第31話 筋トレはポーションの大瓶で
ビショビショになった服を着替えながら、レインがブツブツと呟いている。
課題3のテストを受けに行ったら、他の班に先を越され、テストを受けられなかった。しかたなく、練習場に向かい、ニーナの練習に付き合った。
レインが文句を言っている理由は、ニーナの『水』魔法で濡れたからではない。
この後、トーリ先輩に会う予定だからだ。
学園に来るまで、友人すらいないレインに、なぜイライラしているのかなどわかっていない。もちろん、どうすればいいのかなど、もっての他だ。
脱ぎ捨てた服は、皆で『温風』と『浄化』をかけておく。
「ふん!!」
やたらと気合いの入ったレインは微笑ましいが、そうも言ってはいられない。今のところ、レインの想いは一方通行なのだから。
昨晩、入浴を終え、脱衣所から部屋に戻ろうとしていると、トーリ先輩とすれ違った。メンバーと一緒にお風呂にきたようだ。
「めっちゃ可愛い。ニーナちゃん。しかも柔らかくって、女の子だなぁ~って」
「可愛いよな~。ニーナちゃん、お前と相性いいだろ? 魔力多いんだってな。ニーナちゃんとの仲、応援してやるから、あの綺麗な子、紹介してくれよ」
「それは、いいんだけど、ただな~。あの班、仲いいんだよ~。班員に対抗しなきゃならないのは、きついよな~」
「でも、班内での恋愛って、結局、喧嘩して、うまく行かないだろ?」
「まぁな~」
足を止めそうになったレインを引っ張って、なんとか部屋まで帰ってくると、「思ったより、ライバルは多そうだな」と、イアンが呟いた。
ユージも同感だ。
トーリ先輩が、ニーナを恋愛対象として見ているらしいことは気になるが、ニーナには助けてくれる人が必要だ。
ブツブツいうレインを引っ張って、食堂に行くと、先にお昼を取りに行った。
席を確保して、食べ始めていると女性陣が部屋から戻ってきた。
ニーナは筋トレと言われたからだろうか。細身のパンツ姿だ。
「お待たせ~」
「いや、食べてたから」
「ニーナ、食べすぎちゃダメよぉ~」
「わかってるから~、急いで取りに行こ~」
いつも通りのやり取りだ。
食べ終わってしばらく待っていると、
「お待たせ~。ご飯は食べたよね? それにしても、班全員で待っているとは、思わなかったよ」
「トーリ先輩、よろしくお願いします」
ニーナが、挨拶すると、ユージも「僕たちも参考にさせてください」と付け加える。
トーリ先輩は、集まる視線の多さに驚いて引き気味だったが、すぐに気を取り直したようだ。
「ニーナちゃんには、これを上げるよ」
取り出したのは、細長い瓶。中に液体が入っている。
「これは?」
ニーナが聞くと、トーリ先輩が、
「これを握って、重りにするんだよ」
と、実際に上下させて見せてくれる。
確かに握りやすそうな太さで、重さもある。男の子のトレーニングでは物足りないかもしれないが、小柄なニーナならちょうど良さそう。
動きと、それにより鍛えられる筋肉を教えてもらう。繰り返していると、じんわり効いてきたようだ。
トーリ先輩に教わる間、皆は談笑しながら見ていた。カレンが突拍子もないことを言い出すのは、いつものこと。それをなだめるのは、大抵の場合ユージの仕事だ。レインが大人しかったように感じたが、視線を向ければ必ず目があったので、気のせいなのだろう。
「それって、見たことがある気がするんですけど」
一段落した頃、ユージが首をかしげて切り出した。
「あぁ、これ? ポーションの大瓶だよ。中身は水だけどね。うちの班の備品だけど、たくさんあるから、大丈夫」
ポーションには一回分の小瓶と、数人分入れられる大瓶がある。
「ポーションって作るんですか?」
「ダンジョン行くときには必須だよ。魔力が切れたりなんかしたら大変だろ? ちゃんと、備えていかないと」
「小瓶じゃなくて、大瓶で持っていくんですか?」
ユージが聞いているのに、イアンが身を乗り出した。
「小瓶も持っていくよ。余裕があるときには大瓶から使うんだ。それと、小瓶の中身を使ってしまったら、時間のあるときに詰め替えておけばいいからね」
「そうなんですね」
「ダンジョンは危険なところだよ。準備万端で臨まないと。そうだ。ニーナちゃんは、いつ休日なんだい?」
「休日? いまのところ、ないかも」
「ダメだよ。しっかり休むことも、コンディション調節に大切だよ。毎日やって、うまく行かないときには、一度休んだらいいよ。ダンジョン行くようになったら、意識的に休まないとね」
「そうなんですね」
「次の休みがわかったら、教えてほしいな」
「えっと~」
困っているニーナに、声を発したのはカレンだ。
「ダメですよぉ~。休みには私と買い物に行く約束をしているんで」
腰に手を当てて胸を張り、顎をツンとあげる。
入学したばかりのときに、ヘアアクセサリーを買いに行く約束をしたが、まだ達成されていない。
「そうなのかい? それなら、君も一緒にどうだい? それまでに、美味しいカフェでも探しておこうかな?」
ニーナと出掛けたいだけのカレンは、「う~ん」と悩み始めてしまった。
足元から、ヒヤッとしたものが漂ってくる。
それに、いち早く気がついたのは、カイト先生だ。
慌てて席を立つと、「レイン!!」と、首根っこを掴んだ。
「ひぃや!! カイト先生くすぐったい!」
両側に座っていた、ユージとイアンも急いでレインの手を握る。
レインは魔力食いの能力が高すぎる。無理をすれば、少しの間だけ、空気中からも魔力を吸収できた。それに気付いた、三人が、魔力補給をしようとレインに触れたのだ。
「もう!!みんなぁ~!!」
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