第30話 頑張りやさん

 先輩の様子をうかがい、食べ終えるのを待って声をかけた。

「あの、トーリ先輩。教えてほしいんですが……」


 後ろを振り向いたトーリ先輩は、ニーナの顔を確認すると嬉しそうに笑った。

「あれ? ニーナちゃんだったよね? どうしたの?」

 柔らかそうな金髪が、一房ピョコンと跳ねる。


「この前、教えてもらったんですが、まだうまく出来なくて……」

「魔力制御の話だね。いいよ。あっちで話そうか」


 お盆をもって立ち上がったトーリ先輩に、班のメンバーが、

「片付けておくから、お前は可愛い後輩ちゃんの悩みを聞いてやれよ」

といって、トーリ先輩のお盆を受け取った。


「悪いな。じゃあ、あっちに行こうか」

 少し空いているところに移動して、隣同士に座った。


 まわりには、男女の二人組が多いようで、手を繋いで見つめ合って、二人だけの世界に浸っているところもある。


 ニーナは、頬を赤らめて、なるべく見ないように顔をそらせる。

「そんなに恥ずかしがらなくても。それにしても、ニーナちゃんは、努力家だね」

「いえ。このままでは、ダンジョンで魔法が使えないどころか、『熱』とか、危なくて使うことが出来ません」


 『水』や『浄化』と同じように練習場一杯に効力があったら、熱くなりすぎて、危ないかもしれない。しかも、毎回、レインに止めてもらわないとならない。


「えっと、結構、重症?」

「だいぶ、重症です」

 ガックリと肩を落とした。


 「ほう」と、小さく息をついたトーリ先輩は、テーブルに肘をついて、ニーナの顔を覗き込む。


「ニーナちゃん、頑張りやさんだね」

「足、引っ張りたくないんです」


 トーリ先輩は、優しくニーナの頭をポンポンと撫でた。

 ビックリして、顔を上げたニーナは、口をパクパクさせる。


 父親のいないニーナは、男の人に優しくされ慣れていない。ゴツッとした、大きな手で頭を撫でられて、どうしたらいいのか、頭が真っ白くなる。


 しばらく真っ赤になったまま呆然としていたが、聞きたいことを聞かなければと、口を開く。

「あの、トーリ先輩は、どうしていますか?」


 ニーナに満面の笑みを向けると、

「ちょっと触っていいかい?」


 頷くニーナの二の腕を触って、

「ここら辺に力をいれるんだ。正確には、筋肉に力をいれるのとは違うんだけど、似てるから、いい練習になると思うよ」


 ニーナは、力こぶを作るように曲げて、

「こんな感じですか?」


「あはは。魔方陣を発動しているんだよ。手のひらは前を向いていないと」


 腕を伸ばすと、どう力をいれるのか、急にわからなくなる。

「えぇ~。このままですか?」


「少しくらいなら曲げてもいいけど、魔方陣を発動していることを忘れないようにね。じゃあ、やってみて」


 手のひらは、前に付き出して、二の腕だけに力を入れる。

「ん~!!」

 トーリ先輩は、ニーナの二の腕をムニムニと触りながら、「う~ん」と困った顔だ。

「力が入っていないね」


「む、難しいです……」


「ニーナちゃんが、か弱い女の子だってことがわかったよ。ちょっと、筋トレとかした方が、感覚が掴みやすいかもしれないね。明日の午後でよければ教えてあげるよ」


 ニーナはトーリ先輩と明日の約束をして、お礼をいうと、メンバーのところに戻った。




「ニーナちゃん、どうだった?」

 ミハナ聞いてくれたが、ニーナは浮かない顔だ。


「やっぱりわからない……。二の腕の筋肉に力をいれるのと、似ているんだって。明日、筋トレを教えてもらう約束をしたんだ」


「へ? ニーナ、また、トーリ先輩に会うの?」

 レインが、声を上げる。よくわからないけれど、ムカムカしていたのだ。


「うん。明日の午後に、ここで」


「えぇ~!!」

 レインの小さな抗議に、ユージが背中をさする。「むぅ~」と、ニーナを睨み付けるが、ガックリと肩を落としたニーナには見えていない。


「頑張らないとだよね。『熱』とか、使えないと困るもんね。まずは課題に合格しないと」

 ニーナは、小さく嘆息した。


 この3班で、特別課題まで合格したい。完全に自分が足を引っ張っていると、自覚している。


 レインにも毎回、魔法を止めてもらって、迷惑をかけているし。


 そういえばと、思い出して、レインにそっと手を差し出した。寝るまでに少しでも魔力を渡しておく。いつもの流れだ。


 それなのに、レインはいつまでたってもニーナの手を握らない。


「ん? レイン。魔力は大丈夫?」


「 ニーナなんて、知らない!!」


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