第29話 サルは可愛い

「お前、1班の回復担当になれよ!!」


 そんなマシューの言葉に「むきぃ~!!」と、両手を握りしめて抗議の声を上げるのはニーナだ。

「そんなこと出来るわけないじゃない!! ミハナは、うちの大事なメンバーなんだから!!」


「ミハナって言うんだな。おい!! ミハナ!! うちのスワンと入れ替われよ」

 後ろで、スワンが飛び上がった。


「なんて酷いこと言うの?? 班員でしょ!」


「はっ?? こいつは、1班の落ちこぼれだ!! 足を引っ張ってるんだ! うちの班には、いらないね!」


「ひ、酷い……」

 スワンの顔を見れば、青白い顔で震えていた。

「私も、あなたの言う、落ちこぼれです。『回復』以外はうまく使えないので」


 落ちこぼれだから、もう声は掛けないでくれ。

 そんなミハナの思いはマシューには伝わらなかった。


「謙虚なのはいいことだが、うちの班に来た方がいいと思うぜ。どうせ3班は卒業できないんだ」


 班のメンバーを交換できるなんて思わないが、先生に聞くまでもない。このメンバーで卒業するつもりなんだから。


「むっきぃ~!!」


「うわ!! チビザルだ!!」


「むぅ~!!」


「あら? サルは、可愛いわよね。賢いし」

 背中にミハナを隠したカレンが、頬に指を当て、首をかしげる。

「カレン、そういうことじゃないよ。フォローになってないし」

 小さな声でイアンが、窘める。

「そうなのかしら?? おサルさんは、あんなに可愛いのに、悪口に使ったのね~。酷いわ~」


「えっ? あぁ~?? だからな・・」

 「ふん!」と、顎を上げるカレンに論点をずらされた、マシューは次の言葉が出てこない。


 ガーン、ゴーン、ガーン、ゴーン。


「あら、あら、あら、あら。いつも、いつも、ここで言い争いは、やめてちょうだい」

 出てきたカーシャ先生は、顔をしかめている。


 「喧嘩する人は、課題を見てあげないのよ!」と言い出したカーシャ先生に、慌てて1班が練習場に入った。


「ニーナ、可愛いよ」

 途端に、顔から火が吹く。

「あら、レイン、お熱いのね。私だって、ニーナは可愛いと思っているんだからぁ~」


「カレン、ややこしくなるから、レインに張り合うな」

「あら、じゃあ、ユージが私を誉めてくれればいいのよ」


 一瞬、口を開け、止まったように見えたユージは、すぐに穏やかに微笑むと、

「はいはい。カレンは可愛いなぁ~」


(ユージ……。妹に言っているみたい……)


 カレンも一度、ムスッとしかけたが、「まぁ、いいわ」と矛を納めた。


 練習場に入ると、1班はカーシャ先生に課題を見てもらっていた。『光』の魔法だ。マシューを筆頭に次々に受かっていく。

 最後から二番目の女の子が、不安そうに魔方陣を練習していたが、ちゃんと合格したようだ。


 青白くなったスワンが、ゆっくりと丁寧に魔方陣を発動し始めると、マシューは、「楽勝だったな~。遊びに行こうぜ~」と言い出す。

 その一言に気を取られたスワンの魔方陣は乱れて、もう一度作り直しになった。

「おっ! さすが、1班の落ちこぼれ~。今日中に受かってくれよ~」

 そういい残して、練習場を出ていった。



 肩を落として項垂れるスワンに、ユージが声をかける。

「落ち着け。お前は出来る」


 顔を上げたスワンは、

「3班が優しい~」

と、顔をくしゃくしゃにした。


「俺は、ユージだ。ほら、大丈夫だ」


 スワンは、ゆっくりと頷くと、丁寧に魔方陣を発動して、「光!」と唱えた。

 魔方陣が明るく光る。

「あら、あら、スワンも合格ね~」

 カーシャ先生の合格をもらっても、スワンは喜ばなかった。


「遊びに行くって言ってたし、追いかけなくていいのか?」

 ユージの言葉にも、スワンは首を振るだけ。

「ここにいる」

 結界に寄りかかるように座り込んだ。

「そうか。俺ら、魔法の練習してくるからな」


 ニーナが『浄化』の魔方陣を発動し、試しに唱える。

「浄化!」

 魔方陣が淡く光ったかと思うと、練習場を満たすくらい広がった。

「あら、あら、あら、あら。仕方がない子ね~。合格よ」

 カーシャ先生が、課題に使うために持っていた、汚れたグラスが綺麗になっている。


 スワンが立ち上がって、フラフラと近づいてきた。

「3班って、すごい……」


「進みは一番遅いし、すごくはないぞ。ただ、楽しんでいるだけだ」


「楽しいって、いいな」

 スワンがしみじみと言うと、イアンが

「3班恒例の、ニーナの『水』魔法、見ていくか?」


 スワンがキョトンとしているうちに、準備は整い、ニーナは魔法を発動する。

 吹き出す噴水に、スワンが「うわ~!!」っと楽しそうな声を上げるので、今日は制御しなくてもいいかと、思ってしまうニーナだった。

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