃っているから」


 学園生の行きつけの薬草店だったようだ。





「よ~し!! 先生の奢りで甘いもの食べに行こ~」


 ニーナが拳を振り上げて宣言すると、カイト先生は笑った。


「はぁ、仕方ないな」


「やったぁ~。先生、太っ腹!!」


 ニーナは素直に喜ぶが、ユージは申し訳なさそうに先生をうかがう。


「いいんですか??」


「おっ!心配してくれるのか!? こう見えてもエインスワール隊だからな」


 エインスワール隊として、十分な給料をもらっているという意味だ。


 皆でケーキを食べたあと、果物屋に向かった。課題4から6が伝えられ、課題5が果物テストだったからだ。

 ニーナは、効能や含まれる栄養など、聞いたことが多すぎて、頭がふらふらしてしまい、ちょっと覚えていられそうにない。


 カイト先生は、薬草店でもカフェでも、もちろん果物屋でも、店員さんに魔道具を持たせてくれたが、カレンは店員の前で口を開くことはなかった。








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